ジェットコースター人生と言われるほど破天荒な創業者トラビス・カラニック氏は、インターネット黎明期に検索エンジンの会社を立ち上げるなど幾度かの起業や失敗を繰り返した末に立ち上げたネットワークソフトウエア企業を売却。2300万ドル(約25億円)という大金を手にし、世界中を旅をしてパーティーに明け暮れた。
Uberのアイデアもそんな時期に創業者のギャレット・キャンプ氏と2人でタクシーがつかまらなかった経験から閃いたものらしい。このUberが展開してきたアイデアは、公共交通機関の未来を切り開いているといっても過言ではない。
このカラニック氏は、無鉄砲で傲慢な経営者として有名で、メディアからも興味や注目を集めていた。タクシーの運転手と口論になり走行中の車のドアを開けて飛び出したというカラニック氏は、わざと遠回りしたり法外な料金を請求するような運転手が横行する世界中のタクシー業界とも対峙している。
そしてUberは、世界70カ国450都市以上で展開している配車サービスに成長。大型ドローンで人を運ぶ「空飛ぶタクシー」の開発投資として4億5700万ドル(約511億円)を集め、最近はトヨタ自動車とデンソー、ソフトバンク・ビジョン・ファンドからも総額10億ドル(約1,120億円)の出資を受け、2019年5月10日に株式公開している。
Uberの運転手は自分の車と時間が自由ならば、誰にでもなれる。ただ、性暴力などの履歴がある人には資格はない。これは、今話題のシェアリングエコノミーと言われるビジネスのスタイル。つまり、一般の人が空き時間や能力を持ち寄って成り立つ新たなビジネスモデルなのだ。
例えばカリフォルニア州のロスアンゼルス空港に飛行機が到着するとこんな具合だ。
機体が滑走路に着くや否や、何人もがスマホを取り出して、Uberや類似するサービスのアプリを起動している。
アプリの地図上には、ロスアンゼルス空港付近を走る空車が表示されている。預けたボストンバッグを受け取る頃には、行き先を打ち込み配車依頼を済ませている。Uberでは、乗合タクシーや普通車やラグジュアリークラスの車まで揃う幾つかのクラスから車を選ぶことができる。
あとは、地図上を移動して近づいて来る車を出迎え、キャッシュレスで目的地まで送り届けてもらうだけだ。運転手は初老のおじさんだったり、アマチュアバスケットボールの選手だったり、元タクシードライバーだったりと様々だ。
著者は、重低音が響くマッチョなラッパーの車に乗ったこともある。
Uberなどの配車サービスが浸透したのは、スマホアプリで申し込みさえすれば比較的スムーズに廉価な運賃で移動できるからだ。そして、ロスアンゼルス空港のタクシー乗り場に空車の列が出来ているのに、Uberなどのスポットは次々に迎車が入り活況が続いている。
そして支払いは到着後に自動的に引き落とされる。アメリカの場合はサービスや荷物の積み下ろしなどにチップを手渡す習慣があるので、降車後に届くアプリのレコメンドに応えてチップを載せて支払うこともできる。
今や世界中の多くの空港で、こんなやり取りが毎日繰り広げられている。もちろん空港だけではなく、買い物に行く老人や、ディナーに向かうカップルがUberや近年興隆しているLyftなどの配車サービスを使っている。
異端児でやんちゃなカラニック氏が起業した会社だから、とにかくこれまでの業界や因習を破壊してでも成長し続けるパワーを持った企業に育ったのかも知れない。
起業後、多くの出資も集めて急速に拡大したUberだったが、実はトラブルも多い。
社員旅行で社員数名がコカインを吸ったと暴露され、カラニック氏の元ガールフレンドから売春の温床でもある韓国カラオケを使った接待営業などが明かされた。また、サンフランシスコでUberの車が幼女を死亡させた際にUberが賠償責任を拒否して問題にもなった。さらに、昨年にはUberの自動運転自動車がテスト中に女性をはねて死亡させる事故が起きた。社内は役員のセクハラ問題などで擦った揉んだし、カラニック氏本人も自ら乗ったUberで運転手と賃金問題をめぐり口論となり、その様子をビデオ公開され、結局はCEOを辞任せざるを得なくなった。
しかしそれでもまだUberは健在で、一年前に社外から新たなCEOを迎えて、前述の通り株式公開を果たした。
今後Uberは、自動車メーカーと開発した人工知能を載せた自動運転自動車を使って乗合バスや無人タクシーを走らせようとしている。さらに十数年すると、Uberのマークを付けたタクシーがブレードランナーの映画のように空を飛びまわる時代が来るのかも知れない。しかし、ジェットコースターのような車には乗りたくないので、ぜひともセーフティドライブでお願いしたいものだ。
■毎月更新されるこの連載では、今後時代がどう変化するのか、最先端の動向や技術を基盤に深く読み解ければと思う。
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