ジェフ・ベゾスのビジネス展開は、いつもイノベーションの最前線に立っている。
そして世界一の資産家でもある。

2018年、ジェフ・ベゾスの資産総額は、フォーブスの長者番付で初めて1000億ドルを大きく超え、24年間首位だった米『Microsoft』共同創業者のビル・ゲイツを軽々と抜き去って長者番付の1位となった。
同年、『Amazon』の時価総額は1兆ドルを突破していた。『Apple』に続いて2社目の1兆ドル超え企業だが、その伸びしろは未だまだ有り余るほどある。
そしてジェフ・ベゾスは、『Google』の起業時のエンジェル投資家であり、ワシントン・ポストの個人オーナーでもある。

かつてジェフ・ベゾスは、大学を卒業してウォール・ストリートでトレーディング・システムの構築に従事したり金融アナリストとして働いていた。1992年には副社長へ昇進したものの、2年後にその役職を捨てて急にシアトルへと移住した。
移住した理由は、インターネットの利用率が前年比で2300%と急激に増加していることに気づいたからだった。そして移住したシアトルは流通事業が盛んな土地柄なのだ。

移住した1994年に自宅のガレージでインターネット書店を起業した。
その時、ジェフ・ベゾスの両親は「息子がインターネットで本を売るためにウォール・ストリートでの仕事を辞めたことに、ショックを受けた」という。

だが、ジェフ・ベゾスが創業したAmazonは移住してたった3年後の1997年5月に株式公開を果たす。若きジェフ・ベゾスはインターネット・ビジネスの成功者となり、1999年には、『TIME』誌のパーソン・オブ・ザ・イヤーに選出されている。

インターネットの本屋からスタートしたAmazonは25年に渡って、各種製品の販売やコンテンツ販売、クラウドビジネスなど様々な領域で着実に成長してきた。今ではアメリカ、カナダ、メキシコ、イギリス、フランス、ドイツ、ポーランド、イタリア、スロバキア、スペイン、日本、中国、インドなどにビジネスを展開し、消費財、エレクトロニクス、デジタルメディア、クラウドなど幅広い商品やサービスを販売している。日本人向けに高視聴率を狙った番組も作っている。

2017年には、米国を中心に大型店舗460店を展開する高級オーガニックスーパーのホールフーズ・マーケットを買収した。
買収後、ホールフーズ・マーケットでは生鮮食品の値段を戦略的に引き下げ、『Amazon Prime』会員をチェックインさせるための割引も始めた。
一部店舗にはAmazon専用のロッカー『Amazon Locker』を置き、買い物のついでにAmazonで頼んだ商品の受け取りや返品が簡単にできるようにしている。

そして、新しいビジネスモデル『Amazon Flex』も登場させている。
Amazon Flexは、アマゾンが一般の人に商品を配達してもらう仕組み。日本でも徐々に普及し始めている料理の宅配サービス『UBER EATS』のように、一般のドライバーとAmazonが契約して、ホールフーズ・マーケットなどの生鮮品や一般消費財、Amazonの製品を宅配するというものだ。
さらには、購入の手間や会計も無しに店頭から勝手に商品を持ち帰ることができるサービス「Amazon Go」も実験的に展開している。

深読みすると、ジェフ・ベゾスが考えている究極の流通革命が見えてくる。
スマートスピーカー「Amazon echo」やリビングのモニター、Kindle Fireなど、必要なものをタブレットやスマートフォンで頼むだけでAIが判断して、迅速に届けられるサービス。もちろん、ショッピング自体を楽しみたければリアルな店舗に行けば良い。しかしその店舗やその倉庫も、近い将来にはAIとロボットで運営されていている。顔認証や位置情報から個人の特定ができているので、会計の必要も手間もない。買った荷物は車のそばまで追尾型のカートが届けてくれるし、必要なら自動配送車やドローンが配送してくれるのだ。

こうして急速な進化を遂げ続けるAmazonの社員に向け、ジェフ・ベゾスがメッセージし続けていることがある。

「顧客至上主義」だ。
そして「変化」を求め、馴れ合いによる「妥協」を嫌う。
「顧客至上主義」を徹底して、顧客の利便追求のために社内や流通などとの妥協を乗り越える。儲けは顧客のために使う。常に進化を求め続け、最先端のテクノロジーやトレンドを素速くビジネスに取り入れて、実験的に展開を繰り広げる。

こんな顧客至上主義を徹底した姿勢のお店が身近に出来て、しかも安くて便利で簡単に何でも買い物ができてすぐ届くのなら、古いスーパーや小売店は太刀打ちできない。いずれ「変化を求めない」会社やサービスは淘汰されるのだ。

まるでアマゾンの密林からITやAIらRT(Robotics Technologies)のトレンドを見つけ出し、魔法のように巨大な事業を次々と成功させている空前絶後の天才経営者ジェフ・ベゾス。
ビジネスの未来を探りたいのなら、ジェフ・ベゾスから眼が離せない。
そして、世界を振り回す前代未聞のトランプ大統領とも、ワシントン・ポストというメディアを武器に「ペンの力」で戦うジェフ・ベゾスの叡智にも期待したい。

■毎月更新されるこの連載では、今後時代がどう変化するのか、最先端の動向や技術を基盤に深く読み解ければと思う。

profile

佐藤豊彦
(さとう とよひこ)
大分県大分市出身。東京と大分を拠点に企業やNPOなどのコンサルタントとして、マーケティングやブランディングやメディア戦略の提案などを手掛けている。
また、オーナーとしてプロバスケットチーム・大分ヒートデビルズ(現・愛媛オレンジバイキングス)の立ち上げに関わったり、大分県立総合文化センター(現・iichiko総合文化センター)の企画制作などを担当するなど大分の仕事も多い。
イラストレーターとしてもSatoRichmanのペンネームで活動し、田中康夫氏や林真理子氏など多くのエッセイなどに作品を提供したほか、「popeye」をはじめ多くの雑誌や、UNICEF世界版カード、丸ビルのビジュアル、MasterCardのPricelessキャンペーン、氷結果汁やNEXCO東日本のTVCM、伊勢丹のディスプレイ、高島屋のカードキャンペーン、三越の広告などで活躍。また、クリエイティブディレクターとしてnikeやMAZDAやFORDや小学館などのWEBサイトのマーケティング戦略の提案、コンテンツの提案、全体のディレクションやコンテンツの制作やデザインを担当。
TBSからスタートしたポッドキャスト番組「AppleCLIP」(インターネットを使ったラジオ放送)の制作ディレクター兼パーソナリティを担当している。