■問い
企業の稼ぐ力を増すためには、やはり従業員一人一人の努力が欠かせないものなのか。
■答え
「Yes」ですが、大枠の仕組みや考えは経営者が行わなければなりません。単位当たりの売上を高くして、単位当たりの仕事効率を高くする取り組みを真剣に考える時期がやってきています。
■解説
みらいしんきん同友会の経営者であれば、常に日頃のキャッシュフローを意識していることでしょう。
しかし、日本企業の稼ぐ力は近年大幅に低下していると言われています。その理由は仕組みとしての効率化や最新のビジネスモデルを取り入れたとしても、結局は経営者の判断に問題が残っているからです。
アマゾンは世界中の小売りを淘汰しています。ホテルや旅館に代わってAirbnbなどを活用する旅行者が増えています。自動車産業や他の家電など日本が得意とした産業においてもデジタル化によって大きくビジネスモデルが変わっています。日本企業もこの動きに追従していますが、労働生産性が他の国と比較して高いとは言えません。いわゆる、「デジタル・ディスラプション」がかなり多くの業界で当たり前になっています。
大企業は近道としてM&Aを進めていますが、お金だけがあってもマネジメント層の確保が出来ずに買収した企業の経営が上手くいかないで、本業のもうけに影響を与える事例を多数観察しますね。お金で解決しても、結局は経営層の力量で企業全体の経営は大きく左右されるのです。経営者のグローバル化も激しく求められるようになっています。
日本の生産年齢人口(15歳から64歳)は2000年頃をピークに減少しています(※1)。
日本の労働生産性は一人当たり743万円(※2)です。OECD加盟諸国の労働生産性を見るとトップはアイルランドで1,540万円。2位のルクセンブルクは1,432万円。3位の米国で1,212万円です。ニュースで良く報道されるギリシャでさえ800万円ですので、一人あたりの労働生産性が低いことが分かります。
更に、一人当たりの層実務労働時間は1,729時間/年です。トップは韓国で2,124時間、2位は米国で1,789時間です。上記の数字と比較すると、米国は1時間当たりの労働生産額は、6,775円で日本は4,297円とおよそ6割の労働生産額ということがわかります。
これらを実感するニュースとしては、長時間労働や残業に関する各社のニュースが象徴的ですね。すき屋のワンオペに代表される深夜労働、ワタミの従業員に対しての賃金未払い、電通の新入社員に対しての過労死問題、ヤマト運輸の運送業務の疲弊等々です。
一方で、日本は政府が企業の人事施策に介入する特徴があります。非正規社員を無くして正社員を増やす働きかけや賃上げ要求です。
企業としては、正社員を増やすことで固定費が膨らむことになります。企業によっては国内の雇用から海外進出に軸足を移す判断につながります。結果、雇用に対しての柔軟性が損なわれることになります。
また、残業代や労働時間の上限設定に対しても「労働を全て一律」とみなしているので、考え方としては一部危険です。
いわゆる知的労働層やホワイトカラーと言われる職種に対しても規制の対象になっていけば、現在の賃金体制や雇用形態そのものをゼロベースで見直す必用があります。これが出来ない企業は、そのような創造的な仕事を他社にアウトソースして、自社の社員の労働時間を短くすることでしか対応できません。
結果、自社のコアな部分がどんどんなくなっていき、結果的に競争力そのものを失っていくのです。
以上をまとめると、次のようになります。
・日本は労働人口が減少している。
・労働生産性は低い。
・労働時間が長い。
・政府をはじめ表面的な取り組みは、単に労働時間を短くする働きかけしか要求していない。
しかし、仮にこの状態を進めていくと、更に日本企業全体としては誤った方向に向かうことになります。日本企業が本当に労働生産性を高くするためには、単に労働時間を短くすることだけではなく、時間当たりの売上を向上させ、時間当たりの利益を高める動きを合わせて行う必要があるのです。
1995年頃まで日本の経営環境は右肩あがりでした。このような時期は、経営資源である労働力を投入することで売上増加も十分に期待できました。その考え方が長らく定着していたので、経済環境が安定から衰退に差し掛かっても、まだ労働力を投入することで売上を確保できると長らく思っていたのです。
しかし、実際は売上そのものが低迷する結果になったため、如何に売上を伸ばすかを考える前に、今度は経営資源である労働力を削減させて一人当たりの労働負荷が高まったというのが、おおよそ昨今の企業の状態です。
一方で、企業では「イノベーション」や「生産性の向上」という言葉が頻繁に使われるようになっています。しかし、これらを従業員に丸投げするには荷が重すぎます。従って、経営者は改めて単位当たりの売上そのものを高くする仕組みと、単位当たりの仕事そのものの効率を高くする仕組みの両方を考える必要があるのです。
経営者がとるべき行動としては、いくつかのポイントがあります。
まずは、「間接業務の取組」です。本来自社が取り組むべき仕事に集中して他は廃止するか社外に切り出すかを判断します。最も大切なことは、このような間接業務の実態を徹底的に「見える化」して、どのような仕事と作業が現状あり、そこにどのくらいの時間を費やしているかを把握することです。
比較的に従業員が多い企業は「中間管理職の見直し」が必要です。ITが今のように発達する前は、今のように自由に情報共有が出来ませんでした。そこで中間マネジメントのが必要でした。しかし、現在のように情報の流れが十分な場合、過去の体制や組織の仕組みで運営していてもオーバースペックなのです。実際、ミドルが上下のコミュニケーションの媒介となっていて、阻止している可能性があれば、ゼロベースで組織を見直しても障害は何ら発生しません。
「人材」に対しても同様です。大企業はこれまでは全ての仕事を自分たちで賄っていました。しかし、徐々に派遣やパートを活用するようになり、今ではプロジェクト毎や仕事の単位ごとにクラウドソーシングを活用するスタイルも定着しはじめました。全ての人材を自前で揃えて対応するのではなく、コアな人材にフォーカスして、他は外部を活用する発想も大切です。
今後も慢性的な人手不足は続くでしょう。従って、単位時間の売上を高くするための工夫を行い、単位時間あたりの効率を高めることを考える。単に生産性を確保するためにコストを削減する方法だけではなく、単位時間の売上を貪欲にあげるために経営者は何をすべきかを考える時代になっているのです。
※1:国立社会保障・人口問題研究所の資料参照
※2:日本生産性本部「労働生産性の国際比較2016年版」参照