やってくれましたね。
ちょっとだけ胸がすく思いです。
100年に一度の「悪夢の再開発」が進行中の渋谷の一角に突如現れた、イマイチ入口が分かりずらい商業施設。渋谷駅前エリアとは対照的に、東急百貨店本店の閉店で息をひそめる旧・文化村通りの前に、位置情報的には誤っている名称を冠した新名所が2023年8月24日にオープンした『道玄坂通』です。
仕掛け人は三菱地所でも三井不動産でもない、株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下PPIH)。そう、あのドン・キホーテの展開を主力とする国内小売最大手企業のひとつです。PPIHが文化村通り界隈の土地・物件を取得して渋谷にドンキ村(帝国?)を作るという噂は相当前から耳にしていましたが、ここ何か月で一気に事態が進行した感があります。ベールに包まれた「シン・ドンキ」が、いきなりその全貌を現したという見事な演出(広報戦略)と言えるでしょう。
それではなぜ「ドンキが渋谷を救う!」とまで思わせるのでしょうか?
ポイントは大きく3つあると考えています!
〈その1〉型破り過ぎる開発!
例えば六本木にドンキがオープンしたのは2001年。当時は「安かろう悪かろうのスーパー」程度の認識もあってか、六本木のマーケットにはなかなか受け入れられませんでした。
そんな時、突然屋上にジェットコースターを作るという奇想天外な手を打ってきた前科(実績)もあるので、そうそう驚かないと思っていましたが…。
細い道が絡み合い、飲食店やラブホテルがひしめくちょっと猥雑なエリアに、あのドンキが地上28階建てのホテル&ショップ&オフィスビルを建てるとは!
ポイントはゲート(扉)のない4つの出入り口を作るという、まさに「型破り」な導線デザインです! 「神南エリア」「奥渋エリア」「松濤エリア」「円山町(ラブホテルエリア!?)」に常時開かれた道を作り、まさにまちづくりを強く意識したコンセプトと言えます。
駅前エリアを広大な更地にして、無味乾燥な高層ビルを建て、ひいては交通網の導線までも破壊した大手不動産開発デベロッパーたちの渋谷再開発とは真逆のアプローチです。
〈その2〉適度なダサさ(中途半端さ)が魅力!オープン直前のプレスリリースやメディアの取材だけを見ると「ラクジュアリーなホテル」「高級イタリアンジェラート専門店」等、キラキラしたイメージを持ってしまいますが、実際現場に行ってみると、ドンキのPB「情熱価格」のみで構成された「ドミセ」が一番目立っており、「ドすべり」「ドこたえ」といった、“ならでは”なPOPや看板が目に飛び込んできます。2階はオープンが遅れたテナントがまだ準備中のまま。エスカレーターや共用通路(4か所の出入り口)もまだ工事中のような素っ気ない演出。
ちなみにラグジュアリーホテルのエントランスのすぐ隣には、ほぼ同じ大きさのラブホの看板と入口が現れます(たぶん勘違いするカップル続出かと想像します)。計算しているような、してないような…。こんな適当な魅力に溢れています。
〈その3〉渋谷に必要なもの、お客様が欲しいものを知っている。
例えば2015年浅草六区にオープンした「まるごとにっぽん」は、“真の地方創生の拠点”という誤った目標の下、47都道府県の名産品を集結させるという無謀な品揃えでスタートした結果、わずか5年で閉館に追い込まれ、今やUNIQLO、スシローといった困ったときの神頼み大型テナントと「浅草横丁」という渋谷・新宿でも展開する悪名高いエンタメ飲食街という至極平凡な商業施設に成り下がっています。
ちなみに一足先の2013年にオープンしたドン・キホーテ浅草店(「まるごとにっぽん」の真向かい)は10周年を迎え、今や地元民から観光客(特にインバウンド)から愛される浅草六区のシンボルとなってます。
今の「SHIBUYA再開発系」商業施設は、いわゆる金太郎飴状態を遥かに超えた画一的ファッション&グルメビル&オフィスビルになっています。それに比べ「シン・シブヤ系」の『道玄坂通』は、目の前の「MEGAドン・キホーテ渋谷店」とのカニバリ(共食い)なんて一向に気に介さず、現場の常識を遥かに超えたMD(商品企画)を堂々展開しています。
ドンキのお家芸である「圧縮陳列」(最近は消防法対応もあってか、ちょっと大人しめですが…)や「300字オーバーの商品名」にも磨きがかかり、何度来ても飽きない、どこから来た人にも手ぶらで帰らせない、「渋谷を知り尽くした」ドンキならではの商業施設を誕生させました。
お洒落なラグジュアリーホテルがあろうが、日本初のイタリアンジェラート店が出店しようが、ドンキはドンキ。
そんな潔い渋谷の新名所にぜひお立ち寄り下さい。ドハマりしますよ。
やはり渋谷(SHIBUYAではなく)を、東京を、日本を救うのは「シン・サブカル」であることを確信しました。