いきなりだが成功とはなんだろうか?

もちろん人によって定義は異なることだろう。ある人は生活に不自由しない程度にお金持ちになることだったり、また、ある人にとっては健康な生活を送れることという漠然としたことだったりもする。

ベンチャー経営者にとってみれば、上場を成し遂げる、もしくは高い値段で会社を売却できるということが、一般的に成功と言われる。

ベンチャーでなくとも成功している経営者とは、経営している会社の業績が良く、お金の心配もなく、公私ともに充実している経営者と言えようか。内実はわからないが、そういう人は客観的には成功しているように見える。

フリーランスや自営業の人であっても、ほぼ同じだろう。事業が安定しており、充分な利益を上げられていれば、それは一種の成功となる。

他方、一般のビジネスマンであれば、安定した会社で、自分のやりたい仕事ができ、給与にも満足している状態の人が成功していると言われるのであろうか。

4月から入社した新人たちもそろそろ配属が決まったころだろう。もしくは4月から新しい部署に配属になった人たちもいることだろう。そんな人たちのほとんどは、会社から期待されている仕事があるはずだ。であれば、まずは目の前の仕事で結果を出すことが成功への近道となる。

しかし、これはそう簡単なことではない。たいていの場合、仕事における最終目標は会社から与えられる。そしてその目標をクリアするために僕らは働く。

言ってみれば一種のゲームのようなものである。ただ、仕事の場合は最終目標を与えられるだけで、そこに到達するまでの細かなマイルストーン=里程標は自ら設定しなければならない。

最近スマートフォンのゲームアプリが流行っている。ゲーム開発会社によると、これらのゲームは触った瞬間に理解して遊べるように設計しているという。なぜならアプリをダウンロードしたユーザーは、遊び方が分からないと思うと同時に遊ぶことを止め、すぐにアプリを削除するから。

そもそもこれらのゲームにはマニュアルがない。マニュアルを読まなければ遊べないようなゲームはありえないのだ。いきおいゲームの内容は玉を並べて消していくようなシンプルなものになる。

人間の脳は達成感を感じるとエンドルフィンという脳内麻薬を放出することが知られている。これは一種の報酬であり、脳は目標を達成するたびにご褒美をもらえるというわけだ。

だからこそシンプルな達成感を積み重ねるように設計されたゲームに多くの人が“ハマる”ことになる。そうやってモバイルネイティブの脳は“ゲーム脳”となっていく。

つまり、彼ら彼女らの脳は、最初から設定された目標をクリアすることで達成感を得て前に進むことに慣らされている。しかもこの目標はゲームのなかで最初から設定されたもので、自ら設定したものではない。

ここが仕事と大きく異なるところだ。

仕事では最終目標に到達するための細かな目標は自分で設定しなければならない。それらをクリアしていくことで前進するのはゲームも同じだが、仕事では、いかに自分で小さなマイルストーンを設定できるかが重要になってくる。

だから私たち先輩が、まず彼ら彼女らにすべきは“ゲーム脳”のリセットということになる。ゲームをすることで形成された彼ら彼女たちの脳をリセットして、自ら細かな目標を設定することができるようにトレーニングすることが必要なのである。

profile

田代 真人 氏
(たしろ・まさと)

編集者・ジャーナリスト。(株)メディア・ナレッジ代表。駒沢女子大学、桜美林大学非常勤講師。1986年九州大学卒業後、朝日新聞社、学習研究社、ダイヤモンド社と活躍の場を変え、女性誌からビジネス誌まで幅広く取材・編集。著書に『電子書籍元年』(インプレスジャパン)、構成作に『もし小泉進次郎がフリードマンの『資本主義と自由』を読んだら』(日経BP社)がある。