女性起業家の創出を目的としたビジネスプランコンテスト「おおいたスタートアップウーマンアワード」。みらいしんきんは当アワードのサポーター企業として事業の実現・成長促進を応援しており、2018~2019年にかけて開催された2回目のアワードでは、ファイナリストとして登壇した女性起業家9組にサポーター賞を贈りました。
サポーター賞をお贈りした女性起業家3組をご紹介していますが、最終回は2018年6月に、紙製のハンドメイドアイテムを提案するブランド「KAMIKA」を立ち上げた後藤美佳さんにお話を訊いてきました。
■自分にしかできないことで勝負
──「KAMIKA」はハンドメイドで紙製のプロダクトを提供するブランドだと伺っています。概要について教えていただけますか?
後藤 フランスには、厚紙で組み立てたボックスなどに紙や布を貼り付けて仕上げる「カルトナージュ」という伝統工芸があります。「KAMIKA」はそのカルトナージュをベースに、現代の生活スタイルに寄り添ったハンドメイドアイテムを提案するブランドとして2018年6月に立ち上げました。現在は厚さが違う2種類の名刺ケースを展開しており、衣類のように色や素材を選んでいただくことで、お客様だけの“オンリーワン”をご提供しています。ちなみにブランド名は、「紙(KAMI)」と、私の名前「美佳(MIKA)」を組み合わせたものです。
──どのようにしてカルトナージュと出会ったんですか?
後藤 実物に触れたのは13年ほど前、友人が経営するブライダルショップで働いていた時のことです。ウェディングで使うお花の買付をするために、フランスに行ったんですね。そこでカルトナージュに出会って、一目惚れしました。まず、見た目がとってもかわいい。それに自分が工作好きということもあって、いろんな形のものを紙だけでつくれることに魅力を感じたんです。当時は大分にカルトナージュを教えてくれる教室なんてありませんでしたから、福岡のカルトナージュ教室まで通いました。その後、先生から講師認定をいただけたことで、大分市内に自分の教室を開けるまでになりました。
──自分で教室を持つまでになったんですね。そこから「KAMIKA」の立ち上げに、どうつながっていくんですか?
後藤 大分の地元企業と地元クリエイターがつながる場として大分県が主催している「おおいたクリエイティブ実践カレッジ」に参加したのがきっかけですね。とはいっても、当時の私にとってカルトナージュは「趣味の世界」でしたから、カルトナージュで地元企業に貢献しようとは考えてなくて…。以前からやっていたWebサイト制作の方で人脈づくりをしたいと思って参加したんです。で、当然ながら名刺交換をしますよね。カルトナージュの自作名刺ケースを出すと「これが紙なんですか?」と驚かれるんです。そこから、「私にもつくってください」とお声がけいただくようになって、だんだんとビジネスとして意識するようになりました。
──趣味の世界と思っていたものが、ビジネスで通用することが分かったんですね。
後藤 最終的には、クリエイター仲間から「Webデザイナーはたくさんいるけど、カルトナージュ職人はあなたしかいないから、そっちで勝負した方がいい」という言葉をかけていただいたことで、自分の気持ちが固まりました。それに、私の名刺ケースづくりに共感してくださった建築士やプロダクトデザイナーの方が製品を進化させてくださって、もっと多くの方に使っていただきたいという想いが強くなったというのもありますね。
■モノづくりではなく、コトづくり
──ブランドの立ち上げ後、ビジネスはどのように進んでいったんですか?
後藤 先ほども申し上げた通り、自分にとってカルトナージュは趣味の世界だったので、ビジネスとして線引きするのが難しかったですね。もともと職人気質なところがありましたから、こだわろうと思えば、採算なんて度外視してどこまでもこだわれる。でも、それだとビジネスとして成り立ちません。まさに「葛藤」でした。ですから、プロダクトアウトで製品をつくるのではなく、お客様一人ひとりに向き合うクラウドファウンディングを行うことにしたんです。160名以上の方からご支援いただいたのは非常にうれしかったですね。それと同時に、すべて自分一人でやるのは大変でした。おかげで自分の中でバランスが取れていったように思います。
──「おおいたスタートアップウーマンアワード」にエントリーした件についても聞かせてください。
後藤 女性起業家が集まる「iGC」というプロジェクトを通じてアワードの存在を知ったんですが、エントリーするにあたってはいろいろな壁に直面しました。「京町やむちゃ」の皆さんともいろいろお話をしたんですが、彼女たちも苦労していた「何のためにビジネスをするのか」という意味を考えるのが難しくて(詳細は「京町やむちゃ」のインタビュー記事を参照)。異なる視点からのアドバイスでカルトナージュをビジネスにしようと思い立ったはいいものの、それを通じて何を実現したいのかという想いまでは形にできていなかったんですよね。そこで、初めて「私の名刺ケースもつくってください」とお声がけいただいた時のことを思い出してみることにしました。あの時の私は、単に「モノ」をつくるだけじゃなくて、名刺ケースを持つ人の背景まで考慮した「コト」づくりをしようとしていたと。
──名刺ケースづくりは、モノづくりではなく、コトづくりであると?
後藤 人って、名刺のデザインにはこだわりますけど、名刺ケースにはあんまりこだわらないじゃないですか。でも名刺に合わせた、もっと言えば、その人のビジネスイメージに合わせた名刺ケースならブランディングという面でも統一感を出せますし、自分に合った名刺ケースを身に付けることで仕事に対する姿勢だって変わるかもしれません。一人ひとりに合わせた製品がつくれるハンドメイドだからこそ、「KAMIKA」はお客様のビジネスをサポートする「応援ビジネス」になれるんだ、と思った時に、自分の中で腑に落ちたんです。アワードではそこを評価していただきましたし、これを謳ったからには、もっとコンサルティングのようなこともしていかないといけないと思っています。
──「KAMIKA」の今後についても教えてください。
後藤 ブランドを立ち上げた頃と比べて効率良く作業を進められるようになってきたので、2020年2月にオンラインショップを立ち上げました。でも、直販だけだと限界があるので、ゆくゆくは卸売にもチャレンジしたいですね。さらには、日本を飛び出してカルトナージュの故郷であるフランスにも進出できたら、と思っています。安定的な売上が確保できるようになれば、このビジネスで雇用を生み出したい。人を雇うには覚悟が必要ですし、自分だけでやるのとは違った視点を持たないといけません。「KAMIKA」は私一人でなく、応援してくれたたくさんの仲間や、支援してくれた多くのお客様がいるからこそ生まれたブランドですから、売上拡大・雇用拡大のサイクルをうまくビジネスの拡大につなげ、皆さんに恩返しができればと思っています。