※「第7回 「黒船来襲」の顛末 閑話」より続き
「おおいた「駅ビルVS まちなか」 の一部始終?
色が薄いといわれてきた大分市の中心街にも、個性的なキャラ立ちした人物はそれなりにいる。ただ商店街などの内輪ではよく知られているけど、なかなか「ひと」そのものが表で取り上げられることは以前は無かった気がする。
ところが「うわっ! こん人が出ちょん!」「あん人も出ちょん!!」といわゆる街の有名人たちが軒並み登場して驚かされた、僕にとっては事件とも言えるCМに遭遇したことがある。
それが大分駅ビル、アミュプラザおおいたのオープン時のCМ「ひらけ★おおいた」だった。よくぞ県外企業のアミュプラザが、こんな大分の「ひと」を知ってたもんだとつくづく感心し、いったいどうしてこんなに派手キャラからいぶし銀の存在の人までキャッチしたんだろうと不思議だった。
しかし、それはアミュプラザの方々との交流が進むにつれて明らかになった。
(駅ビル関係者と商店街関係者とは極めて友好的な関係を構築している)
アミュプラザは大分に進出するにあたり、オープンの2年ほど前からなんとスタッフを先乗りして大分の街に住まわせ、大分の街のお店や文化や「ひと」を徹底リサーチをしていたというのだ。そのリサーチも生半可なものとは思えない。ここまでする県外資本、JR九州のヤル気に畏敬の念すら覚えた。街と融合して発信し、事業を展開するという本気度が髄から感じられた。
自分が知る限り、いままで大分のどの大型店も、どの広告代理店も取り組んだことのない発信は痛快とも言えるものだった。
前にも述べたが、JR九州は新しい駅ビルの存在がどんなに大きくなったとしても駅ビル単体で簡単に独り勝ちできるとは考えていない。駅と街とが隣接する大分の街の特異性を活かして街と連携し、街の面としての来街者のパイを増やし、来館者増に繋げていくことを大きな方針のひとつとして当初から取っていたのだ。
それは単なるお題目ではなく、例えばこういう具体例もあった。
今の大分の中心街は(いいかどうかは置いておくとして)飲食店での賑わいが柱となっていることを認識したうえで、アミュプラザの飲食店テナントの比率を既存の他県アミュプラザより大幅に引き下げ、商店街に配慮を図ったリーシングを行った。アミュプラザに来てくれたお客様が街に出て食事をしてもらえる、そういう絵を本気で描いたのだ。
もちろんアミュプラザが街のための慈善事業をしているわけではない。そのあたりの真意を関係者に問い質したら、やはり「(いい意味で)街を事業のために活用するための取り組みである」と、きちんと正直に答えてくれた。
しかし、それでいいのだ。
街もそれにきちんとみすみす乗って、うまく活用されてWin-Winの街なかが形成されればいいのだから。(もちろんブランドが被るアパレルショップや雑貨店などは駅ビルの開業により苦境に直面したお店もあったが、怯まずしっかりとした方針で対峙した自力ある多くのお店は、いまなお健在である)
余談だが、弊社(自転車店)は駅ビル進出が決まった際、東急ハンズがテナントとして入店するということを確認して、対策を始めた。
博多や渋谷など私の知る東急ハンズにはおシャレな自転車販売コーナーがある。となると間違いなく大分も自転車を売ることになるんだろうと考え、あちこちの東急ハンズに出向き品揃えなどをチェックし、東急ハンズで取り扱いをしていて弊社で扱ってないブランドなどを洗い出した。すると首都圏で人気の、とあるブランドが炙り出され、このブランドだけは駅ビル開業までに取り扱いの準備をして迎え撃とうと意気込んでベンダーさんと根気強く交渉し、なんとか間に合わせることができた。
そしていよいよ開業となり……大分駅ビルの東急ハンズに自転車売り場はなかった(笑)。
しかし、おかげでそのブランドはいまや弊社の主力ブランドの一角として活躍してくれている。
いつも自分が思うのは、県外資本などの強力なライバルが出現することは、自らをブラッシュアップするまたとない機会だと。結果的に弊社のライバルは駅ビルに出現しなかったものの、その仮想対策準備をすることによって自社のスペックを僅かでも上げることができたと思う。
昭和四十年代後半から平成の途中まで、大分市中心街は「新産都文化」ともいえる時代の流れの中で発展していった。そして少なくとも平成の末以降コロナ禍に襲われる前までは、新しい「駅ビル文化」の時代を進み始めていたといっても過言ではないだろう。
アミュプラザが開業して六年余り。ここ二年はコロナ禍により商店街のみならず巨艦・アミュプラザですら厳しい状況と聞く。街全体も駅ビルが開業して以降の溌溂としたバインド感も若干勢いが薄れ、どんよりとした停滞感に包まれているのは致し方ない。
しかしワクチンの接種も進み、ようやく薄日が見えてきた(まだ“差す”までは至ってない)ようには感じる昨今。
いまこそ多地に例を見ない大分市中心街ならではの駅ビルや他の大型店・商店街が繋がっての街の賑わいづくりを、改めてしっかり進めていかなければと思っている。そのためには街自体のさらなるブラッシュアップと、これまで通りの駅ビルを始めとする大型店と街との連携に対する本気の姿勢も必要不可欠だ。
[この項終わり]