2023年幕開け第1弾のタイトルとしては、ちょっと物騒(大げさ)な気もしましたが、浅草在住30余年、「浅草B級& S級グルメツアー」主宰の身としては日々痛感していることには間違いありません。
ちなみにこのタイトルを見て、「あれ? どこかで聞いたこと、見たことあるなぁ…」という方、そうです! 5年ほど前に結構話題になった「誰がアパレルを殺すのか」という書籍にインスパイアされました。
余談ですが私が三越伊勢丹を辞めた翌日(2017年10月1日)に、中国・北京で開催された「Beijing Design Week 2017」に招待され、この本を題材にして講演したところ大好評でした。
ここから本題です。
浅草食文化を誰が殺すのか…。もちろんコロナとか単純な答えではありません。
極めて主観ではありますが、主戦犯のひとつは「もんじゃ焼き」です。
いきなり「え、もんじゃ焼きって月島名物では?」というツッコミも出そうですね。確かに月島もんじゃストリート(月島西商店街の愛称。私の実父生誕の地)には60を越えるお店が軒を連ね(あのブラッド・ピットが、ずっと昔に来店したことをPRし続ける老舗店も健在)、「月島もんじゃ振興会協同組合」なる、ものものしい組織も存在します。
もんじゃ焼きのルーツは所説ありますが、安土桃山時代まで遡るとも言われており、月島が明治時代(1890年頃)に隅田川の下流に溜まった土砂を埋め立てた際に出来たという経緯からも、浅草をもんじゃ発祥の地とする説もあるようです。
そして時は「with コロナ」元年の2023年…。気が付くと浅草の食&娯楽の中心地(好立地)が、みるみるうちに「もんじゃ焼き店」、それも大手飲食チェーンによる陣取り合戦的に店舗が増殖しています。インバウンド急増で一気に浅草観光が活気を取り戻しつつある中、年末年始で浅草を取り上げるメディアも急増し、中でも話題がほぼ「進化する浅草グルメ」!
その「進化する浅草グルメ」として紹介されるほとんどがメロンパンと抹茶スイーツなのが淋しい限りですが、浅草住民として一番の気がかりは、やはり「石を投げれば、もんじゃ焼き店の行列に当たってしまう」という危うい状況です。
もちろん「もんじゃ焼き」自体にに罪はありません。浅草の観光名所「ホッピー通り」の由来「ホッピー」同様、東京下町食文化には欠かせない「もんじゃ焼き」ですが、この異常繁殖には誰かがイエローカードを出すべきでしょう。
10年くらい前にインバウンド客(特に中国人観光客)が急増した時は、浅草中心部にドラッグストアが異常繁殖し、一般マンションの間をぬって小規模ホテルが乱立しました(コロナによって開店休業~廃業も多数)。そして最近もレンタル着物を利用した若者カップルがメディアのインタビューに「ディズニーランドより楽しい。街全体がテーマパークみたい」などと答えていましたが、今や浅草の食文化が下町ソウルフードの代表的存在「もんじゃ焼き」の仮面を被った大手飲食チェーンに侵食されつつあることは間違いありません。
2015年、浅草六区のど真ん中に唐突に現われた「まるごとにっぽん」という摩訶不思議な商業施設は5年も持たずに一時閉業し、その後「浅草から日本を元気に」という威勢の良いメッセージを掲げて再登場した時のメインのテナントは、(ほぼ)「まるごとユニクロ」。さらに昨年には、ずっと不振続きだった飲食フロアを大改装(改悪‼)して、浅草食文化とは無関係な「浅草横丁」をオープンさせました。
「流行」とは文字通り、「流れて、行く」儚い現象です。
昔から東京の流行の発信源であった浅草に「メロンパン」や「もんじゃ焼き」が増殖するのは必然の出来事かもしれません。しかし、昔ながらの「食通街」が若者の行列の店に入れ替わり、「すしや通り」の寿司店がわずか2店舗になってしまうのは淋しい限りです。
「誰が」浅草食文化を殺すのか…。
それは一見活気があって、小ぎれいな、老舗を装う大手飲食チェーンのお店を、「進化する浅草」として喧伝するメディアやその情報を鵜呑みにして行列に並んでしまう一見さん(観光客)かもしれません。
追記
ちなみに私が個人的におススメするもんじゃ焼き店は浅草でも月島でもない、代々木八幡の「お惣菜と煎餅もんじゃ さとう」です(予約の取れないポルトガル料理店「クリスチアノ」のオーナーが経営)。ここには「明太もちチーズもんじゃ」といった平凡なメニューは一切見当たりません。全く味が想像できない(もちろん超美味‼)独創的なもんじゃ焼きが堪能できます。