第6回 日本の人事戦略
■問い
クラウドソーシングやIoT、ビックデータ、そしてAIなどの新しいテクノロジーが登場する中、日本の人事制度や人事戦略は20世紀に作り上げたものをそのまま活用しています。今後は、方針を変えるべきでしょうか?それともそのまま継続するべきでしょうか?
■答え
21世紀型の人材戦略、および人事制度は時代に即して再設計が必要です。
戦略は世の中の変化に合わせて対応します。従って戦略に紐づく人事制度や人材活用に対しての考え方も変えることが求められます。
日本企業が行っている人材戦略や人事制度は20世紀の経営環境を前提に設計されています。しかし、21世紀では全く異なるメカニズムや変化が起きています。これらを理解した上で経営者はビジョンを持ち、戦略を策定します。
ところが日本の人事戦略に対しては、まだまだ対応が遅れています。21世紀の人材戦略は20世紀のそれとは対極です。人材は「コア社員」に絞り、それ以外の人材は外部人材を活用するか、アウトソースするか、「自動化」を視野に入れていきます。
変化が激しい21世紀は、腰を据えて資産を持つ企業では、急激な環境変化に対応できません。そのため、基本的なコンセプトは身軽であることなのです。
■解説
21世紀、企業人の多くが先を見通せない時代になっています。
20世紀はエクセレントカンパニーの時代と言われ、共通の企業文化、組織文化、収益モデルをもつ優良企業を多くの組織が研究して模倣します。結果、ある一定の成果をあげることが出来ました。
20世紀の代表企業であったGE(ゼネラル・エレクトリック)は現在、危機的な状況であり、2001年から同社の最高経営責任者(CEO)を務めたジェフリー・イメルト氏も退任に追い込まれました。
また石油業界は、今後5年から10年もすると売る商品がなくなります。内燃機関を主軸とした自動車が電気自動車に変わり、ガソリン需要そのものが激減するからです。現在3万件あるガソリンスタンドは典型的な衰退産業です。
さらに電気自動車の普及は、自動車のコモディティ化と自動運転を促します。所有からシェアの文化が加速され、自動車のシェアを促進する法人企業が現われ、個人が車を所有する動きが減少します。これに合わせて個人向けカーディーラーという概念が無くなり、殆どがカーシェアを運営する法人向けに変化します。その結果、個人向けビジネスは極端に縮小するでしょう。
損保業界の収益の柱は、自動車関連です。当然、自動運転やカーシェアになると個人が直接損保会社に問い合わせて保険に加盟する機会そのものが減少します。個人を担当する部隊は不要になります。
百貨店の存在意義も薄れています。ネットショッピングの台頭により、店頭にいかなくても商品が購買できます。アパレル業界はZOZOTOWNが一人勝ちで、海外商品はバイマの登場により、国内と海外の内外価格差が極端に少なくなりました。3割以上のマージンを取る百貨店は、消費者の疑問の的にもなるでしょう。
金融業界も同様です。日本は規制により金融機関が守られていますが、中国や他の国と同じようにフィンテック企業の参入が加速すれば、殆どの金融機関の存在意義が失われます。
2000年のゴールドマンサックスのニューヨーク本社では600人ものトレーダーが大口顧客の注文に応じて株式を売買していました。しかし現在、数人のトレーダーと200人以上のコンピューターエンジニアに変わりました。自動株取引プログラムがトレーダーの大部分を担っています。
20世紀は世界中が資本を厚くして、資産を所有することでビジネスが成立しました。拡大するには、比例してリアルの資産が必要でした。皆、エクセレントカンパニーに代表されるモデルを模倣し、追い越せ追い抜けの競争で多くの企業が収益を上げてきました。
しかし、21世紀のビジネスは、坂の上の雲がどこにあるのかさえ分かりません。多くの経営者が5年先に自社のビジネスがどうなっているか、明確に解を持ち得ていません。従って、方向が分からず戦略を立てなければならない時代になったのです。
また20世紀と違い、電子的な取り組みのおかげで、資産が無くても、秀でた能力、特徴的な何かが1つあれば、後は変動費によって、資産を持たずとも全世界でビジネス展開が可能になってきました。結果、21世紀型の人材戦略という概念が新たに生まれています。
21世紀の人材戦略は20世紀の対極です。人材はコア社員に絞り、それ以外の人材は外部調達するか、自動化を視野に入れるからです。変化の激しい21世紀は、腰を据えて資産を持つと環境変化に対応できません。
基本コンセプトは身軽であることです。
20世紀は人材に対しても数が重要でしたが、21世紀は技術やアイデアやコンセプトなどをごく少数の人数が絞り出し、IoTやAIやロボットを駆使して展開することが可能です。従い、少数精鋭でビジネスを促進することが可能です。
21世紀はエクセレントパーソンにフォーカスすることが経営者として重要になるのです。
日本の人材戦略は、20世紀の発想に基づきます。
大量一括新卒採用を継続した結果、組織に人がいることが前提です。そのため、先ずはメンバーの能力を詳細に調べ、能力に応じて仕事の振り分けを行います。人事制度もこれに応じて設計されています。
そのため、常に今いる人材を効率的に稼働させるべく、仕事を割り振る「メンバーシップ型」の人材戦略が基本になります。明らかにプロダクトアウトの発想なのです。
一方、欧米企業は仕事に人を振り分ける「ジョブ型」のスタイルです。先に組織の仕事が定義され、仕事を細かく振り分けます。そして採用はジョブに必要な技能や能力を持つ人が担当します。
従って一括採用という概念はなく、必要な仕事に必要な人材を確保するため、採用のタイミングは新規事業の開始か欠員が出るタイミングになります。社員のキャリアアップも社内公募か転職という、明確な基準と仕組みで実現されるのが通常です。
「おや?」と思いましたよね。というのも現在の人づくり革命も、働き方改革も、人材を流動化、変動費化する方向ではありません。より固定化する方向性に向かっています。世の中の動向をみる限りでは、組織を拡大し、社員に仕事を割り振り、稼働させる発想は危険なのです。
21世紀は、会社の業務を棚卸して、必要と不必要な業務に分けましょう。
必要な業務のみを自社のコア社員で行い、他は現社員と同時に、外部人材、アウトソース、自動化を積極的に考慮することが大切です。
21世紀は20世紀と異なります。経営者は上記を意識して積極的に行動することが大切です。従来通りの経営手法を継続することは、もはや収益の維持どころか、経営自体の淘汰の可能性もあるのです。
そのためには、改めて自社の経営ビジョンを整理します。
真に必要なリソースを見きわめます。コア事業に専念し、ノンコア事業は社員を含めて保有しないことがポイントです。外部人材、変動費、クラウドソーシング、AIやロボットの活用を検討します。
コアビジネスに対しては少数の人材を採用育成します。大量採用、一括教育を止め、必要な人材の要件を先に決めてから個別採用を進めます。該当者がいない場合はヘッドハンティングも視野に入れて行動します。
何度も言うように、20世紀型の人事は、会社にとって弊害になるのです。