人を思い、人とのコミュニケーションを考えるとき、心に沁みる適切な言葉があると嬉しくありがたいです。
今回はそんな時に効きそうな歌を4首、選んでみました。お祝いの歌、おみやげの歌、友と過ごす時間の歌、自分との会話の歌。
【和歌のスタイルで表現してみた】
■Usage #19
仕事の目標達成も大事だけど、基本はお互い元気であることだよね、の心として。
かくしつつとにもかくにも永らへて 運は廻るよいつまでも
[元歌]
かくしつつとにもかくにも永らへて 君が八千代にあふよしもがな(古今347)
意味:こんなふうにして、とにもかくにも今日まであなた様は、生きながらえて来ました。これからも八千代にわたってお目にかかりたいものですね。
[解説]
これは、遍昭(へんじょう/816 – 890)の70歳の誕生日に光孝天皇(こうこうてんのう/830 – 887)が贈った歌。
「かくしつつとにもかくにも」というフレーズがしみる。「あふよしもがな」には真情が感じられてしみる。
ビジネスの場面では、予実管理だ、目標未達だ、とせわしないこともよくある。でも、そんな活動も皆の健康と平穏な日常があっての話。だから、未達なら次にばん回すればヨシとして、とにもかくにも皆で永らへて、仕事を続けられればありがたいのだ。
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■Usage #20
よい言葉と出会ったらメモしよう、思いを表す言葉を探している人たちのために、の心として。
アイデアは紙に書いて持ち帰りなむ 打ち合わせに来る人たちのため
[元歌]
もみぢ葉は袖にこき入れてもて出でなむ 秋は限りと見む人のため(古今309)
意味:紅葉を袖に押し込んで持って帰りましょう。秋が終わったと思っている人たちのために。
[解説]
これは、素性(そせい/生年不詳 – 909)が秋の山に入ったときの歌。
もみじの葉は秋の象徴なので、持ち帰って皆が集まっているところで、「はい、これ」と見せると、「おお、秋じゃ秋じゃ」となる。
我われが行う打ち合わせ会議ではアイデアを表す「言の葉」が多いほどヨシである。そのため、言の葉が頭に浮かんだ時、紙に「こきいれて」おく。そうしないとすぐ消え去る。「いい考えが思い浮かんだ覚えはあるんだけど、あれ何だったかなあ」という記憶の残り香だけがほのかに残る。この残念さはメモにこき入れれば解消する。
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■Usage #21
気の合う友達と酒を飲むのは楽しい、の心として。
世の中にうれしき物は思ふどち 酒飲んですぐす心なりけり
[元歌]
世の中にうれしき物は思ふどち 花見てすぐす心なりけり(拾遺1047)
意味:この世で嬉しいことと言えば、気の合ったもの同士で花を眺めて過ごすときの気持ちですよ。
[解説]
これは平兼盛(たいら の かねもり/生年不詳 – 991)の歌。「思ふどち」というワードがしみる。
この歌では「花を見て過ごす」と言っているけど、この時に皆で酒を飲んでいたのは間違いない。気の合う者同士が集まって、言の葉を肴に一杯やりながらコミュニケーションする。今も昔もヨシ。
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■Usage #22
世間から距離を置く内省型の友がいたら、何でも話せるのになあ、の心として。
山里にうき世いとはむ友もがな とにかく過ぎし昔かたらむ
[元歌]
山里にうき世いとはむ友もがな 悔しく過ぎし昔かたらむ(新古今)
意味:山奥にうき世を厭う友がいるとしたら、悔やしく過ごした昔のことを語り合えるのになあ。
[解説]
これは西行(さいぎょう 1118 – 1190)の、たらればの歌。山里の友とは、西行さんの分身ではないか、という気がする。
うき世は「浮き世」とも「憂き世」とも書く。孤独の時間、自分と分身とのコミュニケーションの味がしみる歌。