[第55回 サステイナビリティ経営]
【問い】
サステイナビリティ経営とはどんなものでしょうか?
【方向性】
長期的な視野を持って経済成果、社会と環境への貢献を目指す経営手法。大企業が行う取り組みと認識されるが、小規模チームがこの取り組みを活用することのメリットも大きい。
【解説】
■サステナビリティ経営とは
企業が長期的な視野を持ち、経済的な利益に加えて、社会や環境の持続可能性を考慮し事業活動を行う。結果的に、持続可能な社会の実現に貢献することを目指す経営手法です。
ポイントは、従来よりも、より長期的な視野を持ち、環境、社会、経済の3つの側面をバランス良く考慮する点です。たとえば環境負荷の低減や社会貢献活動、持続可能な製品やサービスの開発を経営に取り入れ、社会と環境に貢献していくことなどです。
このような取り組みは、社会的責任を果たすことよりも、将来的なビジネスチャンスや競争優位性を生み出す重要な経営戦略と解釈されており、企業が実践することでブランド価値の向上など、多様なメリットを得ることができます。
■SDGsやESGとの違いは
「サステイナビリティ経営」「SDGs」「ESG」は、いずれも企業が社会や環境に貢献することを目的としていますが、それぞれの異なる側面をカバーしています。
まず、「サステイナビリティ経営」は、前述の通り長期的な視野を持って経済成果、社会と環境への貢献を目指す経営手法です。
一方、「SDGs」は国連が定めた持続可能な開発目標であり、貧困の撲滅、地球温暖化の防止、平和と正義の実現など、17の目標が設定されています。企業は自社の事業活動を通じてSDGsの達成に貢献することが求められます。
また「ESG」は企業の環境、社会、ガバナンスの側面を評価する指標であり、企業が社会的責任を果たすことやリスク管理を行うための指標として用いられており、投資家は企業のESG評価を参考に企業価値を判断することもあります。
整理すると、サステイナビリティ経営は企業が取り組むべき経営手法で、SDGsは国際的な持続可能な開発目標、ESGは企業の環境、社会、ガバナンスの側面を評価する指標になります。
企業規模が大きくなるほど、これらの指標を総合的に考慮し、事業活動を進めることが求められているのです。
■サステイナビリティ経営における環境・社会・経済
サステイナビリティ経営の実践では環境、社会、経済の3つの視点を総合的に考慮しなければなりません。
まず企業は、環境に対する影響を最小限に抑えることが求められます。
CO2排出量や廃棄物の発生量などの削減、再生可能エネルギーの活用、バイオマス資源の利用、環境保護活動の推進などだ。
次に企業は、社会的責任を果たすことが求められます。
人権や労働基準の尊重、地域社会への貢献、消費者保護、サプライチェーンの透明性の確保などです。
さらに企業は、持続可能な経済成長を追求することが求められます。
社会的価値を創出し、イノベーションを促進し、顧客満足度の向上、リスク管理やコンプライアンスを確保することなどです。
これら3つを総合的に考慮し、より長期的な視野を持ち、持続可能な事業活動を行うのです。
昨今、このようなワードを上手く活用し「やっている感」を演出する企業も少なくありません。
しかし自社の取り組みを整理し、こまめに発信することで競争力を高め、結果的に顧客や利害関係者からの信頼や支持を得ることにつながるのです。
重要なことは表面的に言語化して発信することではなく、企業として実践することです。サステイナビリティ経営の本質は、企業の社会的責任を果たすための実践そのものなのです。
■サステイナビリティ経営と企業価値の関係
ボストン・コンサルティング・グループの調査によると、企業間の諸条件を揃えた場合、サステイナビリティ経営を実践する企業は、実践しない企業よりも利益率が高くなる報告を随所で出しています。
EY Japanの各種レポートを見ると、同様の取組を行う企業の資本コストは他の企業よりも低く、市場からの評価が高まっていることが分かります。これらの議論は世界経済フォーラムなどでも度々議題にあがっていることから、一定の評価はあると推測されます。
また、S&P Dow Jones Indicesなどのレポートでも、ESG指標を採用する投資ファンドは、採用しないファンドよりも高いリターンを示す傾向を示しています。サステイナビリティ経営の取り組みは、企業価値の向上と投資家からの支持を得るために重要な要素であることが分かります。
■小規模チームの取り組み方
サステイナビリティ経営の取組は、何も大企業に限った話ではありません。
たとえ小規模事業者であっても、取り組むことで企業価値の向上に加え、従業員のエンゲージメントの高まり、利害関係者への訴求と認知度の向上など、多数のメリットがあります。取り組み方も大きく構えることなく、次のようなステップで実現できます。
(1)組織の目的やビジョンの確認
長期的な視点で、環境・社会・経済の3つの視点から取り組むため、組織の目的や現在のビジョンと照らし合わせ、取り組みを確認しましょう。
(2)利害関係者の整理
従業員、顧客、取引業者、地域社会、金融機関など、各利害関係者にとって重要な課題や要望があれば、お互い共有しながら取り組みを進めていきましょう。
(3)現状分析
多くの企業は、既に何らかの取り組みを実施しているはずです。例えば、組織の社会貢献、環境貢献活動、省エネ活動などです。このような一連の活動をサステイナビリティ経営の取り組みとして、一度整理してみましょう。
(4)目標設定
上記の取り組みを繰り返し、該当チームでの目標を設定します。具体性、測定できる指標、実現できる内容、時間軸などを可視化して、適宜利害関係者と共有していきます。
(5)行動計画への落とし込み
上記をベースに行動計画を策定します。たとえ小さな組織であっても、行っている行動が世の中に役立つことが分かれば全員の気持ちが高まっていきます。そこから定期的に実行の確認と、ブラッシュアップを継続していきます。
(6)コミュニケーションの実施
取り組み状況などを適宜、利害関係者に発信していきます。簡単なレポートを作り提供する、WebサイトやSNSで定期的に発信する、イベントや講演会の時に状況を伝える、日常的な顧客とのやり取りの中に挟んで話をする等、取り組める内容を組み合わせて実施していきます。
■小規模チームが取り組む際の意識と留意点
最後にデメリットや留意点を整理します。
まずは費用の増加です。
環境や社会に配慮した取り組みを行う必要が一方、長期的には設備の改修や認証取得など費用がかかることがあります。また、取り組む際の人員確保や従業員の教育にも費用がかかってきます。
このようにサステイナビリティ経営を実践することで得られるメリットはありますが、従来から社会にアピールすることを行っていない組織は少し難しい部分もあります。
従って、広報やマーケティング活動もセットで捉えるべきです。
仮に、業界全体でサステイナビリティ経営に取り組んでいない場合、小規模のチームが取り組んだとしても、大きなインパクトを出すことは難しいものです。そのため、業界内の他の企業とタッグを組む等、協力して進める必要もあります。
サステイナビリティ経営は、より長期的な視野で経済、社会、環境に配慮した取り組みを行うことです。
持続可能な社会の実現に貢献することは、長い目で見れば自社の価値を上げ、地域社会と一緒になって永続することを目指すのが、小規模チームの理想形だと思います。
大上段に構えることなく、従来の取り組みを整理する形で経営者の考えを示し、従業員や地域社会のことをチームで考えるツールとして捉えることで、小規模チームでも活用できる取り組みになると考えます。
※参考資料
「トータル・ソサイエタル・インパクト 株式価値向上から社会的価値向上へ」
ボストン・コンサルティング・グループ