第18回 デジタルマーケティング
■問い
デジタルマーケティングとはどのような概念なのでしょうか?
■答え
従来のマーケティング活動に加えて電子デバイスやインターネットを活用したマーケティングの総称です。
■解説
今回は、デジタルマーケティングの取り組みとして、以下の3つのポイントを紹介します。
1. オンラインとオフラインの融合
2. 購買後のつながりの創出
3. マーケティング・ミックスの再構築
では、順次解説していきます。
【オンラインとオフラインの融合】
メーカーは製造した商品の販売を卸や販社や小売店に任せます。従って顧客情報や購買体験に関与する情報は川下に集まり、資本が異なるチャネルに任せているため、統合して活用することは困難でした。
一方、近年のIT企業や業績を上げている企業は、直販モデルを積極的に取り入れています。顧客の購買データや履歴などを直接管理することで、そこから得られる情報を活用して顧客維持と育成に活用しています。
その際のポイントはオフラインでも、オンラインでも、同一の顧客を統合して活用することです。
しかし多くの企業は、オンラインとオフラインをまだ統合して管理できていません。
たとえばアパレル業界。リアル店舗で気に入った洋服を試着します。店舗ではハウスカードを配布し、個人の購買履歴を管理します。データでは顧客の購買履歴は残りますが、店舗での会話や店員が把握する顧客の特徴などは、オンラインの情報とリンクされていません。
次にスーパーマーケット。最近は、オンラインでもオフラインでも購入できるスーパーが増えています。オンラインで購入する場合は、Webショップにログインして欲しい商品をカートに入れると、数時間から1日後にその商品が配送されます。店舗で購入する際は、現金決済が多く、オンラインでの購買情報とリンクされることはありません。
そしてタクシー。アプリでタクシーを呼んで乗車する場合は、行き先の登録が既に完了しているので、スムーズな乗降車が実現されます。しかし流しで同じタクシーに乗っても、たとえ頻繁に行く場所であっても、毎回ゼロから説明することが必要です。
最後に飲食店。Web媒体やSNS媒体などからリードを取り、予約につなげることは多々あります。しかし、Web上からの連絡は面倒なので、ついつい電話予約を取る場合があります。その場合、顧客はどうして来店したのか、店舗は把握することが出来ません。
オフラインとオンラインを紐付けて活用している企業事例を考えてみましょう。皆さんご存知の「Amazon(アマゾン)」です。
アマゾンの強みは流通を押さえていることですが、近年はWebのみで完結していた販売チャネルをリアルの世界にも拡張しています。
従来のWebショップは、商品の選択と購買ともにバーチャルで行っていました。しかしアマゾンは、顧客の利便性と購買体験を高める目的で、商品の選択と購買を、時にはリアルにシフトする取組を行っています。
まず、Amazon Echo(アマゾンエコー)はスピーカーとマイクを内蔵する機械で、自宅やオフィスなどに設置して使用します。例えばオフィスのコピー用紙が少なくなった時点で「コピー用紙を注文して!」と頼むことで注文が完了して、決済はアマゾンのID(バーチャル)で行われます。アマゾンエコーを使うことで、商品の選択はリアルで、購買はバーチャル空間で実現させるのです。
Amazon Go(アマゾンゴー)は、リアル店舗です。顧客は店舗で商品を取り、店の外に出た瞬間にWeb上で決済完結です。店員は商品の補充や整理に集中し、顧客がどの商品に興味を持ち、どの商品を購入するかは、店内のカメラと各種センサーで把握します。それらの情報はアマゾンのIDにひも付き、リアルの情報をバーチャルの状況と一元化しています。
既に閉鎖してしまいましたが、アマゾンポップアップストアは、期間限定で人が集まる場所に出現するリアルショップでした。ショップの品揃えは、バーチャルで人気が高い商品が展示されています。その意味で商品の選択はオンラインが軸になります。顧客は実際の商品をみて、詳細情報や口コミなどはスマフォ上でアマゾンのサイトで確認します。気に入れば、その場でオンライン決済して持ち帰ることも、後で自宅に配送することも出来ます。
上記事例の注目点は、バーチャル空間での選択や購買でも、リアル空間でも、顧客の情報は常にIDによって一元管理されている点です。アマゾンはこれらの情報を活用して更に顧客との接点を作り、顧客体験を高め、将来の購買を増やす活動に活用しています。
【購買後のつながりの創出】
紳士服のコナカが展開し、大分県でもアミュプラザにオープンしているショップ「ディファレンス」は、新しい顧客体験を提供しています。ディファレンスは来店予約制のオーダースーツの専門店です。サービス利用は、アプリが基点です。購買したい商品を選択して予約するか、来店予約を行うことから始めます。
その一連の仕組みは、まずアプリ上で最寄りの店舗と時間を確認します。予約の証としてQRコードが表示され、顧客は予約時間に店舗に行きQRコードを提示します。事前に商品が決定している場合は、QRコードの読み取りによりスタッフは顧客の状況を理解します。そのため、すぐに適切な案内ができます。顧客が初めて利用する場合は採寸を行いますが、当然アプリ上の顧客IDと情報をリンクして管理します。この仕組みにより2回目以降は、採寸や生地の確認が不要であれば、オーダースーツでも、オンライン上だけで完結できます。もちろん、アプリで予約し、生地だけ店舗で確認して決済する。ということも自由に行なえます。
オフラインとオンラインのデータ統合により顧客の購買前後から購買後の情報までを管理する。そしてそのデータをマーケティングに活用して顧客とのつながりを創出するのです。
【マーケティング・ミックスの再構築】
デジタルマーケティングでは、徹底的に顧客と企業がつながりを持ち、その関係性を強固なものにしていくイメージが大切です。そのためのポイントは、店舗の販売やアプリの販売など、販売チャネル毎の売上で管理しないことです。
例えば従来は、実店舗Aの顧客BとWebショップCの顧客Bは違う顧客として扱っていました。デジタルマーケティングでは「実店舗Aの顧客B」と「WebショップC」の顧客Bは当然に同一の顧客として管理します。
顧客管理のゴールは、「なぜ、その顧客がその商品を購入したかを理解すること」です。そのためには顧客の購買後の行動まで把握することが重要です。デジタルマーケティングは顧客との接点を全てチャネルとして捉え、生涯に渡る売上を最大化するように管理していきます。
チャネルの設計が変われば当然、他のマーケティングミックスも変わります。商品、価格、販売促進の方法も見直しが必要になるのです。
アマゾンで例をあげると、電子書籍のKindle(キンドル)があります。キンドルは、顧客がどんな本を選択し、いつ購入して、どのように読んでいるかを把握しています。
当然、商品戦略も変わります。従来は本の提供のみでした。それが読書の提供にシフトします。そこで実際の読書の蓄積データをベースに、個々人オリジナルのAI作家による本の提供も可能になるかもしれません。
価格に対しても「読書」と捉えることで、定額の読み放題プランを提供することも可能です。販売促進活動も、個々人の読書傾向を完全に理解した提案になりますので、より自由度が高くなるのです。
■参考図書
実践「ジョブ理論」早嶋聡史著 総合法令出版
世界最先端のマーケティング 奥谷孝司著 日経BP社