[第49回 チームを変える「捉え方」]
【問い】
やる気やノルマを気にせずに、無理なくチームメンバを動機付けして動かすには、どのような取組が理想でしょうか?
【方向性】
今回は、認知科学に基づく内側の力を活用する方法について解説します。
【解説】
人が自分から動く際の原理は、「ゴールがあること」、その「ゴールを達成できると思うこと」の2つが大切です。
特に2つ目は、エフィカシー(自己効力感)と称され、注目されています。
これが強ければ、ある状況下で結果を出すための適切な行動を選択することができ、実際に遂行します。そして自分で達成できると信じる状況です。リーダーはこれを理解して、フォロワーに対し、「設定したゴールを何としても達成したい気持ち」に変えてあげることがポイントです。
■内側から人を動かす
2人以上で共通のゴールを達成する組織において、リーダーとフォロワーの関係が生まれます。
リーダーは、常にフォロワーの「やる気不足」「責任感の欠如」「言われたこともできない」等、否定的な側面を見てしまいます。その解決においても、根本的な因果を分析せずに「最近の仕事ぶりを急にほめる」「報酬やご褒美を与える」等、外的な刺激を与えてフォロワーの行動を変えようと考えます。
しかし、上記のような外側から人を動かす発想は、近年受け入れられなくなっています。
その大きな理由は「ハラスメント」です。外側からの働きかけは、仮に本人のためでも、部下からは否定的に捉えられる可能性があります。「VUCAの時代」とも言われる昨今、世の中が変動的で、不確実、そして複雑で曖昧です。
このような環境下、リーダーは「自分とフォロワーが同じ価値観である」と強く思わないことが吉なのです。
共通の価値観は薄れる。一方、フォロワーは「個人の楽しさや成長」「好奇心や興味」に軸を置くようになっています。「給与」や「賞与」などの外的な刺激は、万人のやる気を引き出す魔法のツールではなくなっているのです。
■外側から内側にシフトする
リーダーがフォロワーを動かす際に、外側の力から内側の取組にシフトする必要性は理解いただけたと思います。ここでは、内側から人を動かすポイントについて説明します。
キーワードは「ゴール」と「達成したい気持ちと自信」を与えることです。
ゴール設定の重要性は、過去にも本コラムで触れています。
人を持続的に動かすには一定の目的や目標が有効です。何かを達成したい気持ちが強ければ、人はそれに向けて行動します。一方で、達成したい気持ちは一時の感情に左右される可能性もあります。そのために目的やゴールを設定し、明文化して、常に確認できる状態にしておくことが大切です。
次に、達成したい気持ちと自信です。専門書では、「エフィカシー」とか「効力」とか「効能」とか「自己効力感」と称されます。
雪山で遭難した人が、僅かな地図を頼りに必死になって下山します。後日、その地図を確認すると、なんとレシートの切れ端でした。雪で文字がにじみ、何かの図柄のようになっていたのです。
この手の話は良く聴きますよね。「必ず下山して助かる」という強い信念が実現させているのです。
私自身の経験を振り返ってみると、たとえばウルトラトレイルの大会(100kmオーバーの山道を昼夜走り続けるレース)中も、自分の気持ちとの戦いで「完走するという信念」が揺らぐと、途中棄権することが多いのです。
極端な事例ですが、どちらも外側の力は皆無で、単に内側の力が達成に影響を与えています。近年、この分野の研究は進み、「認知科学」などで議論されています。
ゴールに向けて行動する時に、「達成したい気持ちと自信」が低い時は、達成に向けた行動が続かなくなる。その際、外的な刺激は一部有効ですが、やはり長期的に行動を続ける要因にはならないのです。
リーダーは、フォロワーの「ゴール設定」と、「それを達成したい気持ちと自信」を組織内に組み込むことができれば、組織の行動は変わるのです!
■チームが生まれ変わる
ある店舗事業を展開するチームは、店長含めて社員が5名、バイトやパートが5名の総勢10名です。これまで「店舗ゴールを強調」するマネジメントでしたが、その手法を変えました。
チーム目標の達成には、互いの協力が最も大切だと考えたのです。その理由は、成果を上げるための行動としてシフトの管理と柔軟さがネックになっていたからです。
そこで、店長は社員やバイトやパートと面談を繰り返し、各自が何に興味を持ち、何を最も大切にしているかを確認します。
例えば、Aさんは「ある人気ユニットの追っかけ」、Bさんは「とにかく息子の部活動の手伝い」、Cさんは「親の介護で急な対応に不安を感じる」等々です。当たり前ですが、それぞれが大切にしていることは十人十色で、いずれも興味関心が異なり、店舗の目標達成とは無縁でした。
チームメンバが集う会議では、店舗の方針を簡単に共有した後に、各々が興味関心を示す内容について交代で話す機会を増やします。店舗のシフトは1週間から2週間単位で組んでいましたが、チーム全体の大切なイベントを年間で共有。そこに店舗のイベントを列挙しました。
おかげで店舗ビジネスのシフトを組む際、勤務形態に関係なく互いが大切にする価値を理解しているので、チームが協力してシフトを組むようになります。
また、急な用事が出来た場合も「前回、私は譲ってもらったから」と互いが気持ちよく仕事を調整するようになりました。店舗の目標達成は、楽ではないですが、そこまで厳しくもありません。シフトが上手く機能していれば成績は上がっていたのです。
店長はゴール設定を、「組織個々人の価値を尊重し、組織で協力すること」としたのです。
フォロワーは、従来とは変わらない店舗の目標と行動量でしたが、その達成の延長には「自分たちが大切にしていることの実現」に自然と紐づけていきました。
■認知を変える
リーダーが今後意識すべきは、フォロワーの「モノの捉え方」です。
例えば、店舗の目標を「今月中に10件の新規●●を獲得しよう!」としても、Aさんは「私には関係ない」、Bさんは「忙しくなって部活の応援に行けなくなるかもしれない」、Cさんは「急な呼び出しに対応できるかしら?」と無意識に捉えてしまいます。
そこに対して、自然な形で互いの実現したいことを共有理解する。そのうえで雇用形態に関係なくシフトの案を出すという取り組みを実現させます。「互いに協力して達成する」ことで、「自分たちが大切にしていることの実現」に近づき、店舗目標の「捉え方」が変わったのです。
ゴール設定で重要な点は2つです。
そのゴールが「本当に実現したいこと」と、「現状の外側に設定されていること」です。
前述のウルトラマラソンの事例では、ゴールを「完走」とする場合と、「完走した後、痛みを感じながら温泉に浸かる」とした場合では捉え方が異なります。
後者の事例は、既に完走を当たり前として、その後の取り組みを意識するようになるのです。ある店舗事業の事例では、ゴールの設定を、店舗の目標に個々人の「楽しみ」も加えてフォーカスしたのです。
■まとめ
リーダーシップの本を開くと、「自分毎で捉える」と難しい概念が書いています。リーダーは、基本チームのゴール達成は自分のインセンティブに直結しますが、フォロワーにとっては関係が曖昧な表現です。
そこでリーダーが行うべきは、ゴールの意味の解釈を手伝い、フォロワーの「捉え方」を変える工夫です。すると店舗事業の事例のように、雇用形態に関係なく、内的側面から行動する力が生まれてくるのです。
※参考図書
「チームが自然に生まれ変わる」
ダイアモンド社、李英俊・堀田創著
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