「あの人に聞きたい 第10回 阿部 清治さん/株式会社ジェイテック 代表取締役社長(高城支部会員)#1」からの続き
■フード、現代アート、フットサル、託児所と多彩な彩りのABタウン
──複合施設となるABタウンの開業がいよいよ近づいていますが、御社事業との関連についてお聞かせください。
阿部 今回のプロジェクトの背景には、かねてから頭を悩ませていた不便を解消したいという目的があります。当社のクライアントには日本製鉄、ENEOS、昭和電工といった大手進出企業があるのですが、各社コンビナートに出入りする検査技師や出張ビジネスマンが困っていたのが「宿泊場所の確保」です。以前は周辺に民宿など多数あったのですが、今はずいぶん少なくなりました。少し足を延ばせばビジネスホテルもありますが、もっと近く、もっと便利な施設が必要ではないかと考えたのです。ABタウンは大在大分港線(通称「40メートル道路」)の三佐交差点の位置に立地し、各社まで自転車でも行けるほどの近さ。移転した大分東警察署があった場所と聞いて、ピンと来る方も多いようです。
──グループとして新規事業に参入するわけですが、もともと社長自身は宿泊業に関心を持っていたのでしょうか?
阿部 私は別府育ちでホテルや旅館は身近な存在だったので、興味のある事業ではありました。そんな時、大分東警察署跡地の入札情報を聞いた時、これは私がやるしかないと思い立ったのです。実はこの場所は私が独立して居を構えた、人一倍思い入れのある地。であれば、思いきってホテルだけでなく様々な機能を加えて、自分で新しい「街」をつくってしまおうと考えるようになったのです。幸いにも私の想いを周りに話したら皆さん理解してくれましたし、ホテル業界での経験がある方も加わり、順調に開業に向けての準備が進んでいます。
──まちづくり的な側面もあるプロジェクトのようですが、具体的には敷地面積6,770㎡の中にどのような施設が入居するのですか。
阿部 まず株式会社ABタウンが運営する「A&Beeホテル」は、地上6階建・客室数147室のビジネスホテルで、貸会議室や居酒屋などもご利用いただけるようになっています。さらにコーヒーショップ、ラーメン店、スイーツショップ、フットサルコート、そして周辺住民の皆さんにもご利用いただける託児所をオープンいたします。これらに加え、私と親交がある現代美術家の鎌谷徹太郎さんの作品を展示する「青空美術館」も設置します。ABタウン全体を彼の作品で取り囲み、敷地内を散策しながら鑑賞できるように展示して、作品も順次入れ替えていきます。ABタウンの向いには大手家具チェーンのニトリも同時期にオープンしますし、従来のイメージとはガラリと変わったエリアになるでしょう。
■日本初の「空気が見えるホテル」へ
──これまでのお話を聞くだけでワクワクしてきます。ところでホテル業界は新型コロナウイルス対策で頭を悩ませていますが、それに関してはどのようにお考えですか。
阿部 Bタウン建設中にコロナ禍が発生するなか、これからのホテル経営に必要だと考えたのは、何よりも「安心」でした。しかし消毒や換気だけでは、客室内の状況がどうなっているかまではわかりません。そこで工事の着工と並行しながら国内外の各種設備を検討していた末に導入を決断したのが、非破壊検査装置で取引のあるイスラエルのスタートアップ企業が開発したコロナウイルス不活性化装置でした。この装置は室内の温度や湿度、花粉、ウィルスなどの状況を測定し、それらを吸着・不活性化できるというもの。その状況は各部屋に置いたタブレット端末で確認することもできるというシステムです。
──リアルタイムで室内の様子がデータ確認できるとは、宿泊利用者も安心できますね。
阿部 いわば「空気が見えるシステム」であり、日本初の「空気が見えるホテル」として、お客様に安心を提供できるようになるんです。導入に際し交渉に時間がかかりましたが、最終的には当社が日本でのパテントも取得するに至りました(登録出願中)。これにより、本システムの国内普及においても当社主導で進めることができそうです。
──今後の事業展開についてお聞かせください。
阿部 まったく新しいチャレンジとなるABタウンに関して言えば、まずは1年ほどで基礎的なスキルを磨き、次のステップに進むための方策を整える計画です。グループの中核事業である非破壊検査においては、大きな課題があります。実は少子高齢化に伴う人手不足や、資格取得の難易度向上により、検査技師を希望する人材が年々減少しているのです。かたや高度経済成長期に造られた工場や各種設備の老朽化が進展しており、今後は検査業務のさらなる増加が予測されます。これ以上、需給バランスが崩れないよう、資格者育成の強化策を講じることが求められます。M&Aによるグループ拡大、新規事業への進出などの成功事例が、新たな化学反応が巻き起こせるよう鋭意努力を継続します。
(2020年8月)