■高架下ビジネスの行方
「高架下」というと、私たちの世代は真っ先に昭和のいわゆる「ガード下の飲み屋街」を思い浮かべます。
余談ですが、パルコ宣伝部時代に新宿南口にあった高架下の台湾料理店に、キース・へリング氏を連れて行ったことがありました。錆びたお店の外看板になぜかサインしていた姿を思い出します。
昭和から続く、サラリーマンの聖地…も厳しい(涙)
きらびやかな接待の舞台だった「世界の歓楽街・銀座」のお隣、「サラリーマンのオアシス・有楽町~数寄屋橋」界隈の焼き鳥屋やビアホールが密集するエリアというイメージが強かったですが、平成の終盤(2010年代)あたりから、その様相は大きく変化してきました。
きっかけは2010年ごろ秋葉原~御徒町に誕生した「2k540 AKI-OKA ARTISAN」。
アクセサリーや革製品等の工房併設型ショップが、まさにものづくり職人(アルチザン)が集う、高架下ビジネスの新しいモデルを提示しました。
さらに2013年にはかつて存在した駅やプラットホームを利用した神田万世橋「マーチエキュート」がオープン。飲食店や雑貨・アパレルショップがオープンな空間に配されたユニークな商業エリアとして大きな話題を呼びました。
高架下ビジネスの先駆け、秋葉原~神田
こうした「高架下空間ビジネス」の転機になったのが2016年11月オープンしたその名もズバリ「中目黒高架下」。
もともと東横線高架下には、渋谷や代官山には無いちょっとダークで怪しい、でも極めて個性的(実験的)な飲食店がひしめき合っている唯一無二のエリアでした。
ところが近年の都内随一の人気花見スポット・目黒川の大ブレイクと時を同じくして、超オシャレグルメスポットとして大変貌を遂げた中目黒高架下の現状は…退店も相次ぎ、その人気(集客力)が急速に失速している感は否めません。
こうした負の連鎖(?)は昨年6月にオープンした「日比谷OKUROJI 」にも少なからず影を落としていると思われます。
帝国ホテルや宝塚劇場に近い日比谷エリアの富裕層を意識してか、これまでの高架下より高価なイメージの飲食店が多く、コロナ禍の真っ只中という最悪のタイミングとはいえ、高架下ならではの付加価値が生かされた空間とは言えない残念な状況に陥っています。最近の渋谷エリアのおぞましき垂直型開発の犠牲になった、知名度だけは高い上層階レストラン街や、表面的な意匠を纏っただけの立ち飲み街「××横丁」風情で消費者から支持を得られない(コラム#2参照)最近の鉄道系不動産事業の希望の光でもある高架下ビジネスにも陰りが見えてきたのでしょうか。
飲食店中心に開発したがイマイチの有楽町~日比谷の高架下
そんな中に現れた救世主(?)が、東武鉄道が主導する「東京ミズマチ」(墨田区)です。
2020年6月にスタートし、現在も進行中の高架下は前述したエリアとは一線を画する、魅力にあふれたコンテンツを備えています。何よりも解放感(開放感)に満ち溢れていること。浅草側(台東区)から、線路真下の「すみだリバーウォーク」を歩きながら隅田川を横断し、東京スカイツリーを一望できる広々とした芝生広場の横にレストラン・雑貨ショップ・カフェ・宿泊施設・スポーツ(ボルダリング)施設等が連なる東京ソラマチは、これまでの高架下とは正反対の価値を提供しています。
仕事疲れ(?)のサラリーマンを癒す密閉空間でもなく、トレンド好きな飽きっぽい一見さん向けのテナントを集めたわけでもなく、家族や気の置けない友達同士がふらっと立ち寄れる、誰もが気持ち良くなれる空間を提供するという極めてシンプルな価値を創造しています。
今、話題の東武線高架下の「東京ミズマチ」エリア
とはいえ「東京・高架下めぐり」という新しい観光ツアーが生まれたことも確か。
コロナ禍が落ちついたら、是非東京滞在を1日延ばして堪能してみてはいかがでしょうか。