商売も人の成長も、いつも登り階段だと良いのだけれど、現実にはなかなかそうもいきません。なぜ計画通りにいかないのか? それが分かれば苦労はないわけで。人さまに「原因は内部と外部にある」などと言われても、そんなことは、言われなくても分かってる話……と息まいたところで、心のもやもやは晴れませぬ。
晴れないけれど、面白い和歌に出会うと、詰まったアタマに気持ちの良い風が吹く感じになります。中高生の時は、教科書を見ても分からなかった和歌の言い回しとか、作者の心情とかが、齢七十になるとしっくり来るようになるのですなあ。不思議なものよ。
このコラムに読者がいてくれるとすれば、その年齢は四~五十代と思われます。この年代の方は背負っているものが重く大きいと思います。気分転換に、以下、読んでちょっと笑って貰えれば幸いです。

【和歌のスタイルで表現してみた】

Usage #23
このまま目標を達成できそうと思ったら……あらら後退。またやり直しかよ、といふ口惜しい心として。

内にも外にも問題あるらし 計画はリセットやり直しじゃ

[元歌]
霜のたて露のぬきこそ弱からし 山の錦の織ればかつ散る(古今291)
意味:どうやら縦糸と横糸が弱いらしい。反物「山の錦」が織ったはしからほどけるんだが。

[解説]
これは藤原関雄(ふじわらのせきお/805 – 853)の古今集291番歌。関雄は平安時代の役人。人柄が良く、仕事や出世より鼓や琴を好むタイプの人だったという。人柄の良さを認めた淳和上皇から勘解由(かげゆ)の役職を仰せつかったり、琴の譜面を賜ったりした。愛されキャラだったのだろう。勘解由の仕事は関雄には忙しすぎたので数カ月で辞めてもっとゆとりのある役職に移してもらった。291番はそんな良い感じの人が詠んだ歌で、山の紅葉を反物に見立て、落葉を織物の縦糸と横糸が解けてゆくと表現した。まことに雅でありつつ言いえて妙です。
ところで、本稿の著者はプログラミング教室を運営しておるのですが、受講生がやっと100名になったと思うと、また減ってということで、一進一退を繰り返している状態。そんなとき、関雄のこの歌ですよ。しみたわー。

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Usage #24
節目を確認するときに何かしっかりした証が欲しい心として。

夏来ぬと人はいへども気象台の 梅雨明け宣言を聞かぬかぎりはあらじとぞ思ふ

[元歌]
春来ぬと人はいへども鶯の 鳴かぬかぎりはあらじとぞ思ふ(古今11)
意味:春が来たと人は言う。けれども私はウグイスが鳴かない限りは、まだ春じゃないと思うんだよね。

[解説]
これは壬生忠岑(みぶのただみね/860 – 920)の古今集11番歌。忠岑は、平安時代の下級武官で一流歌人。この歌にはおかしみとウグイス愛みたいなのを感じるので、良いなと思いました。人はそれぞれ意見を言う。それは良い事。でも忠岑は、自分が判断するときは自分が納得している基準で行う、と言ってるように思えて好ましい。
マネジメントに携わっている読者の皆さまであれば、「皆が言ってるから」とか「習慣だから」ということではなく「この基準に照らして判断しますのや」というと皆の納得が得られやすくなるのでは、と思います。

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Usage #25
イベントが終わった会場で賑わいが去ったあとの心として。

会場を何に例へむイベントの 終わりし後の人の跡なきごとし

[元歌]
世間を何に譬へむ朝開き 漕ぎ去にし船の跡なきごとし(万葉351)
意味:世間を何に例えましょうか……朝、船が港を出て行ったら、その跡が残ってないようなもの……こんな感じではありませぬか。

[解説]
これは沙弥満誓(さみのまんぜい/660位 – 740位)の万葉集351番歌。満誓はもともとは役人。元明天皇の病気回復祈願のため自ら出家して僧になった人。僧になった満誓さんは大宰府に赴任して寺の統括僧となり、同じ時期に大宰府長官の大伴旅人山上憶良と仲良くなり和歌グループを作ります。やっぱり気心が通じる仲間は大事やぞ。
ちょっと話が逸れたので戻して、イベント会場や学校の教室など人が集まる場所は、人がいなくなったあと、独特の寂しい感じ、祭りの後の寂しさに似たものがあります。会場に一人残ったとき、そんな感じになる時ありませんか? だからどう、というのではなく、ただそんな感じがするときがありますなあ、という話でした。

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Usage #26
年齢を重ねるわが身の捉え方の心として。

齢をとるわが身を責めるなよ 楽しい今日に出会えたのだから

[元歌]
老いぬとてなどかわが身をせめきけむ 老いずは今日にあはましものか(古今902)
意味:老いたからといってどうして自分を責めるの? 老いなければ今日の楽しい会に出会えなかったのだよ。

[解説]
藤原敏行(ふじわらのとしゆき/生年不詳 – 907)の古今集902番歌。敏行は平安時代の役人。宇多天皇の計らいで役人たちが酒とバンドつきの大宴会を開き、それがメチャ楽しかったという歌。我われも何か理由をつけてはイベントを行って皆で楽しむのがよろしかろう。

profile

安部 博文
あべ・ひろふみ:1953年、大分市生まれ。大分大学教育学部物理学科卒業、師匠は田村洋彦先生(作曲家)。由布院温泉亀の井別荘天井桟敷レジデント弾き語リスト(自称)。大分大学で第1号の経済学博士、指導教員は薄上二郎先生(現青山学院大学経営学部教授)。国立大学法人電気通信大学客員教授。電通大認定ベンチャーNPO法人uecサポート理事長。
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