日本の消費支出はこのまま低迷を続け、人口も減るので行く先真っ暗ですよね。
何か、新しい動きはないのでしょうか?
1つの答えとしては、新しい消費者像を捉えなおし、打ち手を考えることです。2007年頃よりスマートフォンが世の中に普及したことで消費の動向や構造が大きく変わってきています。その根底はデジタル消費、インバウンド、越境するECの存在です。
内閣府が発表する国民経済計算によると、一人当たり民間採取消費支出は2000年頃より頭打ちで230万円から240万円で維持しています。そして国内総人口は減少。これより双方の掛け算で算出される民間最終消費支出は300兆円を超えることなく2000年頃より変化がありません。
しかしこの指標にはカウントされない成長が著しい消費セグメントがあります。それが越境するECとインバウンドによる消費です。加えて、2007年前後にはなかったデジタル消費の概念も上記の指標にはカウントされていません。
つまり従来型の消費に加えて、在外日本人による消費、外国人による消費、外国人旅行者による消費、そしてデジタル活動から得られる消費についての実像を抑えておくことは重要です。
■デジタル消費が活況
例えば、衣服の購入、GPSを使った目的地検索、SNSへの投稿閲覧、モバイル機器を使ったオンラインバンキング、「ペイパル」や他の決済サービスを使っての購入、モバイルでの読書、TV番組等のストリーミング、オンラインでの保険、ビデオチャットによるコミュニケーション。このように考えるとスマホを使った経済活動が日常的に普及していることが分かると思います。
特に10代から20代は写真や動画をSNSに投稿して自己表現することが、生活と消費行動の動機につながっています。「SNOW」や「スナップチャット」で写真を共有し、飲食や旅行などの体験はSNSに投稿して自分の生活や消費のモチベーションアップに活用しています。結果、「インスタグラム」などに映える商品や行動(インスタ映え)は消費の重要な判断基準になっています。
従来40代以上の主婦層が中心だった100円ショップの「キャンドゥ」は、インスタグラムの運用を開始して30代以下の心を掴むことに成功しました。女性社員が中心となり、「女性がかわいいと思う商品」を企画開発するようにしたのです。当然、商品はビジュアルで訴求しています。
20代から40代の女性を中心に月間5700万人以上が利用する料理レシピサイト「クックパッド」は、自分が作った料理を他の主婦や女性が褒めてくれることで投稿数が伸ばす仕組みが定着しています。夫や子供は毎日の料理を当たり前と考え褒めてくれません。しかし同じ心境の女性がサイト上に多数いて互いに褒め合うことが励みになるのです。
これらの傾向は、消費者が「買う」というスタイルから「シェアする」という行動にシフトしていることを示します。バブル世代の方には信じがたいでしょうが、洋服、バック、アクセサリー、車、住宅などを気軽にシェアし合う文化がスマフォ経済と共に標準的になりつつあるのです。
■もうひとつのインバウンド消費
2016年の訪日外国人は2,403万人を記録しています。そしてその約3割は中国人で占めていました。中国からの来日者は多額の紙幣を持ち出すことができませんので、結果的に「アリペイ」などのスマフォ決済の仕組みに対応する企業が増えています。
これによってインバウンドの消費スタイルに対しても変化が出ています。
出発する前にスマフォで現地情報を調べ、旅行期間中にスマフォで支払や様々な手続きを行い、旅行後は興味のあるお店とはEC上でつながっていくのです。つまり訪日前から帰国後までフマフォを軸として継続的なフォローが行えれば、目の前に来てもらわなくてもECによる消費が継続的に増えていくことも可能なのです。
現在、中国政府は日本からの持ち帰り商品に対しては関税率を高くする規制を取っています。従って、従来のように爆買いする観光客は減っています。しかし、一度日本を旅した旅行社は日本の良さを体験してもっとディープな日本を体験したくなります。従って訪日外国人の興味の対象はモノからコトへの変化を遂げている過渡期になっているのです。
これまではインバウンドを爆買いの対象とみなしていた企業は注意が必要です。それがそのまま越境するECに置き換わるからです。一方でコトにフォーカスできた企業は量から質、消費から体験、移動から滞在、単発からリピートへと顧客を個で捉える活動に重きを置くことがポイントになるでしょう。
■越境するEC
世界のB2CのEC市場規模は急速に成長しています。2014年で1.3兆ドル、2016年で2.1兆ドルを超え2020年には4兆ドルを突破する予測も出ています。米国では物流が発達して実店舗に出向かなくても買い物ができるようになり国別のB2CのEC市場も世界で2位となっています。そして中国は店舗の発達よりもECの発達が進み、世界で一番の市場規模になっています。
日本国内では2005年頃よりECの市場が出現してきて2015年では14兆円を超える売上高でスーパーの全売上高よりもECが大きくなっているのです。現在、国内の主なEC企業はなんといっても「アマゾン」。2015年の売上高は9999億円。さらにゾゾタウンやセブン&アイホールディングスが運営している「オムニ7」、「ニトリ」などがECで売上を伸ばしています。
加えて、越境するECを活性化している企業も多く存在します。例えば「バイマ」は海外在住のバイヤーが直接買い付けをした世界中のブランドを安価に購入できるECサイトです。日本人の駐在員が日本人の好みを理解して「バイマ」に出品。「バイマ」の販売金額の10%から20%がバイマの取り分になるため、従来の輸入品ビジネスからすると破格な値段になるわけです。これは在外日本人と在日日本人の消費に大きな変化を与えています。
中国のECサイトはアリババが運営している「Tモール」がダントツでシェアは約6割。「Tモール」が運営するイベント「独身の日」は、1日でECサイトの売上がなんと1.9兆円にも達します。現在では1年で一番大きなネットショッピングのセールの日となり各社が送料負担や大幅な値引きなどを行い、赤字覚悟の大セールとなっています。
これまで新しい消費の像を掴むために、デジタル消費、インバウンド、越境するECをみてきました。これらから推察できることは、従来型店舗のような待ちの状態をネットで働きかけることがより重要になってくるのです。それから消費者からも働きかけて頂けるように、ビジュアルや体験の工夫をすることなど、新しいコミュニケーションの設計が必要になってきます。
消費構造が大きく変化する時代です。企業も従来の消費の概念に加えて、私たちに関係ないとせず、しっかりとこのような動きにキャッチアップしていき、ネット活動とリアルの体験を上手く融合する仕組みを考え働きかけることが大切です。