※特別編 : 「しんきんイノベーションプロジェクト in 別府」成果発表会レポ #01より続き
2022年9月2日(金)に開催された「しんきんイノベーションプロジェクト(SINKIN INNOVATION PROJECT)in別府」の成果発表会レポートの続編です。
「別府観光」と「伝統産業」をテーマにして2つのプロジェクトの今後の展開に期待します。
■別府竹細工のリブランディング
別府竹製品協同組合(別府市)×別府市竹細工伝統産業会館(別府市)×株式会社CLIPs(東京都渋谷区)
【登壇者】
別府竹製品協同組合 専務理事 大谷 健一さん
別府市竹細工伝統産業会館 館長 宮坂 美穂さん
株式会社CLIPs 代表取締役 張 軼炤(ちょう いっしょう)さん
【プロジェクトの背景】
別府の伝統的工芸品である別府竹細工の特徴は、大分県産の良質なマダケを使用し、伝統的なかごから現代的なアクセサリー・オブジェに至る幅広いアイテムをすべて職人の手作業によって製作している点です。別府市内には全国で唯一、竹工芸の技術が習得できる職業能力開発校「大分県立竹工芸訓練センター」もあり、竹工芸作家を目指す方々が県内外から集まる環境が整っています。
このように毎年多くの竹工芸作家を輩出する一方で、別府竹製品協同組合と別府市竹細工伝統産業会館は、ものづくりを続けていく上での課題を感じていました。
1つは「購買層の偏り」、もう1つは「販売手段の偏り」です。
【設定した課題】
別府竹製品協同組合の大谷専務理事は「購買層の偏り」について、顧客の大半が50代以上の女性に集中していることを課題として挙げ、より幅広い層、特に若者にも竹細工の魅力を感じてもらえる施策の必要性を強調。
また、「販売手段の偏り」については、手作りで高額な商品が多いという特性から、展示会などで作家が直接商品説明を行う対面販売がメインであること、加えて、竹細工を購入した観光客はリピーターになりにくいことなどを課題として挙げ、今後はインターネットを活用し、日本中・世界中から気軽に竹細工を購入できる仕組みを構築する必要があると訴えました。
その上で、今回のプロジェクトテーマを「若手作家たちが将来に不安を感じることなくものづくりに集中できるシステムの構築」と設定。プロジェクトパートナーである株式会社CLIPsとの共創をスタートさせました。
【プロジェクトの概要】
CLIPsの強みは「ライブコマース」。ライブコマースとは、ライブ配信をしながら視聴者と配信者がチャットなどでコミュニケーションできる、まったく新しい対面型のEコマースサービスです。
中でも、CLIPsは「見つけよう!第2のふるさと」をテーマに地方創生を目的としたライブコマースプラットフォームを運営していることもあり、同社の張代表取締役は1泊2日の別府出張を通じて、別府竹細工に「若者にも受け入れられる高いデザイン性」「外国人にも受け入れられる高い芸術性」「SDGs時代に即した素材(竹)」といった大きな可能性を見出したのだそうです。
そこでCLIPsは、別府竹製品協同組合、別府市竹細工伝統産業会館とともに、①土台づくり(認知度アップ)、②マルチ展開(商品化・収益化)、③環境形成という3ステップで課題解決に取り組むことを提案。2022年8月には、①土台づくりとして公式のインスタグラムアカウント「竹のある生活」を開設し、消費者のニーズをつかむという観点から、消費者が「あったらいいな」「欲しいな」と思う竹製品のデザインコンテストを実施しました。8~9月に実施したこのコンテストについて、張代表取締役は「従来の竹細工にはない斬新な商品アイデアが多数生まれた」と手応えを語ります。
【プロジェクトの今後】
プロジェクトは今後、①土台づくりとしてSNSを通じたフォロワー(竹細工ファン)の獲得などを進め、②マルチ展開では、クラウドファウンディング、ライブコマース、海外向けの越境ECといったマルチ販売チャンネルの構築を想定。さらに③環境形成では、若者や外国人などこれまでとは違う層に向けたブランディングを展開し、ひいては、作家が安心してものづくりに集中できる環境づくりの実現を目指します。
大谷専務理事は今回のプロジェクトを通じて「作り手は『作ること』に集中しがちだが、それ以外の向き合い方を知ることができて非常に刺激になった」と語り、今後の成功を誓いました。
【発表後の質疑応答】
Q.作家たちが将来に不安を感じることがないようにしたいという想いが素晴らしい。若手のモチベートなどは大変だったのではないかと思うが、プロジェクトに取り組んで苦労したことはあるか?(信金中央金庫 須藤浩副理事長)
A.訓練センターという組織があり、この世界に挑戦する若者もたくさんいる中で、作家という仕事を続けたい、なくしたくない、なくしてはならないという想いは竹細工に関わる人間すべてが持っている。プロジェクトは苦労の連続だったが、その強い想いがモチベーションになった。良質な竹が採れて、身近に温泉もある素晴らしい環境は別府にしかない。ぜひこの地で、竹細工を持続可能な産業に育てていければと思っている。
Q.大分県内には竹細工の作家さんが2~300名いると伺っているが、どのように横のつながりを強化していこうと考えているのか?(大分みらい信用金庫 山本眞郎副理事長)
A.まずは、別府竹製品協同組合を活用するのが1つ。しかし組合に所属していない方も当然いらっしゃるし、手掛ける製品のジャンルが違う方同士などは、どうしてもつながりが薄くなってしまう傾向にある。今後は「つながりを持たせられる場所」として別府市竹細工伝統産業会館も活用しながら、多くの方が集まりやすい環境づくりを行いたい。