[第54回 ドローン・インパクト]
【問い】
ドローンと聞いて、どのようなイメージを持つだろうか。子どものおもちゃ、空撮ツール、社会を変える大きなインパクト。いずれも様々ですが、ドローンが与えるインパクトを考えてみてください。
【方向性】
ドローンが日常的に飛び回り、我々の生活をアップデートする。自動車の自動運転よりも早い時期に、ドローンが市中に溢れる可能性が高いでしょう。
【解説】
■ドローンがより身近になる社会
1900年のニューヨーク。通りにはギッシリと馬車が走る。そして自動車はT型フォードの1台だけ…。
それが1913年には逆転し、殆どがT型フォードに変わりました。
昨今は自動運転の車が話題にのぼりますが、ドローンが市中に溢れる状況が先になる可能性があるのです。
たとえばドローンが人に変わって犬の散歩をする。子どもの忘れ物を届ける。ドローンが日傘をさしてくれる。宅配便はドローンと従来の仕組みが融合し、空飛ぶクルマも空の公道を走る(飛ぶ)ことも現実味を帯びて来ています。
■社会実装に必要な条件と動き
2023年1月現在、ドローンが社会に実装されるためには、「安全性」「環境性」「経済性」を担保する必要があります。
これら課題に対しては、着実に問題解決が進んでいます。
「安全性」は、高度に自立制御され、リモートコントロールが高いレベルで実現しつつあります。
「環境性」は、電気自動車同様に電動化が進み、バッテリー、機体構造そのもの、充電ステーションなどの仕組みが揃いつつあります。
「経済性」も大量生産、品質管理、整備点検、それらに関わる訓練プログラムが進み、多くのベンチャー企業がその実現と事業化に向けて日々努力しているのです。
ドローン社会が目指す姿は、様々なフィールド業務の自動化です。
社会は人間を中心に動いていますが、災害、ウィルス、人口減少等で、現場の負担は肥大化しています。そこで近い将来は、人間とAIとロボットが役割分担していることは想像に難くありません。
持続可能な社会を実現するために、ドローンを含めたテクノロジーの活用は無視できない時代になっているのです。
ドローンは陸・海・空の自立型ロボティクスの支援を最大化しながら、産業活動を地上から空中、海洋へと拡張しています。結果的に旅客輸送、貨物輸送、緊急輸送の領域において、ドローンが実装される社会が近づいているのです。
日本は鉄道や高速道路が普及しているため近距離輸送の課題はピンと来ないでしょうが、インドネシアや諸外国では10キロの距離を移動するのに30分かかる時もあれば、3時間以上かかる場合もあり、これが経済損失の原因になっているとも言われています。アフリカなどではそもそも道路インフラが未整備のため、緊急時の空の活用は必須です。そのため国外では、近距離輸送を目的に空と海の移動にドローンを活用する社会実装が加速しているのです。
■ドローンの役割
実はドローンは、モビリティ(輸送と移動支援)の役割に加え、リモートセンサ(情報収集・分析)、フィールドロボット(作業支援)の役割も担います。
たとえば高所や危険地帯のインフラ設備では、足場を組まなくてもドローンで点検が行えます。おかげでリスクとコストと時間が一気に解消され、従来1週間程度かかっていた点検もドローンの活用だと半日から1日で終わるのです。
農作業に目を向けると、農家にとって農薬の散布は重労働でした。また、水耕栽培では真夏の暑い時期に農薬散布が必要で、体力も消耗されました。
これがドローンを活用すると、単に代替するだけではなく、画像センサや赤外線センサなどを搭載し、傷んだ箇所や本来散布しなければならない箇所をピンポイントで散布できます。夜間で人が見えない時間でも稼働することが可能なので、圧倒的な作業効率が成し遂げられます。
日本は少子高齢化、インフラ設備の老朽化、気候変動に伴う自然災害の増加、新型ウイルスの感染拡大など、さまざまな困難を体感しましたが、同時にこれらの解決がビジネスチャンスとなっているといえます。
■市場と法規制
従来の日本は、新しい技術を導入する際に、ヒトの思考と法規制がネックでした。
しかしドローン界隈においては、世界でも突出するスピードと柔軟な方法で整備が進んでいます。
2015年には航空法に「無人航空機」が定義されました。
また、2019年の成長戦略閣議決定では、2022年に自動運転に関する「レベル4」解禁が約束され、実際に2022年12月に「レベル4」が解禁されました。
ドローンの「レベル4」とは、有人地帯での目視外飛行ができ、都市部においても自動制御等でドローンを飛ばすことが可能になったのです。
従来は「目視外飛行」は原則禁止で、特別な許可が下りない限り人口密集地での飛行は特に厳しいものでした。たとえ許可が下りたとしても、「1日限定」といった制限が設けられ、実用性に乏しいものでした。
ところが現在、古い規則や法律に対しての考え方や制度改定も、大幅に進んでいます。
これまで担当省庁によってルールが異なり進まなかった案件も、同じ趣旨・目的の規制をひとくくりにして、類型ごとに規制の見直しが進み、横断的な取り組みができるようになりました。
国内を取り巻く様々な課題解決に向け、デジタル社会に適した規制・制度変更が進んでいるのです。
仮にこれまでの法律に抵触したとしても、新たな技術をベースに解決できるものであれば、新しい解釈を優先しています。かつては硬直的なイメージだった政府ですが、現在は柔軟性をもって、積極的にロボット化と自動化、そして市場化にチャレンジしているのです。
■課題と展望
ドローンが社会実装されるまで、大きく分けて4つの課題があります。
「要素技術の革新」「事業化と収益化」「法規制の整備」「社会受容」です。
「要素技術の革新」としては、積載重量の増量、動力源の対応、安全性の確保があります。荷物用のドローンでは既に30kgの積載は実現できているのですが、重量が増えると稼働時間が短くなります。現時点では40分程度の動力確保が可能ですが、これを2時間程度にまで伸ばす研究が進んでいます。
産業用ドローン技術は実証実験段階ですが、社会に実装されるには「事業化と収益化」への工夫が必要です。保証や保険の整備など、「もしも」の対応に応じる仕組みの構築と検討も重要です。
ドローンによる配送も、複数の企業が複数の自治体でテストを繰り返しています。2021年7月に起きた熱海での土砂災害では、ドローンを目視外飛行で飛ばし、いち早く現場の情報収集が実現できています。
「法規制の整備」は、困難でありながらも民法と航空法の整合が進んでいます。
NEDOを中心に、複数ドローン運航を社会実装するべく、運行管理システムの開発が進められています。2020年度からは全国各地で実証実験が実施され、そこから抽出された制度面、技術面の課題が議論されています。
社会実装されると、最低でも100万台以上のドローンが空中を飛ぶことになり、沢山の企業や利害関係者が出てくるため簡単に解決できる問題ではないのですが、着実に解決し、実装できる方法を具体的に目指しているのです。
現在、ドローンが飛んでいる風景は、物珍しさで注目を浴びています。しかし、これが当たり前になり、我々の生活に溶け込むまで、時間の問題かもしれません。
一方、何事も新たなテクノロジーは人に受け入れられるまでに時間がかかるものです。「社会受容」に向けた政策立案も重要です。
従来、ドローン製造技術は中国メーカーが主体でした。
しかしドローンがセンサとしてインフラの点検や改善に使われることを考えた場合、データや重要な情報が漏えいする可能性が考えられます。
そのため国策に近い形で、特定の企業やベンチャー企業とドローン機体自体の開発も進んでいます。
一方、自動車の自動運転は陸上を走るため、既存のインフラとの整合性を合わせるのに想像以上に課題が多いようです。
地上から上空300mの空間は、これまで誰も活用していないエリアでした。最新テクノロジーがすんなり入り込む可能性もありそうです。