2021年4月23日、大分みらい信用金庫は別府市を通じて市内の地区温泉(共同温泉)に2,000本のアルコールジェルを寄贈しました(該当の記事)。本事業の契機になったのが、ビジネスプラン発表会「ONE BEPPU DREAM AWARD 2020」で有限会社サンエスメンテナンスの塩見泰美専務取締役が提案したビジネスプランから。事業名「おんせん県おおいたの“温泉コミュニティ”を守りたい」に至るまでの背景や具体的な取り組み、今後の展開などについて塩見専務にお話を伺ってきました。
■温泉コミュニティ減少に対する危機感
──塩見さんが専務取締役を務めるサンエスメンテナンスでは、どのような事業を手がけているのですか?
塩見 病院や学校、観光施設、温泉施設といった各種施設のメンテナンス事業を中心に展開しています。1984年に父が設立したのですが、2006年に別府市の指定管理者制度導入に伴い、市内数ヵ所の市営温泉や別府市コミュニティセンター(同市上野口町)の管理業務も担当するようになりました。「会社も自分も、別府の皆さんに育てていただいた」という想いが強い父の背中を見て育ち、この事業を継いだ私としても仕事を通じて出会った多くの方々や地元に恩返しがしたいという想いが強くあります。2018年には障がい者就労支援施設「一般社団法人 椿」も立ち上げました。
──その想いが、アワードで発表したビジネスプランにつながっているのでしょうか。
塩見 別府に住んでいるとなかなか気づきにくいのですが、別府の温泉って他では見られない特殊な場所だと思うんです。例えば子どもを連れて温泉に入ると、知らないお婆ちゃんから「私が見ちょっちゃんけん、そん間にあんた髪を洗いよ」と子どもを抱っこしてくれます。これが観光客だと「なんてことするんですか!」となるのでしょうが(笑)、これこそ別府ならではの“いらん世話(しょわ)”文化(笑)。誰かに何かしてあげたいという、別府人ならではの思いやりなんです。別府の子どもは温泉で会うお年寄りに見守られ、ある時は叱られ、大きくなっていく…。全国的に核家族化が進み、ご近所付き合いが薄れていくなか、こういったコミュニティはとても貴重ですし、私が「別府大好き」な理由のひとつでもあります。そして、これを後世に繋いでいくことが、私にとっての恩返しだと思ったのです。
──“いらん世話”文化が存続危機に直面していると感じたのですね。
塩見 別府市内には80ヵ所以上の地区温泉があり、そこでは地域の方々が役割分担をしながら清掃や受付などを行い、おかげで私たちは温泉を当たり前のように温泉を利用できるのです。ところが人口減少や高齢化などによって温泉の維持管理は困難になりつつあり、このままだとコミュニティがシュリンクしていくことは避けられません。実際のところ、私がこの課題に取り組み始めてからの1年間で、3ヵ所もの地区温泉が存続の危機に直面しました。地区温泉の減少に歯止めをかけることで温泉コミュニティを継続・発展させていきたいという想いは非常に強く、この危機感を共有してもらうことが重要だと感じています。
■コロナ禍だからこそ地域の温泉を見つめ直す
──アワードでは地元の共同温泉への想いを託したプランになっていましたね。
塩見 「#(ハッシュタグ)別府エール風呂」と名付けられたプロジェクトでは、お気に入りの温泉紹介だけでなく、それぞれの共同温泉で見かける名物人間、その温泉ならではの“あるある話”やエピソードなどをSNSで発信しています。別府の地区温泉の情報を取りまとめる機関や情報交換の場はないのですが、このハッシュタグをきっかけに点と点がつながり、ネット上のコミュニティ拡大、ひいては「自分もこの温泉に入ってみたい」というリアルの入浴者増につなげていきたいと考えています。
──面白い取り組みですね。
塩見 もともとアワードは2020年2月の開催予定でしたが、コロナ禍で8ヵ月延期されました。その間に状況は大きく変わり、プロジェクト自体も飲食店のテイクアウトプロジェクト「#別府エール飯」の流れを組むものにさせていただきました。コロナ禍で旅行に行けない今だからこそ、自分の町内にある温泉を見つめ直すきっかけにしてほしい。そんな想いがこのプロジェクトに込められています。おかげさまで発表後から多くの方にご協力いただき、市内・県内だけでなく県外に住む別府八湯温泉道名人会の方などもSNSに投稿してくださってます。本当にうれしいですね。