三カ月前だったか、酒をひどく呑み過ぎたのを悔やんで、これからはそうならないようにと、なんだかんだ工夫してやってきたわけです。でも、結局、杯を重ねて勢いがついてしまえば元の木阿弥になる、という中間的結論に達しました。でもあくまで中間ですから、これからも適度適量とは何か、試行を重ねて実証せねばならぬ状況にあります。
奇しくも大伴旅人の酒を讃むる歌十三首を今回で全カバー。万葉集をこんなふざけた読み方をして叱られるかも分かりませんけど、逆に、こんな勝手な味わい方もできるんか、と大きく捉えて頂ければ幸いであります。
【和歌のスタイルで表現してみた】
■Usage #41
物も良いが気持ちも大事ぞ、の心として
この楽器ぞよしといふとも録音して 耳を遣るにあに及めやも
[元歌]
夜光る玉といふとも酒飲みて 心を遣るにあに及かめやも(万346)
意味:心を和らげるのに、珍しいお宝と酒のどちらが良いか比べると、やっぱ酒でしょう。
[解説]
まだ若くて楽器に使えるお金があった頃は、これこそまたとない楽器だ、と思って購入すること度々でした。しかし、弾いては録音し聞いては弾くを繰り返す練習法に変えてから、手持ちの楽器をどう弾けば耳に優しい音で鳴らせるかに気持ちが向きました。気づけば購入より売却、人生の暮れとは減らすことと見つけたり。と言いつつ今夜も一杯。
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■Usage #42
独り遊びもオツなもんよ、の心として
世の中の遊びの道の楽しさは、独り悦に入り酔ひ泣きするにあるべかるらし
[元歌]
世間の遊びの道に楽しきは 酔ひ泣きするにあるべかるらし(万347)
意味:心を和らげるのに、珍しいお宝と酒のどちらが良いか比べると、やっぱ酒でしょう。
[解説]
旅人の元歌は酔っ払って泣くのが良いと言っているんだけど、ここでは自分のやっていることに酔う、という意味。付加価値づくりに頑張っている世の中の大きな流れとは離れたところで、人に見向きもされなくても拗ねることもなく独り遊びの悦に入る。これも晩年系の人には大事な能力なのではないか、と思ふ。
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■Usage #43
今もこれからも楽しくありたい、の欲深き心として
この世にて楽しくあれば来む世は さらに楽しき今どう支度するらむ
[元歌]
この世にし楽しくあらば来む世には 虫に鳥にも我れはなるなむ(万348)
意味:現世で楽しく生きられるのであれば、来世では虫にでも鳥にでもなりましょう。
[解説]
旅人は、今が楽しければ、来世は自分は虫にでも鳥にでもなって構わない、と仰います。でもこの発想は、楽しい枠が限定されすぎていやしないかと思ふのです。今が楽しいと次は楽しいはずはない、楽あれば苦あり、プラマイゼロの発想ではないか。私はこれはちょっとつまらんな、と思ふのです。今を楽しいと思えるから次も楽しいのでしょう、と考えてはどうでしょう。さあ、旅人さん、どうよ(笑)…とふざけつつ、旅人さんは人の生き死に、情理不条理をたくさん見た人です。その人が来世には虫に鳥にも、と仰る。その悲しさよ。やはり酔い泣きしたくなってもおかしくありません。
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■Usage #44
生者必滅、の心として
命ある者はいずれ必ず死ぬるから この世にいる間は楽しくやろうぜ
[元歌]
生ける者遂にも死ぬるものにあれば この世にある間は楽しくをあらな(万349)
訳は不要と思ふ。。
[解説]
この元歌は、楽しいかどうかを忘れて作業して疲れてしまうことが多い自分にそれではダメだよと注意するため、忘れないよう時々、取り出して眺めます。物が地球の重力で落ちるように、命も重力のようなもので引っ張られていて、それに抗しきれなくなったときに人は死ぬる。だから命の重力に抗し切れる間は、楽しくやらねば。そうそう、そうでしたと姿勢をデフォルトに戻す「教訓歌」。
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■Usage #45
沈黙必ずしも金ならず、の心として
黙って考えている顔をするよりも 思ったことを口にする軽さになほ及かずけり
[元歌]
黙居りて賢しらするは酒飲みて 酔ひ泣きするになほ及かずけり(万350)
意味:賢ぶってだんまりを決め込む人は、酒を飲んで酔い泣きするような開けっ放しの人に及ばない。
[解説]
元歌は黙って居る人がダメだと言っているのではなく、酔って泣くような一見ダメな人には及ばないよ、と諭す歌。いろんなタイプの人の上に立つ旅人の言葉には滋味のような優しさが漂っています。とまあ、これは私の印象なので、みなさんはどうなんでしょう。沈黙は金だったり、口にするほうが良かったり、TPOで変わります。旅人は酒を讃むる十三首の歌を宴会でお披露目したそうです。きっと旅人は「この宴会ではみんなで盛り上がろうや、賢しらぶりはやめてくれや(笑)」と伝えたかったのでしょう。
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■付録
大伴旅人が仕えた天皇、上司。。
・ 文武天皇(もんむてんのう/683 – 707)第42代天皇。父親は草壁皇子。
・ 元明天皇(げんめいてんのう/661 – 721)第43代天皇。父親は天智天皇。草壁皇子の正妃。文武天皇の母親。
・ 元正天皇(げんしょうてんのう/680 – 748)第44代天皇。独身で即位した初めての女性天皇。母親は元明天皇。
・ 聖武天皇(しょうむてんのう/701 – 756)第45代天皇。父親は文武天皇。
・ 藤原不比等(ふじわら の ふひと/659 – 720)飛鳥~奈良時代の公卿・政治家。父親は中臣鎌足。子が藤原四兄弟。