■コロナとARTが共存する景色
飲食業界やエンタメ、特に音楽業界に大きすぎる打撃を与え続ける「緊急事態宣言」下の生活に微妙に馴染んでしまった東京。異常が日常に変化する中、静かに、しかし今まで以上に盛り上がりを見せているのがアート業界や美術館・ギャラリー等のリアルスペースではないでしょうか。
美術鑑賞というある種、非日常的な楽しみは、80年代バブル期のアートコレクションブーム(独り暮らしOLがクリスチャン・ラッセンやヒロ・ヤマガタの作品を部屋に飾る等)や、90年代以降のメディアが主催する海外美術展ブーム(アートの本場ニューヨークの「MoMAがやってくる!」フジテレビ主催)、自治体・企業や街が一体となって大掛かりに展開した「アートフェスティバル(六本木アートナイト)」等、これまでも様々なムーブメントを起こしてきました。
最近では「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか~経営におけるアートとサイエンス」なる、ちょっとしたベストセラーも生まれ、若手経営者(起業家)を中心に擬似アート信仰が広がったりもしました。
ベストセラーになった山口周氏の著書
そしてコロナ禍の真っ只中、他のエンタメ&カルチャー業界と違って絶妙な「ソーシャルディスタンス」感を纏ったアートの存在が大きくクローズアップされています。
いままでの美術展(美術館)のイメージを大きく覆すプログラムや演出、そしてユニークなプロモーションが大きな話題を呼んでいることが要因のひとつですが、この傾向はコロナがキッカケだけではなく、おそらく2009年に東京国立博物館で開催された「国宝 阿修羅展」の影響が大きいと思われます。
奈良・興福寺創建1300年のタイミングで開催された展覧会は、内容の素晴らしさもさることながら、プロモーション全体の仕掛け(戦略)が実に見事でした。事前に雑誌「BRUTUS」で仏像特集を組み、期間中は芸能界一の仏像マニア・みうらじゅんとミュージシャン・高見沢俊彦(THE ALFEE)のユニットによるオリジナルCDや、フィギュア制作会社・海洋堂による阿修羅像模型の発売等、まだSNS等が一般に普及する前に、あらゆるターゲットに対してマルチなアプローチで「仏像」や「奈良・興福寺」を老若男女に知らしめた功績は計り知れません。
企業コラボによるクォリティの高いミュージアムグッズ
近年、東京都内の美術館は、いわゆるヨーロッパの名画(印象派、ゴッホ、ピカソ展等)を展示するだけでなく、広告や映像の世界で活躍するクリエーターに焦点を当てた企画(「石岡瑛子展」「佐藤可士和展」等)や、アニメーションや特撮映画等の裏側を見せる展示(「ピクサー展」「庵野秀明展」等)を開催し、そのバラエティとクオリティは特筆すべきものがあります。
最近では、やはり横尾忠則に焦点を当てた企画(@東京現代美術館)が秀逸でした。
美術館やファッションビルのギャラリー(渋谷パルコ)等複数の会場を使って、様々な視点でほぼ同時開催されたプログラムは、広告(商業)デザイナーから芸術家に移行する稀有なアーティストの全貌を見せてくれました。
東京現代美術館HPより
他にも、極めて戦略的なプロモーションとメッセージ性の強い作品で、世界中のアート関係者の注目を集めている覆面(?)アーティスト・BANKSYに続いて、20年掛けてストリートアーティストからセレブ(?)アーティストへ昇りつめ、日本の芸能界やファッション界にまでその存在感を示したKAWS展(@森アーツセンターギャラリー)も見応えがありました。
余談ですがBANKSYもKAWSも日本初開催の会場は渋谷パルコギャラリー。そして担当は私でした。
「KAW FIRST 」展カタログ。2001年@渋谷パルコギャラリー(左)と2021年@森アーツセンターギャラリー
わざわざ(高額の)チケットを買ってフェスやライヴハウスまで行かなくても配信で楽しめる音楽ファン、大型スクリーン&大音響じゃなくても家でのんびりお酒を飲みながらNetflixで十分楽しめる映画愛好家、感染リスクが少なければどんなに早朝から車に乗ってスルーで回ってとんぼ返りするだけでも十分満足するアマチュアゴルファー達に加えて、身近で、気軽に、刺激に溢れたアートを楽しみ、心癒される人達が、これからの「ニューノーマル・ライフ with コロナ 」時代にますます増えるのではないでしょうか。