いよいよトリニータの2018シーズンが開幕しました。
この原稿を書いている時点(第3節終了時)では1勝1敗1引き分けで、スタートダッシュというわけではありませんが、これから先長いシーズンしっかり戦って行ってくれるものと期待しています。
試合とは別に、今シーズンは大銀ドームで新たな試みをいくつか始めています。スタジアム外での飲食売店の設置は、以前からご要望の多かったポイントの一つです。これから改善を積み重ねながらよりみなさんに楽しんでいただけるようにしていきます。
また、「障がい者スポーツ体験コーナー」常設をスタートしました。
東京オリンピック・パラリンピックを控え、「障がいのある方もない方も、一緒になってスポーツを楽しめる社会づくり」をテーマに掲げて、さまざまな障がい者スポーツを皆で体験していこうという試みです。大学のボランティアサークルの方々にも運営に加わっていただき、地域全体で機運を盛り上げたいと思っています。
ぜひ皆さんも、大銀ドームに足を運んでいただき楽しんでください。

さて、本題です。
私がリクルート退職後転職した会社は、いずれも中規模以下の会社であったことは前述のとおりです。
そこで最も強く感じたのは「社員に経営の意思をはっきり伝えること」の難しさでした。
それぞれの会社には「企業理念」や「行動指針」のようなものがあるにはあっても、それがお題目になっていて、日々の行動に反映されていないことが大半でした。「仕事の指示・命令・目標」はあっても、それをやる目的や、それを遂行していく過程でどのような成長を遂げたいのかなどについては、ほとんど語られることがありませんでした。

私は、人と組織が成長するための必須要件は人材育成であると思っています。そして、人材育成の原点は経営者の理念・哲学の伝授からだと思っています。そこで私は入社初日に必ず2~3時間ほどかけて直接講義をしていました。
テーマは「うちの社員にはどうあって欲しいか」について語り伝えることでした。
そこでは、以下のようなメッセージを伝えていました。
(イメージしやすいように、当時の言葉使いをそのまま記します)

【大事にする言葉】
「自立」と「自律」

  • 自立とは自分の足で立つこと。
    そのことの重要性は誰もが分かっているはず。しかし本当に大事なのは、その「立ち方」である。「立ち方とはスタンス・構え・フォーム」のことである。スタンスが間違っていると物事は決して上達しない。スポーツを例にとればよくわかる。たとえばゴルフ。スタンスが間違っていれば、どれだけ練習してもボールは真っすぐ飛ばない。陸上にしても走り方の基本フォームを身につけないと体に余分な負担がかかる。仕事も同じ。まずは自身が仕事に対して真正面から向かっているか、つまり正対しているかを日々留意することが重要なのである。
    しかし、同時に「自分のスタンスを正しく見る・客観的にとらえる」ことは難しい。そのために上司・同僚がいる。彼らにきちんと聞いてみること。「自分の仕事へのスタンスが正対(スクエア)かどうか」を。スポーツ選手は、超一流であっても自分のスタンス・フォームをコーチに見てもらっているのである。
    ※当時は、「タイガー・ウッズであっても、素振りを後ろからコーチに見てもらってアドバイスを受けている」とのたとえをよく使っていました。

 

  • 「自律」とはセルフコントロールのこと。
    ピアノの調律師という職業がある。彼らの仕事は、誰がどの強さで鍵盤を叩いても、きちんと正しく同じ音が出るように調節すること。つまり反復・再現性を高めること。スポーツにおける素振り・基礎練習がそれに当たり、それをないがしろにしての上達はない。その繰り返しによって、無駄な力が自然と抜け、正しいスイングに近づいていくのである。
    そして、その単純作業の繰り返しこそ、魂を込めてやる必要がある。でなければ文字通り「ただの作業」になり、時間が費やされるだけで何も身につかない。仕事における単純作業とは「基本動作」である。挨拶・整理整頓・時間/納期厳守などがそれにあたる。ここをルーズにしているビジネスマンに成功者はいないし、組織の強さはここを見れば一目瞭然である。

このテーマだけで1時間近く話していたように思います。
そして、私はこれを紙に書いて渡すことは決してしませんでした。「メモを取る」「自分の言葉をきちんと加えて残す」ことを求めたのです。入社初日の社員研修での緊張もあるとは思いますが、その間のメモの取り方を見ているだけで、その人の今後の成長度合いがある程度想定できるようにもなりました。上長の話を聞いて「メモを取ること」はまさに「自立と自律」の実践の基本だと思っています。

そして、初日の研修のメインテーマともいえる「私の考えるプロとは何か?」についての話に移ります。

【社員にはプロであって欲しい】
「私の考えるプロとは何か?」

世の中には「プロとは何か?」「プロとアマの違いは?」「一流とそうでない人は何が違うか?」などについて書かれている本・記事などがたくさんある。そのどれも否定するつもりはない。私は、「私の考えるプロ論」について皆さんに語る。うちの社員である以上、それを前提にして欲しい。そして「自分なりのプロ論」を自身の中に確立させて欲しい。

……ここから、何を話していたか?
それは次回のお楽しみに。
(勿体ぶるようなことではないですが……笑)

※写真は大分トリニータの2018年スローガン「勇往邁進」を、大分高校書道部の皆さんが力強く書道パフォーマンスで披露していただいたものです。

profile

神村 昌志 氏
(かみむら・まさし)
株式会社大分フットボールクラブ経営改革本部長。
1962年、愛知県半田市生まれ。大阪大学文学部卒業後、1985年に株式会社リクルート入社。2年目よりリクルートUSAへ出向。ロサンゼルスに駐在。外資系企業を経てJAC Japan(現・JAC Recruitment)入社。2003年に代表取締役に就任し、2006年JASDAQ上場を果たす。2008年10月より株式会社アイ・アム代表取締役社長を経て、2012年3月より株式会社アイ・アム&インターワークス代表取締役会長。2015年にはJリーグが設立したプロスポーツの経営人材を養成するビジネス講座「Jリーグヒューマンキャピタル(現・一般財団法人スポーツヒューマンキャピタル・略称「SHC」)」一期生へ。2016年より現職。趣味はサッカー、ゴルフ、落語、講談、ワイン、読書。アマチュア講談師として年に数回高座にも上がっている。
■大分トリニータ(株式会社大分フットボールクラブ)
http://www.oita-trinita.co.jp
■一般財団法人スポーツヒューマンキャピタル
http://shc-japan.or.jp