月を観たら運気が上がる……わけではないだろうけれど、時々、首を動かして遠くを見遣るのは、まあ悪いこっちゃないだろう、と(笑)。月が出て来る歌は多くが地味で味がある。月を観て、歌を眺めていると自然にエネルギーが貯まって運気も上がるはず。

【和歌のスタイルで表現してみた】

Usage #50
両方を見ると良いことがあるかもの法則

東にかげろう 西に月 北には星あり 南には風

[元歌]
東(ひむがし)の野にかぎろひの立つ見えて かへり見すれば月かたぶきぬ
訳:東にある野原を見ると陽炎が立っています。反対側を見ると、空には月が傾いています。

[解説]
元歌の作者は柿本人麻呂(かきのもと ひとまろ/645 – 724)。この歌、東の野に陽炎、反対には月、とまことに素っ気ない。でも素っ気なさのおかげで、我われとしては、一方とその反対側にも目をやると良き、と気づく。さらに歌を眺めるうちに、あれやこれやとよしなしごとを考える心のゆとりまで出てくるわけでして……。しばしそんな時間が流れたあと、ふとかへり見すればさらに月が傾いていたりして。

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Usage #51
出来事の中に次の出来事の種があるよの法則

夕立が降りやむか止まぬ間に 雲の切れ目にみえる月

[元歌]
夕立のまだ晴れやらぬ雲間より おなじ空とも見えぬ月かな
訳:夕立ちの後、雲の間に月が見える。いやあ、これは同じ空にあった月とは思えないなあ。

[解説]
元歌の作者は俊恵(しゅんえ/1113 – 1191)。雨上がりの雲間に見える月、さわやかで良き良き。俊恵は百人一首85番歌「よもすがら物思ふころは明けやらぬ 閨のひまさへつれなかりけり」の作者。この歌にも月の光の気配があります。

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Usage #52
根を詰めず一服入れると良いことあるかもの法則

目標達成の道なかば 月が良ければ一休み

[元歌]
還る時、浜の上に月光を仰ぎ見る歌
訳:渋谷を指して我が行く此の浜に 月夜飽きてむ馬しまし停め。

[解説]
元歌の作者は大伴家持(おおともの やかもち/718 – 785)。この家持こそ「東の野にかぎろひの立つ見えて かへり見すれば月かたぶきぬ」や「夕立のまだ晴れやらぬ雲間より おなじ空とも見えぬ月かな」の月のような人物。万葉集の編者にして複数の乱や事件に関わる主人公。万葉集はそんな「危ない人」が編集した和歌集だったので、公的に認知されるまで時間がかかってしまった。家持の本質は父親・旅人の流れを継ぐ武人だ。いや、待てよ、和歌を嗜む武人というべきか、武人が和歌を嗜んだというべきか。しばし仕事の手を止め月夜飽きるまでどっちかなーと考えるのも一興。

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Usage #53
空を見ると無意識で月を探す法則

銀色の飛行機が飛ぶかたを眺むれば ただ有明の月ぞ残れる

[元歌]
ほととぎす鳴きつるかたをながむれば ただ有明の月ぞのこれる
訳:ホトトギスが鳴いた方を眺めてみたら、空に有明の月が出ているだけだった。

[解説]
元歌の作者は徳大寺実定(とくだいじ さねさだ/1139 – 1192)。ん?と思って空を見やると有明の月が出ていました、という。人麻呂の「東の野にかぎろひの立つ見えて かへり見すれば月かたぶきぬ」より動きがシンプル(笑)。それだけに夜明けの空に浮かぶ月のイメージがくっきり。ポール・サイモンの『アメリカ』という歌にあるand the moon rose over an open field と重なりました。そうやってしんみりしていると、太田蜀山人(おおた しょくさんじん/1749 – 1823)が「ほとゝぎす鳴きつるあとにあきれたる 後徳大寺の有明の顔」と詠ってて、膝カックン(笑)。なんだかんだ理屈抜きに、月を観れば運気も上がると思ふ。

profile

安部 博文
あべ・ひろふみ:1953年、大分市生まれ。大分大学教育学部物理学科卒業、師匠は田村洋彦先生(作曲家)。由布院温泉亀の井別荘天井桟敷レジデント弾き語リスト(自称)。大分大学で第1号の経済学博士、指導教員は薄上二郎先生(現青山学院大学経営学部教授)。国立大学法人電気通信大学客員教授。電通大認定ベンチャーNPO法人uecサポート理事長。
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