地域へ寄せる想いを乗せて、新たな旅立ちに出発進行!
中津市街から耶馬渓へ向かう国道212号線を車で走らせると、レトロな鉄道車両が並ぶ建物が目に飛び込んできます。ヨーロッパの駅舎を思わせるアーチ状の外観をした建物は、鉄道ファンにおなじみの汽車ポッポ食堂です。内部は木造客車を改造したレストランで、どこか懐かしい洋食メニューから郷土料理まで、鉄道旅行気分で楽しめます。今日に至るまでの歴史を、料理人でもある伊藤太陽代表取締役にお聞きしました。
「もともと当店は昭和のはじめに酒屋として創業したのですが、そのうち角打ちと食堂も併設するようになり、現在の場所に移転してきたのは昭和46年のことでした。ちょうどその頃、耶馬渓鉄道が一部廃線されることになり、それを耶馬渓出身の母がさみしく思い、使われていた客車を購入したのです」
中津駅から山国の守実温泉駅まで走っていた耶馬渓鉄道は、沿線に青の洞門や羅漢寺などの観光スポットが続く風光明媚な路線であり、地元でも“耶鉄”の愛称で親しまれていました。そんな思い出が詰まった客車を食堂として再利用したところ人気を集め、全国から訪れるお客さまのために民宿も開業。全線廃止となった昭和50年には残りの客車を購入し、台湾製蒸気機関車が加わり、現在のラインナップとなりました。ちなみにレストランで使用されている車両は明治22年製造で、現存する国産木造客車としては日本最古とのこと。
店先にならぶ車両とは別に、汽車ポッポ食堂では『かわせみ』『しおかぜ』『せきれい』という3台の車両を敷地内に設置し、車両内は畳を敷き、宿泊ができるようにしていました。しかし野外のため老朽化が激しく、ここ数年は塗装や修理をしても、サビが浮き出たり雨漏りが発生したりの繰り返しでした。
「保存するか解体するかで頭を悩ませていたのですが、いろいろと調べていくうちに、あらためて貴重な車両であることがわかってきました。同時に、今日まで地域と共有してきた時間がかけがえのないものであることを痛感。未来へ繋げていかなければならないと、使命感を感じるようになりました」
そこで伊藤代表は「ヤテツノモリプロジェクト」と名付けたリニューアルを決行。駅舎に見立てた屋内での保存に切り替え、プラットホームから客車に乗り込み、耶馬渓遊覧を楽しむイメージの宿泊施設『汽車ポッポ別邸』のオープンに至りました。
「各車両は、かつて走っていた路線にあわせたテーマのデザインを施し、小鹿田焼、くにさき七島イ、別府石など大分にちなんだ内装も心がけています。平成29年には中津市と玖珠町が共同申請した『やばけい遊覧~大地に描いた山水絵巻の道をゆく~』が日本遺産に認定されました。当施設も観光資源のひとつとなるよう努めていきたいです」
地域の未来を夢に描きながら、汽車ポッポ食堂の旅は続きます。
profile
有限会社 汽車ポッポ食堂
代表取締役 伊藤 太陽 氏
(大幡・鶴居支部会員)