老舗菓子店が紡いできた心あたたまる物語の数々
古くから愛されている大分のご当地銘菓といえば、『ざびえる』(大分市)、『臼杵煎餅』(臼杵市・後藤製菓)、『三笠野』(竹田市・但馬屋老舗)などが思い浮かびますが、県北地域であれば『ビスマン』ではないでしょうか。“ビスケット”生地で黄身餡を包んだ“マンジュウ(饅頭)”で、略して『ビスマン』というネーミングも親しみやすいですね。
株式会社殿畑双葉堂の本店兼工場直売所を訪れると、軽やかなメロディにのって澄んだ声の女性が歌う『ビスマン』のイメージソングが耳に入ってきました。同社の殿畑敦士常務取締役は、次のように話します。
「この曲、母が曲を作って、私が演奏をしているんですよ。もちろん歌っているのはコーラスを趣味としている母です」
実は東京でインディーズバンドのドラマーとして活動をしていた殿畑常務。家業を継ぐため、意を決して2016年に帰郷してからは菓子作りから企画、営業、さらにはアットホームな雰囲気の店づくりに励んでいます。
殿畑常務に続いて、同社の4代目となる父親の殿畑安司代表取締役が『ビスマン』の由来について話してくれました。
「当社の歴史は明治22年に中津市小祝で始めた金平糖製造にスタートし、2代目は甘酒饅頭や石垣餅が評判を得ました。『ビスマン』は戦地から戻ってきた3代目が、近所の子どもたちに何か甘いものを食べさせてあげたいと、まだ高級菓子だったビスケット生地を工夫して作ったお菓子です。そこからヒット商品となり、おかげさまで数々の賞も授かりました」
不動の看板商品となった『ビスマン』ですが、5代目の殿畑常務はその人気をさらに広めようとオマージュ商品の開発にも着手。苦労の結果、生まれた商品が『ダクマン』です。
「工場長が得意とする焼菓子・ダックワーズをヒントに、『ビスマン』で使う黄身餡とバタークリームを混ぜ、メレンゲ生地で包んだお菓子です。バリエーションでイチゴ、緑茶、レモンを使った『季節限定ダクマン』もありますよ」(殿畑常務)
大手雑貨店『LOFT』から声を掛けられ、“レトロかわいい”と若者人気を獲得した『ビスマン』ロゴを使ったコラボ商品の実現も、殿畑常務のマーケティング活動の成果です。
ところで社名にある“双葉”の由来が気になるのですが…。
「もともと屋号は『殿畑饅頭店』でした。その後、2代目が幼い頃の双葉山を可愛がっていた縁で、本人から“双葉”を屋号に入れてみてはと提案されたのです」(殿畑代表)
“伝説の名力士”とまで言われた第35代横綱・双葉山から屋号を贈られるとは、いかに地元で愛された存在の菓子店でであったかが伝わってくるエピソードです。
店内には製造当初に使われていた『ビスマン』の木型が飾られていました。『ビスマン』伝説は、まだまだ続きそうです。