第7回 競争ポジション

■問い
業界で一番になるための考え方は、セミナーや参考図書の中に多数あります。きっと多くの方が一度や二度はそのような会に参加したり、記事を読んだことがあると思います。では、一位になることは正解なのでしょうか?

■答え
正解は本人が決めることです。
しかし、誤って何も意識しないでシェアを拡大する、売上を伸ばす、顧客を増やすと動き始めると、いつしか常に何かにとりつかれたように追い詰められた状態になることがあります。

大切なのは自分自身が何を目指すか? なぜ、それを目指すのかを明確にしていることです。

■解説
競合と競争する場合、業界や地域での立ち位置を意識することが大切です。
巷にあふれる事例や理屈の多くは、1位の企業になることを前提としています。しかし、1位の企業と2位以下の企業は全く異なる経営のメカニズムがあります。

例えば、コンビニエンスストアの中で首位の企業を思い出してみてください。すぐに、セブンイレブン、ファミリーマート、ローソンの名前が出てくることでしょう。どれも同じコンビニですが、中身は全く異なります。
セブンイレブンは店舗数が約2万店舗で、平均単価が約660円、1日あたり1,000人の顧客が店舗を訪れます。一方、ファミリーマートは約1.7万店舗で、平均単価は約580円、1日あたり約900人の顧客です。ローソンは店舗数が約1.4万店舗で、平均単価は約590円、1日あたり約900人の顧客です。
首位のセブンイレブンは、1日あたりの来店数が10%以上多く、単価も7、80円も高いのです。更にセブンイレブンは自社開発商品の売り上げが高いので、利益率も2社と比較して突出しています。もし、この状況を知らないで下位の企業が首位の企業を追い抜こうと頑張っても、そもそもやり方が違うので、到底追いつくことは無いのです。

経営を考える際には、業界や地域の中での立ち位置によって、ある程度の戦い方の定石があり、4つの分類に分けて考えます。
セブンイレブンのように首位の企業を「リーダー」と呼びます。リーダーに次ぐシェアを維持し、リーダーと真っ向勝負を行う企業を「チャレンジャー」と呼びます。そして、リーダーやチャレンジャーの次のポジションで、上位企業の戦い方を模倣する企業を「フォロワー」と言います。更に、例えばヤマザキデイリーストアやポプラのように、小さいながらも独自のポジションを持つ企業を「ニッチャー」と呼びます。

■リーダー企業の特徴
リーダー企業は業界のトップシェアを誇ると同時に、強いチャネルを持っています。例えば主要な立地条件に店舗を構えていたり、主要な都市に必ず地域一番店に相当する規模の店舗を持っています。
さらに「コンビニの代名詞と言えばセブンイレブン」というふうに、業界のリーダーのような認識が一般消費者にはあります。従って、広告宣伝をせずとも、その認知度から顧客が獲得できる構図を作っているのです。

通常、リーダー企業はその地域や業界の中で、もっとも高いシェアを占めています。これは、それだけボリュームディスカウントが様々なところで効くことを意味します。製造業であれば、原料や材料の調達コストを低減することができ、また大量の製造を一気に行うことで、単価をぐっと下げることも可能です。流通業であれば、大量の店舗があっても物流センターや拠点などを効率的に置けるため、やはりコストを押させることが可能です。
結果的に、他の企業よりも「規模のメリット」を出しやすく、金額を下げて提示しても利益を十分にとれる体制を整えているのです。加えて、その資金力や技術力、チャネルの力を活用して、業界のあらゆる顧客層に対してフルラインナップ戦略をとることが多いです。

■チャレンジャー企業の特徴
「チャレンジャー」とは、リーダー企業に次ぐシェアを持ち、常にリーダー企業に競争を仕掛ける企業です。しかし、上記の特徴をみて分かる通り、実際に真っ向勝負をしても勝ち目は薄いのです。
そこでチャレンジャー企業は、リーダーに勝つ方法として、リーダー企業が比較的強化できていないエリアやセグメントを探して、そこに対して自社の資源を投下して、シェアを奪う取り組みを行います。自分たちよりもシェアが低い領域や企業を見つけては徹底的に攻撃して、シェア拡大を望みます。
結果的に、全方位的に品ぞろえを行うリーダー企業と対比して、製品の差別化が進み、時には思い切った商品戦略や価格戦略を実行する場合があります。

■フォロワー企業の特徴
フォロワー企業の特徴は、興味深いです。リーダーやチャレンジャーを刺激しないで、自分の立ち位置を維持することに徹するのです。
基本戦略としては、リーダーやチャレンジャーがあまり好ましいと思わない市場にフォーカスして、基本的な収益基盤を作ります。そして、自社で積極的に商品開発やプロモーション開発を行わなず、リーダーやチャレンジャーが業界で試した商品や企画を模倣して自社の立ち位置を保持する取り組みを行います。
規模はリーダーやチャレンジャーからすると比較的小さくなるので、全方位のリーダーや、差別化をしながらも、全方位を狙うチャレンジャーとは異なり、ある程度のセグメントを選択して集中する取り組みを行います。

■ニッチャー企業の特徴
ニッチャーはフォロワー企業よりも、もっとセグメントや領域を絞り込み、完全に特化した戦い方をします。その市場は魅力的でも、リーダーやチャレンジャーからすると規模が小さい、収益が上がらないようなセグメントを見出し、そこで粛々とシェアを獲得するのです。
例えるならば、リーダー企業は大きな池の大きな魚で、ニッチャー企業は小さな池の小さな魚です。小さな魚ですが、池のサイズが小さいので、他の入り込む余地はなく、小さな魚が十分に収益を出せる状態です。
彼らは限られたエリアや分野で、オンリーワン企業として活躍します。しかし、そのポジションにおける注意点は「あまり成長しない」ことです。理由は、池のサイズが大きくなると、周囲から必ず見つけられ、気が付いたら大きな魚がやってきてパクリと食べられてしまうからです。従って、成長しないというストイックな意思決定をする必要があります。

私は毎月、多くの経営者とお話することがあります。ある人はいつもニコニコしており、ある人はいつも何かに追われているような状況です。例えるならば、銅メダリストと銀メダリストです。

銅メダリストは非常に喜ばしい表情をしていることが多いです。一方で、銀メダリストは何故か表彰されていても笑顔が少なく、時には悔しさでいっぱいの時があります。
戦い方として当てはめると、銅メダリストは「フォロワー」や「ニッチャー」であり、自分のポジションを業界全体で捉えて戦っているため、そのポジションを最大限に謳歌しているのです。
一方で、銀メダリストは「チャレンジャー」で、常にリーダーを追い越すことに躍起になっています。しかし1位と2位の壁は非常に厚く、いつまでたっても近づけません。周囲からは「すごいね」とは言われますが、自分の中では全くその地位を喜ぶことが出来ずに苦しんでいるのです。

起業して2年で2億の壁を突破すると、その経営者は突っ走ります。止まることを知らず、常に走り続けるでしょう。やっと掴んだ地位を追われたくなく、常に不安な気持ちが先行して、それを拭うために、また努力を続けます。なにやらすごい脅迫観念があるのかもしれません。
リーダー企業はその地位が当たり前であり、金メダルを取った瞬間から追われる立場になり、次も金メダルを取ることが当たり前になってくるのです。

重要なことは上位の4つのポジションのどれかが良いではなく、自分自身が何を目指しているかを、明確に持っていることが大切なのです

profile

早嶋 聡史 氏
(はやしま・さとし)
株式会社ビズナビ&カンパニー 代表取締役社長
株式会社ビザイン 代表取締役パートナー
株式会社エクステンド 取締役
一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事

長崎県立長崎北高等学校、九州大学情報工学部機械システム工学科、オーストラリアボンド大学経営学修士課程修了(MBA)。
横河電機株式会社の研究開発部門(R&D)にて産業用ネットワークの研究に従事。MBA取得後、海外マーケティング部にて同社主要製品の海外市場におけるブランド戦略・中期経営計画策定に参画。B2Bブランディングの先駆けとして後に知られるようになったVigilanceという力強いブランドキャンペーンを実施。退職後、株式会社ビズナビ&カンパニーを設立。戦略立案を軸に中小企業の意思決定支援業務を行う。また成長戦略や撤退戦略の手法として中小企業にもM&Aの手法が重要になることを見越し小規模のM&Aに特化した株式会社ビザインを設立。更に、M&Aの普及活動とM&Aアドバイザーの育成を目的に一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)を設立。現在は、売上規模数十億前後の成長意欲のある経営者と対話と通じた独自のコンサルティング手法を展開。経営者の頭と心のモヤモヤをスッキリさせ方向性を明確にすることを主な生業とする。
【著書・関連図書】
できる人の実践ロジカルシンキング(日経BPムック)
営業マネジャーの教科書(総合法令出版)
ドラッカーが教える実践マーケティング戦略(総合法令出版)
ドラッカーが教える問題解決のエッセンス(総合法令出版)
頭のモヤモヤをスッキリさせる思考術(総合法令出版)
【関連URL】
■早嶋聡史の戦略立案コンサルティング
http://www.biznavi.co.jp/consulting/strategy_planning

■早嶋聡史の事業実践塾
http://www.biznavi.co.jp/businessschool

■中小企業のM&Aビザイン
http://www.bizign.jp