経団連が定めた新卒の採用ガイドラインである選考スケジュールが、来年、2016年卒業の大学生の就活から変更になりました。

会社説明会は前年(就職する年の2年前)の12月1日から翌年の3月1日へ、面接などの選考活動は就職年の前年4月1日から8月1日へと変更。しかし正式内定は10月1日のままです。

これによって、学生はより学業に専念できるということですが、実際は、単に就活期間が短期になっただけ。高学歴で優秀な学生は、大企業から内定が出ればそれで終わりですが、そうではない学生は、大企業に落ちれば、そこから中小企業を回りはじめ、結局、10月を過ぎても就活が終わらないという状態になるでしょう。

さらに卒業式を迎えても、なお内定が出ない学生もいて、彼ら彼女らの不安な気持ちを慮ると、察して余りあるものがあります。なかには、就活で失敗して自殺する学生さえいるそうです。我々大人は「そのくらいで死ぬなんて」と軽々しく非難しますが、本人にとっては、それほどに追い詰められていたのでしょう。

エントリーシートを出して、書類審査や筆記試験ではねられるのであれば、まだキズは浅い。しかし、面接まで進んで落とされると、小さなものから大きなものまで、学生の心は多くのキズでいっぱいになり、最後には耐えられなくなります。

このキズは私たち大人には想像できないかもしれませんが、それはそれは深いもの。なぜなら、就活生たちが会社から落とされるということは、その人格を否定されることと同等なことだからなのです。

考えてみれば、ほとんどの就活生は、ハタチを過ぎるころまで、蝶よ花よと、周りからまったく否定されることなく育てられているわけです。それが、就活ではいきなりの全否定。人格まで否定されたと感じ、私は世の中で必要のない人間だ、と思い込む学生もいるようです。

面接では周りと違う自分を演出しなければならない。しかし、そもそも小学校からずっと周りと同じことを求められ、みんなと違うことをすると“出る杭”として叩かれることを覚えてきたのです。自己主張しないほうが、おとなしくて素直な“いい子”。だからこそ大学の就職課も“指導”として、就活生みんなに黒色のスーツを購入させるわけです。いわゆるリクルートスーツ。見かけから他の学生と同じ状態にします。突出しないほうが得というわけです。

しかし20年以上もそういう環境に置かれているにもかかわらず、就活の面接では「私は周りの人と異なり御社のためになる人物です」と主張しなければなりません。

これがどれほど滑稽なことか、大学も学生も、そして企業もわかっていない。そうして就活に破れた学生の心にキズだけが増えていくということになります。

私は学生には「黒のスーツだけは着ていくな。華美な服装でなければ、企業は気にしない。むしろ人との違いを演出できる」と伝えていますが、そこまでの自信がない学生は、やはりリクルートスーツを着ていく。人と異なることに慣れていないんですね。みんなと同じほうが安心というわけです。

もちろん最近は「私服でお越しください」という企業もあります。しかしそうなると大学という特殊な環境にいる大学教員は指導できません。学生は混乱するのみ。単に「初めての人と会うときに失礼のない服装」というだけなのに。

そろそろ私たちは気付いたほうがいいのではないでしょうか。

それほどに滑稽な就職活動は、経団連が指導して一律におこなうことではないことに。そもそも経団連に加盟していない企業にとっては、まったく関係がありません。外資系などは就活ガイドラインなど関係なく独自に採用活動をしています。

ガイドラインがなくなると青田買いが加速すると言う人がいます。

ですが、早い段階で就職が決まった学生は、みな学業をおろそかにするのでしょうか。

百歩譲って、たとえ学業をおろそかにしても、ほかのことに精を出して人間的に成長し、会社に貢献してくれるのであれば、企業にとってはそれでいい。結局は、企業にとって入社した人が会社に貢献してくれればいいわけで、青田買いした学生が入社して一様に活躍しないのであれば、そういう学生を採用し続けた企業は青田買いを止めるでしょう。

数年はかかるかもしれませんが、企業が経済活動をおこなうかぎり、そういう方法は自然と淘汰されて最適化されるはずです。

入社後の社員教育などを考えると、就活を一斉におこなう合理性がわからないわけではありませんが、そもそも学生が即戦力であればいいわけで、そういうスキルを持った人材のほうが企業にとってはむしろ都合がいいわけです。

そろそろすべての仕組みを根底から変えて、企業が欲しい人材とその企業で働きたい人材のマッチングにしかすぎない就活を特別なものから脱却させなければいけない時機がきていると思うのは私だけでしょうか。

profile

田代 真人 氏
(たしろ・まさと)

編集者・ジャーナリスト。(株)メディア・ナレッジ代表。駒沢女子大学、桜美林大学非常勤講師。1986年九州大学卒業後、朝日新聞社、学習研究社、ダイヤモンド社と活躍の場を変え、女性誌からビジネス誌まで幅広く取材・編集。著書に『電子書籍元年』(インプレスジャパン)、構成作に『もし小泉進次郎がフリードマンの『資本主義と自由』を読んだら』(日経BP社)がある。