■問い
21世紀の企業の経営環境の変化を考えると、それはやはりヒトにまつわる経営課題ははずせない
■答え
もちろん『Yes』です。企業を取り巻く経営環境は、国内市場の縮小、破壊的イノベーションによる企業の突然死、先進国と新興国が交錯することによるダイバーシティによって、ヒトの問題はこれよりも大きな課題になると思います。
■解説
日本政策金融公庫総合研究所が調べた「経営者の事業方針に関するアンケート」によると、企業が捉えている経営課題の首位に「人材の確保と育成」があります。次に「販売と受注先の開拓」、「既存商品サービスの質の維持」と続きます。
現在、企業を取り巻く経営環境は過去10年、20年を比較して大きく変わっています。国内総人口は減少に転じ、少子高齢化を迎えています。これに伴って世帯構成が大きく変化して、ライフスタイルの多様化を迎えました。マクロ的な動きとしては、相対的な国内市場の縮小を招いています。
また、近年のICTの発達によって、これまで生存しなかった新しい企業が誕生して、従来の企業を大きく飲み込みはじめています。特に従来、規制や変革が遅れていた産業に対しては、ICTの影響によって全くビジネスモデルが異なるプレーヤーが生まれ、結果的に産業の突然死を招く事態を観察できます。
これに追従するように、主要な国内企業は欧米のグローバル企業と大きく差をつけられはじめています。また、新興国企業の勢いもあり、国内で成績を上げていた大手企業もグローバルの土俵ではなかなか存在感を発揮できないでいます。
ここで人材という視点を見てみます。日本の雇用慣行は、戦後まもない昭和30年の集団就職の時代にまで遡ります。実際、上記のような大きな変化が起こっているにも関わらず、人材の採用制度について、あるいはもっと大きな枠でいう「企業の人材戦略」が大きな後れを取っています。
例えば、日本はいまだに新卒一括採用を取り、それを人事部が取りまとめています。一方で欧米諸国は、基本は欠員や増員による特定職務の補充を目的とした採用が中心です。しかも採用は現場責任者が事業部の戦略に紐づけて実施します。
人事管理にも大きな違いがあります。
日本では職務は限定されずに、社員の能力に加味なく配置転換を繰り返すことが慣行されます。特に、公務員や銀行員は同じ仕事を3年程度でローテーションされるため、仕事を把握するや否や、再び配置転換でゼロリセットされるのです。
一方、欧米の人事管理は同一職務が基本です。社内公募等で職務を変更する際は、多くの場合、雇用契約を結びなおすケースが基本です。
現在、注目を集めている労働時間も、職務範囲が不明確なため日本では長時間労働になりがちです。かたや欧米の労働時間は、通常の社員に関しては職務範囲が明確なので、自分の職務を果たせば提示で帰宅することができます。
解雇に対しては、日本は社員の地位はく奪を意味するため、簡単に実施することができません。仮に企業のリストラであっても、雇用維持が求められます。欧米は、事業撤退などでその職務が消滅すると、基本的に解雇は問題ありません。
労働組合に対してもユニークです。日本では、賃金水準がそもそも企業ごとに異なるため、企業単位での労働組合が結成されます。ところが欧米では、企業を横断した産業別の労働組合が結成されます。これは業界ごとに賃金が決められており、他社でも同じ職務なら同じ賃金水準が基本になるからです。
いわば、日本の人事制度は、かつて「ガラパゴス化」といわれた携帯電話のように、独自路線を突き進んでいるのです。今後、ボーダレスでの経営を目指すならば、企業の人事も世界で行われている最適な管理法を理解することは大切です。
そのためには、世界で最も良質で安価な原料を調達し、世界で最もスキルがあり、コストが安いところで生産して、世界で最も高く売ることができる市場で販売することです。
つまるところ、企業がビジネスを行うためのバリューチェーンは、世界の最適な箇所で最適な仕組みを再構築するように検討します。国や地域をまたがるので為替レートによる賃金の上下変動をマネジメントする必要が出てきます。そして、当然ながらそこに従属する社員に対してもこれまでと異なる発想でのアプローチは拒否できなくなるのです。
組織は戦略に基づく。
今後、グローバルレベルで企業戦略を考えている企業は、自社に必要な人材のスペックを明確にして、それに適合する人材を世界中から調達しなければなりません。従って、その人材が日本にいなければ確保できる国や地域にシフトすることも大切です。
当然、経営者の役割は次の経営に向けた方針を明確にうることです。つまり、事業の領域を整理して、自社のコアスキルを特定し、どこに資源を集中するのか。逆に、コア事業以外の取り扱いを決め、何をアウトソースして、何を行わないかを明確にすることです。
それによって、人事とともに戦略実現に必要な人材像を決め人材スペックに落としていくのです。どのような人材が必要で、それをどのように調達するのか、社内外の組み合わせを柔軟に考えるのです。
もちろん、これらは先に説明した昭和30年頃のシステムでは合わない部分が殆どです。採用の仕方、育成の仕方、そして評価や処遇に対しても今後の戦略に合わせた再設計が必要です。
ある程度資本が大きく、規模が大きな企業は、必要な人材に3つの条件を求めています。
「グローバル人材」「尖った人材」、そして「リーダー」です。
米国企業は「グローバル人材」の確保に留学生を多く活用しています。
留学生は就職のことを考えて、その国や地域で大学を選んでいることが多いです。従って留学生が多い地域や国の企業は、国内でもグローバル人材を採用することが容易です。米国以外の地域や国に進出する際は、社内に声をかけることで一定数のその地域や国の出身地がいて、チームを組成することができるのです。また、日本のメンタリティと異なるのは、海外での仕事は出世のチャンスだと捉えるため喜んで海外で働く人材をはじめから確保している点も日本と異なります。
「尖った人材」を採用するためには、少なくとも集団一括採用、新入社員採用の枠は減らす、あるいは中止しなければなりません。
特に大手企業やネームバリューを志向する社員の多くが、イノベーションを起こすには考え方が保守的だからです。従って、尖った人材が必要なのであれば、現場責任者が人事に丸投げをせずに、時間をかけて一本釣りしていく他に方法はないのです。
日本企業は「リーダー」の育成についても戦略性が乏しいです。
大手企業の経営幹部同氏は政治的な争いが多く、本質的には仲が良くありません。リーダー教育と40代の選抜社員を教育する企業も多いですが、戦略と紐づけて計画的に長期的に取り組んでいる会社は少ないです。
人が重要だと言われる昨今、仕組みとしての採用、配置、評価をゼロから見直し、グローバル企業として評価が高い企業の仕組みをベンチマークに、ゼロリセットして変えていく必要があるのです。