みなさんは「サロン」という言葉を聞くと、真っ先に何を思い浮かべますか?
「ヘアサロン」「日焼けサロン」あるいは「サロン・デュ・ショコラ(東京・伊勢丹新宿店で毎年開催されているチョコレートの祭典)」等かもしれません。

もともと「サロン(salon)」はフランス語に起源を持つ単語で、(18世紀頃を起源として)宮廷や貴族の邸宅を舞台に、その主人が文化人・学者・作家らを招いて、知的な会話を楽しむ場のことを意味しています。もちろん今でもホテルやシェアオフィス、さらにコロナ禍以降はオンライン等に場を移して活発にサロン的な活動は行われていますが、人脈の拡大(名刺交換)や同業者の交流会などビジネス的な側面が強く、「目的」というより「手段」としての集まりの場という意味合いが強いとも感じます。日本では東京に限らず、小規模の個人事業主が営むバーやギャラリー等がいわゆる「salon」の役割を果たしているのかもしれません。
※LDL #30 文化を「コ・ワーキング&シェア」するこれからの「サロン」参照

前置きが長くなりましたが、2024年1月25日(木)、大分市中央町(竹西エリア)にM.A.D(!?)な文化交流の場サロン・ド・健全な地獄がオープンしました。
プロデュースはTHE M.A.D BROTHERS。昨年10周年を迎えた大分の広告制作会社Cont代表の河野智洋氏と、東京のプロデュース会社Long Distance Love代表の柴田、つまり私と2人のユニットです。
今回のLDLコラムは手前味噌になりますが、当サロンの告知に終始いたしますことをご容赦下さい。
サロン構想のキッカケは、私が伊勢丹時代のクールジャパン懐かしい!)プロジェクトの一環としてNYソーホー地区にPOP-UPショップNIPPONISTAを開店させた2014年に遡ります。
そのタイミングで偶然訪れたMuseum Of Arts and Designの略称「MAD」に、自分のアンテナが瞬時に反応。同時にSTINGの渋い名曲Mad About Youが脳内でループしはじめ、このワードがこれからの自分の仕事や生活に重要になるという予感がしました。そして時は経ち、自分なりに「MAD」を「Music (音楽)」「Art(アート/カルチャー)」「Discovery(発見/出会い)」に因数分解して、M.A.Dというコンセプト/ビジョンが生まれました。
さらに時は経ち、コロナ禍の2021年10月、16年ぶりに再会した河野氏にこの話をしたところ、瞬時に意気投合(中略)、2024年1月のサロン誕生(by THE M.A.DBROS.)に至る、という経緯です。

私が大分パルコ店長時代(2004~2006年*2011年閉店)からお付き合いいただいている知人・友人達の協力を得ながら実現させたサロンにはいろいろと複雑な思いや感情、そして壮大な目標があります。簡単にまとめてみますと、
①情報やコンテンツが過剰に飽和している東京から距離を置いたところでトライしたい。
②地方(この場合は大分)が持つ様々な課題に、具体的なアクションを起こして対応したい。
③とはいえ、やはり自分が楽しい、面白いと思えることだけをやりたい。
④自分が一緒にいろいろなことを考えたり、話したり、体験を共有したいと思える人達との時間や空間を作りたい。
結局は自分の利己的な感情(単なる我儘)を前向きに受け止めながら、利他的に行動する術を身に付けたいと、この歳になって気付いたわけです。

当サロンには私が約40年掛けて集めた数千枚を超すレコード・CD、「健全な地獄」的アート作品や極めて趣味的な書籍が所狭し(とまでは行き着いてませんが)と並んでおり、河野氏の耳目にかなった最高クラスのオーディオシステム(Technics)を装備して、エピキュリアンな人達をおもてなししようと企んでいます。
オープン初日から、サロン近くの中古レコード店で買って来たばかりのレコードを最高音質&爆音で聴いて感動する若者2人組、驚くほどのマニアな音楽知識を持った会社社長、サロン壁面に展示されたLPジャケットの持つアート性にあらためて目を奪われていた美術関係者ほか、多くの方々が、突如出現したサロンに吸い込まれてきてくれました。
1月28日(日)はオープン4日目にして早くも初イベント立川直樹氏の「another story ofラジオと音楽のある生活を開催。満席(と言っても30名限定)のお客様と至福の時間を共有しました。
カフェでもレストランでもない、会員制カルチャーサロンという大分(もちろん東京でも)馴染みの薄い空間ですが、このような場所で時間を費やす心の贅沢さを少しでも多くの人達に感じてもらえたらと思います。

かつて大分パルコがあった頃、皆さんが口々に語ってくれた「大分にパルコがあることが自慢」「カルチャー(「サブ」含むw)の面白さを教えてくれた」等々の言葉が蘇ります。
もちろんこんな小さなスペースで「パルコに代わって」、なんて大げさなことは言えませんが、ニューヨーク・タイムズ2025年世界の行くべき50か所に選ばれることを真剣に妄想していることは事実です!

■サロン・ド・健全な地獄  ~Salon de Healthy Hell
場所 大分市中央町3丁目6-13​ ROXY ビル1F ※地図
営業 木、金、土曜13:00〜21:00
利用料 VIP会員:月額5000円、貸切利用:20,000円〜
運営・企画/株式会社 BSIDE・Long Distance Love合同会社
URL https://bside-jp.com

profile

柴田廣次
しばた・ひろつぐ/1960年、福島県郡山市生まれ。筑波大学卒業後、1983年株式会社パルコ入社。2004年〜2007年には大分パルコ店長を経験。2018年2月に独立し「Long Distance Love 合同会社」を設立。
■Long Distance Love合同会社
https://longdistancelove.jp
■コラムインコラム 「何もしない」
毎年年始には恒例(というか惰性)で「今年やりたいこと」をランダムにリストアップして、愛用している「ほぼ日手帳のMy100」に記入しています。2024年は早々に20テーマが決まりましたが、17番目に書いたのが「なるべく本を買わない」です(11番目の「未読の本の70%を読破」を受けて)。要するに読みたい本の数に、読みこなす力が追い付いていないということにようやく気が付いたということ(笑)。去年「忘れる読書」(落合陽一)を読んでから、無理やり理解しようとせずに読み飛ばす、なんなら途中で諦めても問題無しと自分を慰めるようにしていましたが、とはいえ目の前の未読の本の山を見るたびにため息が…。
そんな自分の読書事情を見事に代弁してくれる本が「何もしない」(ジェニー・オデル)。タイトルに魅かれて思わずamazonで購入したものの、実は紹介している時点でやっと半分読み終わったという有様。でも今回は頓挫することなく、何としても読破しようと決意しました。
「SNSなど、人々の関心を売買するアテンションエコノミーが跋扈する現代。そこから抜け出すために必要なのは効率主義から離れてみることー『何もしない』こと」
この一文にヤラれました。斎藤幸平氏の「脱成長」にも通ずるところがあると思いますが、著者のジェニー氏は元々アーティスト・作家というバックグラウンドの持ち主。なので文章表現・論調が極めて独特の視点に基づいて、幅広い知識に裏打ちされているので、ある意味、リベラルアーツ概論(詳論)という趣も感じさせる難解な書物です。とはいえ、「構造と力」(浅田彰)のように、いつまで経っても意味不明な内容ではなく、いちいち納得できるところが、本書の大きな魅力かもしれません。
ちなみにこの本のオビの推薦文は落合陽一氏によるものです。