本質的に地方経済を活性化させるためには、地方に権限を委譲することについて、これまではコメントしてきました。
その中で親会社と子会社の関係からなぜ地方に権限を委譲したほうが良いのかを考え、さらにイタリアをモデルにした地方創生について日本とイタリアでは規模、文化、消費、ブランドの4つの点で根本的意に違うことをみてきました。そこで今回は、イタリアの仕組み作りについて深堀をしていきます。
■規模
イタリアの各産地の経済規模は1,000億規模に達しています。ロンバルディア州にあるコモは欧州の絹生産の8割を占め生産額は23億ユーロを超えて、エミリアロマーニャ州のパルマは1200年頃からハムの製造を続けてDOP認定(Denominazione di Origine Protetta、イタリアにおける原産地名称保護制度)を受け、生産額は10億ユーロを超えています。また、トスカーナ州のサンタクローチェは靴や小物向けの牛革のなめしで多くの職人が残っており、こちらも生産額は13億ユーロ規模です。他にもいくつもの産地が存在して10億ユーロ(1,000億円)を超えている地域が数多く存在しているのです。
■ブランド
イタリアの地方創生のヒントに、ブランドは無視できません。イタリア企業や産地は高値で売れ、利幅を確保しています。これはスイスの時計産業のように誇れる種のビジネスです。はじめからターゲット層をアッパーミドルやハイエンドン層にフォーカスして、プレミアムブランドやラグジュアリーブランドの位置づけで商品企画を行っています。
■産地
イタリアが上記のようになった理由を、トスカーナ州の皮製品の事例でみてみましょう。
イタリアはEU加盟によってポルトガルやスペインの低価格品の流入に影響を受けました。しかし、地域全体で1か所に集まった対応をすることにより高品質を保証し、高級ブランドメーカーに採用を働きかけ、小さな企業でも高い収益を上げる仕組みを構築しています。
皮は世界中から輸入して現地でなめしています。約300近い会社が皮革製品の製造工程を担当しながら、全体としては一つであるかのように組織化されています。なめしの工程などは汚水処理の技術が必要なので、地域でまとまって投資を行った対応をしており、最終的な仕上げには品質保証の証として全てに投資番号を付けて管理しています。その結果、ブランドを持つ会社と対応に取引を行い、グッチやフェラガモなどが採用するまでになっています。日本の有名ブランドも、このトスカーナ州の皮革製品を買って商品を作っています。
同様に、絹のコモ地区も地域の繊維産業関連企業約600社がまとまっています。そしてファッション産業向けに小ロットで高品質な製品を納入する自由度の高い取り組みを持ちながら競争力を高めています。
■日本とイタリアの比較
これまでみたように、イタリアの産地は中国や他のEU諸国と競争しても負けないように地域がまとまって対応しているのが特徴です。さらに初めから高付加価値を目指しているため収益性が高く、将来性もあるので若い人材が多く集まり、後継者も随時育っているのです。
一方、日本の場合はどうでしょうか。
近年は中国との競争にさらされ、価格を下げることでじり貧になっています。
そもそも産地企業がバラバラに活動しており、それぞれが好き勝手に活動しています。
結果的に、俺が俺がという発想で中国や他の低コスト国に対応できず、価格を下げることしかできぬまま、更に叩かれて産業や地域全体が疲弊しています。おかげで後継者も将来に希望を持てず、若い人材が定着しないまま高齢化が加速し、地方が衰退するという悪いサイクルが生まれているのです。
■イタリアの中小企業の特徴
今回、イタリアにフォーカスした理由は中小企業の比率とファミリービジネスの数にあります。
JETROが出している資料「イタリア産地の変容」によれば日本もイタリアも企業に占める中小企業(250名より少ない)の割合が99%となっており、中小企業が多いことがわかります。また、その中に占めるファミリービジネスの割合は両国とも9割を超えているのです。
イタリアはもともと地域国家の名残があり、自分たちが食べていくためには内側を向いてもダメでした。そのため初めから商売の相手を海外に向けており、中小企業であっても輸出の割合は全体の27%以上を占めています。日本の場合は、比較的苦しいと言っても内需で成り立つ規模があったため、輸出を行う中小企業の割合が2%にも満たないのです。
このようにイタリアでは、すべての企業の85%に相当する約79万社がファミリービジネスを営んでおり、イタリア全土の7割の就労者を雇用しています。売上も5,000万ユーロを超える規模は4,000社程度で、多くの企業の売上規模は比較的小さいのです。
イタリアのファミリービジネスが順調な背景には、信頼性が乏しい官僚機構があったのでしょう。更に1500年以上にわたって外国勢力の影響を受けているため、国家に懐疑的な企業が多く、「助け合えるのは家族のみ」という思想が定着したのかもしれません。
次回は、日本がとるべき打ち手について考えてみたいと思います。
参考資料:2016年3月 向研会資料、2014年3月 イタリア産地の変容 日本貿易振興機構(ジェトロ)、経済産業省「伝統的工芸品指定品目一覧」、イタリアの地方分権の道程と産業クラスタの形成(小門裕幸)