[第59回 循環型経済]
【問い】
世界はリニア経済から循環型経済へシフトしていると言われています。これはどのような概念で、その取り組みは具体的にどうなっていくのでしょうか?
【方向性】
気候変動の影響を強く受ける欧州は、環境や資源に関するリテラシーがはるかに高いとされています。2000年前後より、リサイクルを当然として、今後は廃棄そのものをゼロにする取り組みが進んでいます。
【解説】
■循環型経済とは
英語「サーキュラエコノミー」は、日本語で「循環型経済」と訳されています。
昨今の資源不足、環境リスクが高まるなか、持続可能な経済成長を目指し、社会問題の解決を図る動きが加速しています。そのような中、経済社会は大量生産、大量消費、大量破棄を前提とした直線型経済(リニアエコノミー)から、リサイクルを活用し、廃棄までの寿命を短くするリサイクル経済を経て、資源の効率的・循環的な利用により廃棄物ゼロを目指す循環型経済にシフトしているのです。
循環型経済の原則は「廃棄物や汚染を生み出さない設計を行う」「製品や原材料を使い続ける」、そして「自然のシステムを再生する」と3つの目標を掲げています。廃棄ゼロを目指すため、製造の超上流工程にもメスが入る動きが従来とは全く異なります。ここからも西欧諸国の本気度合いが分かるとでしょう。
■循環型経済へシフトする背景とは
経済産業省の各資料から「資源制約・リスク」には次の主たるファクトがあります。
同様に、「環境制約・リスク」には次の通りです。
一方、個人や地域、国家は、コロナ後の成長産業の模索や技術革新の活用によるビジネスモデルを活用した成長機会を探っています。環境省の各資料では持続可能な経済成長の取り組みは欧州が先行していることを指摘し、環境ビジネスにおいて国際競争力の獲得を目指していることがわかります。
ここで世界各国の動きを見てみましょう。
[欧州]
2010年に成長戦略「Europe2020」で資源効率性向上のためのロードマップを作成。2015年に「サーキュラ・エコノミーパッケージ」で廃棄物の65%をリサイクルし、関連雇用を200万人産み、6,000億ユーロの経済価値を目標に掲げています。そして2018年には使い捨てプラスチックを2030年に廃止するという「プラスチック戦略」を表明。さらに2020年に「サーキュラエコノミー行動計画」で廃棄物のでない製品設計を目指しています。
[国連]
2015年にSDGs「持続可能な開発目標」を発表。2020年に海洋プラスチックごみ対策実施枠具に合意しています。
[米国]
2021年に「国家リサイクル戦略」を打ち出し、2030年までに固形廃棄物のリサイクル率を50%に高めることを目指しています。
[中国]
2017年の「環境発展引領行動」では、資源生産性を対2015年比で15%向上させ、資源リサイクル産業を3兆元(約60兆円)などの目標を設定しました。
[日本]
1990年から2000年代に容器包装や家電などの「リサイクル法」を施行。続く2019年には「プラスチック資源循環戦略」を発表。2021年に「循環経済への移行を投資家が評価する指針」を経済・環境省で発表しました。
このような背景の下、アクセンチュアなどの資料では、2030年の循環型経済の市場規模は4.5兆ドル(約500兆円)と見込んでおり、関連するベンチャーやスタートアップ投資の伸長を予測しています。
■欧州の取り組み事例とは
循環型経済の先進事例は欧州に多数あり、地域ごとに推進しているのが特徴です。いくつかの具体例を紹介しましょう。
[グラスゴー(スコットランド)]
企業の循環経済戦略によるサーキュラー指定の実現を目指しています。都市のマテリアル・フローを可視化する取り組みを進めています。
[アムステルダム(オランダ)]
2050年に100%循環型経済への移行を目指しています。市とメトロポリタン研究所が推進し、土地開発における循環基準を策定、公共調達の要件を見直しています。
[ブリュッセル(ベルギー)]
資源効率を高める経済の刺激策と、起業家精神の向上により雇用創出を目指しています。15にも及ぶ政府部門と、60の産学官連携機関が「都市の代謝に関する調査」を実施。食品廃棄物や小売業等のワークショップを頻繁に開催しています。
[オスロ(ノルウェー)]
2030年までにCO2排出量を対1990年比で95%削減するとしています。ゼロエミッションの公共交通ネットワークを構築し、EV普及、公共バスの30%に代替燃料使用、市内中心部の700箇所の駐車場を廃止すると掲げています。
[ストックホルム(スウェーデン)]
2001年に残留性有機汚染物質に関する「ストックホルム条約」を採択し、16にも及ぶ分野で環境目標を設定。食品廃棄物の義務化を行い、市内バスはバイオ燃料を使用します。
欧州では「マテリアル・フローの分析」が進んでいます。
上流から下流にかけて、どの業界からどの程度廃棄物が排出されるかを可視化し、費用対効果の高い取り組みに優先順位をつける準備ができているのです。
その具体例として、食品廃棄物を中心とした食品レストランを展開したり、ユーザーが部品を交換して利用ができるスマホメーカーの台頭などが見られます。ブロックチェーンとAIを活用した廃棄物コンサルを行う企業もあります。
またオランダの大手金融機関・AMRO銀行では、施設の建設を行う際に使用後の解体を前提とした工法を導入。廃棄する将来を考え、バックキャストの手法で設計レベルに影響を与えています。
■欧州の民間企業各社の取り組み
商品購入後の廃棄等の動きを把握するため、サブスクの仕組みを使った月額利用の事業モデルも急速に普及しています。
スウェーデンの家電メーカー・エレクトロラックスは、サブスクを普及させることで部品の交換、修理、使用後の破棄から、部品回収とリサイクルまでをメーカー主導で実現させています。
オランダの電機メーカー・フィリップスは、法人向けの照明でLEDライトを無償交換し、10年間のメンテナンス契約を結ぶことで、削減した電気量を按分する事業を展開しています。
大量生産、大量廃棄が問題視されるアパレル産業の動きも加速しています。
ZARA(スペイン)は自社商品の補修サービスを開始し、店頭で不要な衣服を回収しています。
H&M(スウェーデン)は修理用の当て布やワッペンを販売し、2025年までに全ての包装とパッケージをリユース、リサイクル、または堆肥可能な素材に変更するそうです。
アディダス(ドイツ)は21年に発表した100%再生可能なランニングシューズで熱可塑性ポリウレタン(単一樹脂)を材料に全パーツを作成。使用済の靴を回収、洗浄、分解、粉砕、溶解することで再樹脂化でき、再び商品の原料として利用する。
また、人気家具・雑貨メーカーのイケア(スウェーデン)では、製品を使い捨てる発想から寿命延長させる取り組みに着手しています。一人暮らしで使用した棚を家族が増えたら、追加購入することで組み合わせて使用できる設計にしており、ライフスタイルに合わせて家具を調整することで長期間使用する思想を取り入れました。
■日本における循環型経済のこれから
今後は「所有」から「利用」にフォーカスした事業が加速し、稼働しない商品をシェアして無駄な購買をさせない取り組みが普及していくでしょう。
廃棄を無くす機能がさらに強化するようになり、超上流工程においては原材料の調達や製造、超下流工程においては使用後の廃棄・回収までを俯瞰したフローが重視されます。恐らく将来は、これらが出来ていない企業には課税や何らかの制裁が与えられ、先行する欧州企業に対し優位に立てる状況を確立していくものと予測されます。
参考:大前研一氏主宰「向研究会」2023年6月定例勉強会より