[第57回 Z世代といかに向き合うか]
【問い】
本連載の第47回で「Z世代」について言及されていましたが、実際に彼らとの接点も増えてきました。Z世代に対する良いアプローチ方法はありますか?
【方向性】
時代背景、そしてデジタルとアナログの特徴を理解すると、彼らの育成手法やコミュニケーションのとり方が理解できるようになります。
【解説】
■デジタル時代のメリットとデメリット
情報を記号で表し、電子的に処理でき、コピペ(コピー&ペースト)可能で伝送も瞬時に行えるデジタルを抜きにした企業活動は、難しい時代になっています。いわばデジタルを前提にして育ってきたZ世代は、アナログの時代を知らないのです。
あらためてデジタルのメリットとデメリットを振り返ってみましょう。
まずメリットとして頭に浮かぶキーワードが、「効率」「共有」「柔軟」「便利」などです。
たとえば紙ベースの書類管理が電子管理に移行され、書類の保管、管理、検索が劇的に「効率」化されたことで、人手不足の解決や時間コストの削減をもたらしました。さらにクラウドやオンライン共有ツールを活用することで、場所や時間に関係なくデータ「共有」ができるようになりました。その結果、オフィスやチーム間のコミュニケーションが変化し、データの複製・編集・変更が可能で、行動の検証をアルゴリズムで行えるため、ブラッシュアップのスピードが爆速化し、「柔軟」な業務改善を実現。ネットショップやデジタル決済は、従来の顧客体験では考えられない「便利」な変化をもたらした。
一方、デメリットのキーワードとしては「セキュリティ」「情報過多」「人間関係の変化」などがあげられます。
デジタル情報はハッカーなどのサイバー攻撃の対象になり、「セキュリティ」対策は必須です。また瞬時に「情報」を大量入手できるため、その選択や信憑性の評価が難しくなりました。デジタルを活用したコミュニケーションは、リアルの人間との対人能力を劣化させ、その一方でテクノロジーに馴染めない人はハンディキャプを感じるなど、「人間関係」の劣化を加速させています。
■デメリットの具体的事例とは
デジタルの活用で対人能力が低下する現象は、経営者にとって深刻です。そのイメージを共有するため、各国で起きている事例をいくつか示してみましょう。
【日本の事例】
コロナ禍以降、テレワークの増加でオフィスでの直接的、人間的な関係構築の機会が減少しました。新規のプロジェクト参画メンバーは、直接対面することなく仕事をする機会が増える一方で、かえって作業効率が下がってしまい、職場の人間関係が劣化したという報告レポートが増大しています。
【中国の事例】
オンライン教育が急速に普及しました。ただし教師と生徒の対面によるコミュニケーションが減少し、生徒の対人能力や社交性が著しく低下しているそうです。
【韓国の事例】
スマホ利用が普及した結果、若者たちのスマホ依存症が問題視されています。24時間・365日、スマホを手放すことができず、睡眠不足やストレスなどの健康問題にまで被害が及んでいます。
【米国の事例】
スマホを手放すことができず、社交不安障害や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの精神的な問題を引き起こす要因にもなっています。
■あらためてZ世代の育成環境を振り返る
1997年から2012年頃までの間に生まれ、現時点では10代後半から20代前半の若者たちを称するZ世代。
彼らは物心がついた時からデジタルが当たり前の世界で育ち、SNSやネット検索は生活の一部となっており、思春期にはスマホやタブレット端末を手にして、生活のデフォルトとなっています。情報は常にネットから集め、ネット上で自分の考えを表現し、多様な価値観を尊重する傾向を持っています。
一方で、一般社会での経験値は浅く、リアルな問題解決能力や対面コミュニケーション能力は低い傾向にあります。Z世代の中には問題意識を持つ者もいますが、改善の仕方が分かりません。ネット情報に依存し、情報選別の力も欠け、発言もコピペがベースで、自分の頭を使うことが苦手になっています。
ただし、Z世代はアナログ社会からデジタル社会へのトランスフォーメーションをする際の活躍が期待されています。企業や教育現場では、彼らが持つデジタル技術を活用し、働き方や学び方を変革することが大切です。社会全体の多様性を尊重し、Z世代の能力を最大限に引き出すことができれば、今後の事業環境に耐えうる組織を作れるのではないかと思われます。
■Z世代を鑑みた教育へシフトする
企業がZ世代を教育する際、「フリップラーニング」「プロジェクトベースドラーニング」「アクティブラーニング」がポイントになってきます。
【フリップラーニング】
自宅や職場で事前に学習を行い、研修ではより実践的な学びを与える手法です。
デジタル教材や動画を用いたオンライン学習で学び、研修中はグループワークやディスカッションを中心に設計します。対話的な学びを促すことで、アナログでしか得られないエッセンスを取り入れます。
【プロジェクト・ベースドラーニング】
現実の問題解決に取り組みます。従来のOJTに近いのですが、問題の設定から課題の特定、実際の解決策の立案・実行までを一気に体験させるのです。そこでは、問題解決の進め方はベテランが示し、解決段階でのデジタルツール活用はZ世代を中心にフォローしてもらいます。アナログのベテランと、Z世代が持つデジタルスキルを融合することで双方の理解が深まり、デジタルとアナログの良い部分を互いに吸収することになります。
【アクティブ・ラーニング】
は、Z世代が自発的に課題や問題に取り組み、主体的に学びを進める手法です。
デジタル化が遅れている企業は、なかなか初めの一歩が踏み出せません。アナログにどっぷり浸かった中間管理職や部長層の、デジタルアレルギーが蔓延っているからです。
そこで入社歴の浅いZ世代を中心にチームを組み、プロジェクトリーダーは社長が務めます。そこでは些細なことでもいいので、全社を改善するテーマを半年程度で繰り返し提言してもらい、そのプランを実際に実行する経験を積ませるのです。デジタル支援の過程ではZ世代の力を借りながら、自発的に考えるよう徐々に仕向けていくのです。
上記により、Z世代が弱いとされるアナログ・スキルや、世代間を超えたリアルなコミュニケーション体験、そして協調性や問題解決能力の習得ができます。
加えて、リアルの世界しか知らない上司たちの世代も、Z世代の生態系を体験して理解すると同時に、「一緒に仕事ができる」という感覚を芽生えさせることが可能になってきます。
■企業全体の変革
中堅企業から大企業の人事担当者は、Z世代の離職率の高さに悩みを持っています。
しかしZ世代が離職する理由はある程度特定されています。ワークライフバランス、職場環境のストレス、人間関係、仕事内容のミスマッチング、自己成長の機会の欠如などです。
従来であれば、組織に入って5〜10年の期間をかけ、ジワジワとアップデートするのが常でした。
しかしコピペ文化にどっぷり浸かったZ世代は、瞬時に共有する世界が当たり前です。
残念ながら忍耐力など、微塵も持っていません。
それが良いか悪いかは別として、まずは現実を受け入れることで、アナログ企業からデジタル企業にシフトし始めるのです。
ワークライフバランスの改善は、企業のみならず国家単位での課題です。柔軟な働き方と社員のライフスタイルの充実は、今後は外せないテーマです。
しかし、職場のストレスや人間関係の悪さは、上記で提言した3つのラーニングを取り入れることで改善されます。取組の中でZ世代との関係構築を深め、双方のゴールを共有することで仕事のマッチングも実現させます。
その過程でキャリアを考える機会や、検索しても知り得ない企業自体の魅力を共有していくのです。
Z世代の離職率が低い企業は、今後の10年を生き抜く企業として、そこそこアップデートした体制が整っていると考えられます。
経営者として、自分たちの世代で会社を精算するか、今の体制を独自のポジションと主張して生き残るか、或いはZ世代の考えを組織にインストールしてガラガラポンするか…。
これは選択の問題であり、正しいとか間違いとかはありません。
経営者自身が自由に判断すべきなのです。