2005年4月、別府で生まれたアートNPO、BEPPU PROJECT。当初は見向きもしなかった多くの別府市民も、彼らが地域に吹き込む新たなアプローチに感化され、いまでは活動を共にする共感者も増えてきた。「地方創生」という言葉の一人歩きが危惧される中、大分県別府市を拠点にする彼らはアートを通じて何をしようとしているのか。代表理事・山出淳也氏へのインタビューを、複数回にわたってお届けする。
BEPPU PROJECT、11年目の始動
——2015年でBEPPU PROJECTが発足後10年を迎えました。
山出 最近は「アートを活かしたまちづくり」という言葉が頻繁に聞かれるようになりましたが、別府で発足して以来の10年間、僕らが取り組んできた事業数を数えてみたら、なんと1,000を超えていました。これまでの僕らは、自らが事業を主催して地域に関わっていき、垂直型に“引っ張り上げる”役割を果たすことを目標に活動してきました。その目玉事業が別府現代芸術フェスティバル『混浴温泉世界』でした。これら事業を前進させることで、地域の様々な活動が誘発され、それを僕らがリードしていくようなイメージです。しかしこれからのBEPPU PROJECTは、「クリエイティブ・パートナー」として活動を“押し上げる”役割を担うイメージで取り組んでいます。これまでが“ハンドル”だとすれば、これからは社会を魅力的に変える創造的な“エンジン”となることを目指していきます。さらに言えば、活動する方々自身もイニシアチブを持ち、自らがエンジンになっていくことが理想です。
——一連の取り組みの前提になるところですね。
山出 アートやクリエイティビティなどの「創造力」が、地域社会をより豊かにしていく、ある種のOS的な機能を果たすという考え方です。たとえば僕らが実践してきた文化芸術振興事業を、国の取り組みにあてはめてみるとわかりやすくなります。地域の特徴を生かしたアートイベントや学校で行うワークショップは文科省、清島アパートのような制作活動を行う短期滞在型施設の運営は総務省、福祉施設へのアーティスト派遣や障害者アート展の開催は厚労省、『旅手帳beppu』の発行等も含めアートとともに地域の魅力を情報発信する事業は観光庁、『オオイタメイド』によるブランディングや六次化事業への展開は農水省、クリエイターと企業をつなぐ産業振興事業は経産省といった具合に、多岐にわたっています。僕はBEPPU PROJECTにおける組織経営は「インカム(収入)の多様化」が重要な位置付けを占めていると考えていて、これは単に助成金等を出していただくだけでなく、管轄別に縦割りで組まれていたものの中に僕らの企画事業が横串を刺す役割を果たしたいという思いが強くあります。
——活動初期は別府市中心市街地活性化事業に取り組んでいました。
山出 都市の創造性について考えるシンポジウムを開催し、そこで発表した構想をもとに中心市街地に『platform』という“場”を作りました。そのplatformで様々な事業を展開していくと、だんだんと事業の枠外に広がりはじめ、違う場所へ波及していき、まちの寛容度を高めていく役割も果たしはじめました。そのうち地域外のアーティストから「別府に移住したい」という申し出が続き、外国人が滞在制作する仕組みや、国内外のアーティストが居住できる施設を作りました。アートを目的に若い女性客が多く訪れるようになりましたので、セレクトショップも始めました。このお店では、竹工芸やつげ細工など別府の工芸に取り組む職人や、別府在住のアーティストとともに、若い女性客のニーズにマッチする、別府ならではのオリジナル商品の開発も行っています。
——確かに別府の町に変化が生まれてきているように感じます。JR別府駅の北高架商店街などは、アート系ショップの集積地になっていますね。
山出 北高架商店街は、僕の知り合いからBEPPU PROJECTの事務所近くでアートカフェを出店したいと相談を受けたのがはじまりです。それが契機となっていろんな人たちがこの場所の魅力を再発見し、フリーマーケット等のイベントを実施していくうちに、それまで80%もあった空き店舗がすべて埋まったのです。ここで重要なのは、行政からの補助金、つまり税金投入がゼロだということ。このように多彩な人たちが町の中で面白い活動を始めることでプレイヤーが育ち、そこから『ベップ・アート・マンス』へと繋がっていったのです。
——毎年秋に開催している市民参加型のイベントですね。
山出 『混浴温泉世界』はディレクターが選んだアーティストを招聘する国際芸術祭です。2009年に1回目を開催したのですが、その時にもっと間口が広い在り方も必要なのではないかと思ったのが、『ベップ・アート・マンス』を企画するきっかけになりました。地域に根付いた文化事業をはじめ、移住してきたアーティストや何か始めたいと思っている市民が参加できる仕組みを作るべきだと考えたんです。『ベップ・アート・マンス』は登録型の市民文化祭で、さまざまな展覧会やイベントが登録されます。『混浴温泉世界』と違って、こちらにはディレクターがいないので、誰でも参加でき、クォリティーで判断される事もありません。最初はみんな、自分がやりたい企画をやるだけなんですが、継続的に参加するうちに、お客様の感想を聞いたり反応を伺うようになって、徐々に向上心が芽生えてくるんです。これが市民の文化度を上げていくことに繋がり、アートだけでなく色んな活動を展開する人材が地域に増えていく。ここが、僕らが一番大切にしたいところなのです。
■関連ぺージ
「あの人に聞きたい」山出淳也氏 #2