■消えゆく!?「立ち食いの文化」と「立ち呑みの美学」
いまだに先行きの見えないコロナ禍。
そして東京オリンピック開催の可否以上の関心事(心配事)が飲食店の未来、大げさに言うなら日本の食文化の行く末です。
私が特に注目するのは、先ずは「立ち食いの文化」。
もともと江戸時代から寿司や蕎麦を立ち食いスタイルで提供していた歴史がありますが、今では(特に東京の)駅チカ・駅ナカで必ず見かける「立ち食いソバ」が真っ先に思い浮かぶでしょう。分刻みで移動するサラリーマンの強い味方、まさにカロリーメイト的な時短の友として昭和の時代から圧倒的な存在感を見せていました。
余談ですがJR名古屋駅新幹線3・4番ホームにある「立ち食いきしめん」は、あまりの美味しさに途中下車する客が続出という都市伝説(!?)まで生まれました。
浅草駅地下街の名店、立ち食いソバ『文殊』(メイン写真も同じ)
しかし「働き方改革」前夜の頃から残業無しの若きサラリーマンやOL、IT系フリーランスの人達が、焼酎の代わりにワイン片手にフレンチ・イタリアン、そして焼肉やステーキを「立ち食い」で楽しむという、今となっては異様な光景が拡がりました。そして「立ち食い」のお店に行列が出来るという現象はあっという間に平準化し、「文化」に昇華する前(コロナ禍以前)にほぼ消え、ごくフツーのファミレスと何ら変わらない形態で生きながらえています。
何より「立ち食いの文化」の衰退以上に深刻なのは「立ち呑みの美学」の消失の危機でしょうか。
私が初めて、その「美学」の洗礼を受けたのは、惜しまれつつ2018年に閉店した「富士屋本店」(渋谷)。
鉄道会社と大型不動産ディベロッパーによる大型再開発で多くの食文化を闇に葬った(コラム#2参照)渋谷駅近くの雑居ビル地下にひっそりと、しかしながら店内はライブハウスさながらの熱気で東京の立ち呑み文化を支えた名店中の名店。主役はサラリーマン以外にも、渋谷センター街にたむろしていそうな悪ガキ風若者、その場に全くふさわしくない格好のOLグループまで、まさにジェンダーレス&ダイバーシティな居酒屋。
この店のルール(美学)は、先ずカウンターに正対せず客同士重なり合うように横向きになって飲むこと(ソーシャルディスタンス厳禁!)。最初の注文前にカウンターにお金(千円札1〜2枚程度)を置いて、そこからオーダー品が届くたびに精算していく超明朗会計なシステム(デポジットとCODの組合せ! 電子マネーやクレジットカード使用不可!)。少しでも無駄に大騒ぎしたり、まともに酒も飲まずに長居しようものなら、名物女将から即刻レッドカード!
一見カオスな店内で、あれだけ雑多な人種が統制された行動でお酒を楽しむ光景は、まさに「立ち吞みの美学」を理解した客が無意識に創り出す快適な空間でした。
もちろん今でも都内には「スタンディング」の居酒屋やバーはたくさんあります。しかし、一期一会のお客同士、店員やオーナー、女将との絶妙な距離感や空気感といった「立ち吞みの美学」を醸し出すお店は少なくなりました。
アフターコロナの時代に、どのような形で「立ち食い」「立ち吞み」は生き残り続けるのか。
東京オリンピック(の競技会場)以上に、レガシーとして遺したい「文化」と「美学」です。
緊急事態宣言中ながら(^^;まっ昼間から賑わっている立呑屋