最近、景気が良くなったという話がよく聞かれるようになったが、景気が良いのは大企業がほとんどで、まだまだ中小企業まで潤っている状況ではないようだ。

バブルが弾けてから、すでに20年以上。好景気にはほど遠い時代が続いている。

そのころに生まれた世代は、この失われた20数年に青春を過ごした。彼ら彼女らもすでに社会人になっている。この世代は、景気の良かった時期を知らないし、見ていたのは景気の悪い両親の後ろ姿だけだったのかもしれない。そんな彼ら彼女らは、モノを買うこと、お金を使うことにとても消極的だ。

この期間は同時にデフレも進み、たいがいのものはとても安く手に入れることができるようになった。だから高級品は自分たちが買うものではなく、違う世界の人が買うものという認識。モノを購入するにしても欲しいものを吟味して、必要以上に高いモノは買わないという感覚だ。

逆に我々バブルを知っている世代は消費欲も旺盛で、高級車も手に入れたいと思うし、ブランドものも欲しいと思う。しかしバブル後世代はクルマは軽自動車でいいし、そもそも首都圏の人たちは運転免許すら持っていない人も多い。

Contact exchange in four mobile phone

さて、ではそんなバブル世代が企画する商品を、20歳以上も年が離れた若い人たちが購入するだろうか。普通に考えれば、同じバブルを経験した人々に向けての商品は企画できても、彼ら彼女らに向けての商品開発は、そうとうに想像力に長けている人でなければ、なかなか難しいことであることがわかるだろう。

であれば、我々がやれることはなんだろうか?

実は、我々が最前線でできることはほとんどない。物心ついたときから携帯電話が当たり前の若い世代の感覚なんて、いくら想像を重ねてもわかりようがないのだ。だからここは割り切って、彼ら彼女ら向けの商品やサービスを最前線でつくろうとは思わないほうがいい。

でも落胆しないでほしい。ちゃんとやれることは残っている。それはなにか?

Businessman to challenge to new things

我々は、いままでいろんな人に会ってきた。そして数々の経験をしてきたはずだ。それで培われたものはなにか? 気付いてないかもしれないが、それは、つまり“人を見る目”ではないだろうか。

人と会ったときの第一印象の直感もさることながら、1回でもいっしょに仕事をすれば、できる人かどうかの判断はできるという人は多い。であれば、我々の世代ができることは、人を抜擢して任せることに尽きる。

経営者であれ、管理職であれ、部下の若い人に仕事を任せる。現場が好きな経営者も多いが、それでは若い人が育たないし、現代社会にミスマッチした判断をするおそれもある。もし最前線で現場の仕事がしたいのであれば、同世代に向けた製品なりサービスなりを開発すべきだ。

よく「変化に対応できる人が生き残る」と言われるが、そういう判断ができることこそが“変化に対応すること”ではなかろうか。いま必要な人材を見抜いて、彼ら彼女らといっしょに仕事をする。そうして変化に対応できる人になりたいと私自身も強くそう思うのだ。

profile

田代 真人 氏
(たしろ・まさと)

編集者・ジャーナリスト。(株)メディア・ナレッジ代表。駒沢女子大学、桜美林大学非常勤講師。1986年九州大学卒業後、朝日新聞社、学習研究社、ダイヤモンド社と活躍の場を変え、女性誌からビジネス誌まで幅広く取材・編集。著書に『電子書籍元年』(インプレスジャパン)、構成作に『もし小泉進次郎がフリードマンの『資本主義と自由』を読んだら』(日経BP社)がある。