続・進化し続ける『蔵前』と広がりをみせるインディペンデント・ギャラリー 01

このコラムでもたびたび紹介している、東京のブルックリン「蔵前」(東京・台東区)の進化が止まりません。
前回は、これからの「良い街づくり」の鍵を握るシン・書店について、蔵前の書店他を紹介させていただきました。その前にも蔵前のインディペンデント・ギャラリーが、大規模再開発に頼らない、街の魅力づくりに重要な役割を果たしていることを書かせていただきました。
まだまだ進化する勢いの“ブルックリン・蔵前”のギャラリーを、いくつか覗いてみましょう。

まずは今回も主役となる蔵前に新しくオープンした、まさにブルックリン的複合施設について。
今や蔵前エリアを代表するギャラリーといえばiwao gallery(もと玩具店の倉庫)。
約1年前、このギャラリーのレセプションで偶然お会いしたハービー・山口さんと、写真展&作品集制作の話が持ち上がったのですが、そのお話は後ほど。

ところで、この「iwao gallery」のすぐそばにオープンした、5階建ての古いビル(もと印刷会社)の1階に、連日長い行列ができています。
その正体は焼き立てカヌレの専門店KURAMAE CANNELE(クラマエカヌレです。
併設された工房で焼き上げられたカヌレをテイクアウト、もしくはイートインのスペースで楽しめるスイーツショップ。これだけなら特に目新しくはないのですが、2階は(ブルックリン的)アルチザンな内装で、カヌレ専門卵を使用したプレミアムカヌレを提供するカフェ。
3階にはアナログレコードと高級オーディオを販売するGINZA RECORDS&AUDIO KURAMAE株式会社マッチファインダー/都内2店目、このビル全体の音響システムをコーディネート)が出店。そして5階には、写真に限らず気鋭の若手作家をフューチャーする「ART GALLERY &RENTAL SPACE」(特に名称なし)、さらに6階部分は「ROOF TOP」スペースとして開放するなど、とにかく「まるごとブルックリン」なのです!

次に足を運んだLOWWは、昔ながらの大岡山駅の商店街と住宅街の間に、ひっそりと、でも存在感のある佇まいを醸し出すコンテンポラリーアートギャラリーです。
表参道のメジャーなギャラリーBOOKMARCと連動した企画を実施したり、オリジナルの雑貨をプロデュースする等ユニークな取り組みをしています。
SUPER LABO STORE TOKYOは、書店街・神保町の裏通りに佇む写真専門ギャラリー。自社で出版する写真集を展覧会でプロモーションするというスタイルにこだわった、ユニークなギャラリーです。
先日も人気アーティスト、布袋寅泰氏のデビュー40年記念の豪華写真集を出版&展覧会を開催し、話題を呼びました。写真家は、先ほどお名前が出たハービー・山口氏。彼は布袋氏を37年間撮り続けているのです。

このように不動産ディベロッパーによる複合商業施設が大小問わず乱立するTOKYOで、オーガニックに進化する「KURAMAE(蔵前)」がお手本となり、よりパーソナルかつクオリティの高いアートギャラリーが、商店街に広がりを見せていることを実感します。

Long Distance Love 〜東京より熱烈な愛を込めて #27-02」へ続く

profile

柴田廣次
しばた・ひろつぐ/1960年、福島県郡山市生まれ。筑波大学卒業後、1983年株式会社パルコ入社。2004年〜2007年には大分パルコ店長を経験。2018年2月に独立し「Long Distance Love 合同会社」を設立。
■Long Distance Love合同会社
https://longdistancelove.jp
■コラムインコラム
こんな時代だからこそ大切な言葉
前ニュージーランド首相のジャシンダ・アーダーン氏が新型コロナの感染対策として、全土の都市封鎖に踏み切った際に国民に呼びかけた言葉は「Be Strong.But Be Kind.We will be OK.(強くいてください。でも、やさしくいてください。そうすれば、私たちはだいじょうぶ)」
そして5月に渋谷パルコで写真展が開催され、大好評を博した世界的写真家・ハービー・山口氏の最新作品集のタイトルがWe will be alright!なんとかなるさ。
世界中で頻発する異常気象によ自然災害、2020年代になっても繰り返される戦争、終わることのないウイルスによるパンデミック、AIの加速度的な進歩による目に見えない不安の増殖など、予測不能な今の時代を生きるにはともすると軽薄に聞こえる「なんとかなるさ。」という言葉。
でも「国境・時代・世代」を超えて、50年にわたり撮り続ける写真が「対」になって、目の前に現れた瞬間「なんとかなるさ。」という言葉に大きな意味があることを実感します。ハービー氏の視線(カメラ)が捉えた景色は、例えば窓から顔を出して外を眺める2人の女性…。ひとりは1974年フィンランド、もうひとりは2004年東京で偶然撮影された何気ない生活のワンシーン。あまりのの共通性(構図や被写体の表情・目線)にただただ驚くばかり。
ハービー氏が語るのは「人類誕生の歴史(約500万年前・諸説あり)と比べたら、人生100年なんてほんの一瞬。今を生きてる人達なんて『人類みな同い年』(箭内道彦氏「サラリーマン合気道」よりなんだから、争ったり、(自然を)破壊したりしても意味がない。」「相手の幸せを祈って写真を撮る時にいつも思うのが「私たちはだいじょうぶ、なんとかなるさ。」
大分市内でも開催されるハービー・山口写真展の会場に、ぜひ足を運んで「なんとかなるさ。」な気分を感じて下さい。