出会いの大切さを噛み締め、日本の伝統文化継承に貢献したい
2014年度のNHK大河ドラマに黒田官兵衛が決まり、そのゆかりの地として盛り上がりを見せる中津の町。初代中津城主だった官兵衛が、どのように描かれるのか、今から楽しみです。ところで、かつての城下町の特徴のひとつとして、茶の湯文化が盛んだった頃の名残りがあげられます。茶道を極めていた官兵衛との関係も深いのか、中津には茶の湯をたしなむ方が多いという話をよく耳にします。
「銘茶・茶道具の店 わこう」は、中津市役所近くに店を構える、県下唯一の茶道具専門店。平成19年には大分市府内町にも店を構え、大分県内一円から福岡県の豊前地域までお客さまに親しまれています。中津店を訪れると、店内には選び抜かれた茶道具や掛け軸が並び、落ち着いた雰囲気を醸し出しています。笑顔で迎えてくれた畑辺元宏代表は、会社勤めの身から当店を起業したそうですが、実は、もともと茶道を志ざしていたというわけではありません。
「唐津焼の窯元で修業をしていた弟が、この商売をはじめるきっかけでした。お茶の世界では『一楽、二萩、三唐津』といわれ、楽焼、萩焼についで唐津焼は重要な位置づけを担っており、弟の話を聞いているうちに陶器の店を開店するに至ったのです。そのうち、より茶道に特化するようになり、現在の店構えになりました」
30歳と若くして起業。しきたりの多い茶道の世界でのビジネスに、とまどいを感じることも多かったと思われます。優れた陶器や掛け軸などの美術品を見極める審美眼も必要とされ、一朝一夕では成り立たない世界。お客さまから高い信頼を得るまでには、かなりの努力を要したに違いありません。
「商売には、必ず節目節目で出会いがあるものです。わこうの今があるのも、後押ししてくれる方々に出会えたことが大きい。『あのとき、あの人が応援してくれたなあ』と、ことあるごとに振り返りながら、人と人との繋がりに感謝の念を絶やさぬようにしています」
わこう店内には稽古場として使われる部屋も用意され、定期的に稽古やお茶会が行われています。京都からお家元教授者宗匠がお越しいただくこともあり、当地で茶の湯を嗜む人にとっては、いまやなくてはならない存在にまでなっています。
「表千家同門会大分県支部の副支部長をさせていただいたことは、貴重な経験になりました。任期中は創立40周年事業も行われ、宇佐神宮で開催されたお茶会にはお家元や県知事をはじめ、1,000人以上もの方がお見えになりました」
日本生産性本部のレジャー白書によると2011年の茶道人口は約320万人となっており、この10年は増減を繰り返しているとのこと。日本人の生活様式が変化してきている今、世界に誇る日本の伝統文化をいかに次世代へ継承していくかは、業界の課題ともいえます。「微力ながらも、これまで育ててくれた恩返しをしたい」と話す畑辺代表。大分店をまかせる息子さんと共に、茶の湯文化の未来を側面から担う存在になることが期待されます。