さよなら昭和! ようこそ平成! 
 冒頭から「今は令和ですけど⁉」と言う至極まっとうなツッコミが予想されますが、もちろん書き間違いではありません。ようやく、やっと「レトロブーム」の軸足が「昭和」から「平成」に移動してきたということを言いたいのです。

あらためて「平成」は1989年~2019年、いわゆるバブル崩壊とともに失われた30年という汚名を着せられた、不遇の時代という認識が一般的でした。平成天皇の生前退位ということもあって、何となく年号の入れ替わりが(個人的には)ふわっとしていた印象があり、世の中的にも昭和に比べ短命だった平成を振り返ったり、ビジネスに生かしたり、トレンド扱いしたりすることをしてこなかった気がします。

自分の話で恐縮ですが、平成元年(1989年)はパルコに入社して5年が経ち、公私混同に磨きが掛かってきた時期。そんなタイミングで出現したのが伝説のクラブ芝浦GOLDです。
決して立地が良いとは言えない(港区海岸3丁目)巨大倉庫を改装して作られた7階建ての“オオバコ”は、当時の東京の全ジャンルの“ギョウカイ人”を虜にしました。自分も“半サラリーマン/半ギョウカイ人”気取りで、マガジンハウスの編集者やライター、デザイナー達と終電無視=タクシー乗りまくりで駆けつけました。基本は大型ディスコなんですが、上層階ではVIP待遇の怪しげな人達の前でアングラ感漂う“キックボクシング”がよなよな開催されたり、退廃的ムード満載の遊郭・吉原を再現した会員制バー(入会金10万円*後に一般開放)等、とにかくバブル崩壊直後の残り香が充満した、まさに平成を代表するTOKYOカルチャー誕生の瞬間でした。

時は流れて、年号が変わり令和4年(2022年)、リアル吉原に6月オープンしたブティックホテル(要はラブホ)モアレホテル吉原で9月に開催されたイベント吉原炎上イは、平成(2000年以降)生まれのアーティスト(ダンサー、パフォーマー、DJ)が集結した、まさに「ようこそ、平成」感満載の令和イベントでした。
「吉原」界隈に詳しい方なら、イベントタイトルが映画吉原炎上(監督 五社英雄/1986年)へのオマージュ(炎上イ≒Enjoy)であることにすぐ気づいたと思います。GOLDも吉原も五社英雄も知らない世代のアーティスト達が屋上、客室、バー等ホテル丸ごと使って様々なスタイルのダンス(コンテンポラリーからポールダンスまで)を展開する空間は、異様で強烈なシゲキとエネルギーが充満して、まさにあの時が蘇ってきました(ちょっとだけNYの伝説的イベント「Sleep No More」を連想させました)。

日本人的には「平成」という年号で時代を捉えることが多いですが、西暦1989年~2019年の30年は、例えば音楽では“80年代のキラキラしたデジタルな音”に対抗する“90年代グランジロック”が登場したり、“過剰”から“ミニマル”なデザインにトレンドが移行したファッション等、「アンチ」「オルタナティヴ」といった強いメッセージが発せられるようになりました。
その一方で、東日本大震災等の未曽有の自然災害が相次ぎ、世界規模の環境問題や人権・経済格差問題が頻発する中、いわゆる「昭和レトロ」のようなノスタルジックを売りにしたユルいビジネスが生まれにくかった状況でもありました。

でも、やっと昭和を知らない(あまり関心が無い)世代(Z世代)が自分達にとっての「Back To The Future」的な感覚を表現する時代が来たような気がします。
東京出張の際には、恥ずかしがらずラフォーレ原宿渋谷パルコ渋谷109等に飛び込んで、Z世代の若者(特に女子)を観察してみて下さい! そこにはY2Kとよばれる「平成レトロ」を感じさせるファッションで溢れています。

あらためて、これからは「昭和レトロ」ではなく「平成レトロ」が来ます、確実に!

profile

柴田廣次
しばた・ひろつぐ/1960年、福島県郡山市生まれ。筑波大学卒業後、1983年株式会社パルコ入社。2004年〜2007年には大分パルコ店長を経験。2018年2月に独立し「Long Distance Love 合同会社」を設立。
■Long Distance Love合同会社
https://longdistancelove.jp
■「TOKYO LAB 2019」@渋谷クラブクアトロ
Long Distance Loveプロデュースイベント
https://youtu.be/_w89k-PK_O0
■コラムインコラ
「エマニュエル・トッドの思考地図にハマるということ」
「ホントは教えたくない1冊」の中には、実は「こんな(難しそうな)本を読んでるなんてすごい!」とか「自分は絶対に読めそうもない!」なんて思われるだろうなぁという勝手な妄想、無駄な優越感のためだけに無理をして読んだ(フリをした)本は数知れません。今さら言いますが、自分でもほとんど理解していないのに、そんなフリをすることも数知れず。
しかし今回「ホントに教えたい」本は、著者エマニュエル・トッド氏の考え方や思考方法が見事に集約されていて、大いに感化され、刺激を受け、一気にのめり込んでしまいました。フランスの歴史人口学者E・トッド氏の思考回路を自ら解き明かした「…の思考地図」は“3分で分かる○○”的な中途半端で凡百のビジネス本とは次元の違う(個人的には)人生の羅針盤的啓蒙書です。そもそも「歴史人口学」なる学問も馴染みが無いし、その視点(のみ)から「ソ連崩壊」「リーマン・ショック」「イギリスのEU離脱」他、数々の予測を的中させた(本書解説より抜粋)という恐るべき預言者E・トッド……なんて胡散臭い感じは皆無。極めて理路整然とした独自の視点と圧倒的な説得力で迫って来ます。フランス人特有の自虐性(現マクロン仏大統領を徹底的にこきおろす)と、アイロニー(前トランプ米大統領を評価する)に溢れた主張と、人口の増減率(出生率と死亡率)にフォーカスした冷徹な分析力…すべてが魅力的で、まるで底なし沼のようにズブズブとはまり込んで抜け出せません。
「第三次世界大戦はもう始まっている」「老人支配国家 日本の危機」「問題は英国ではない、EUなのだ」「シャルリとは誰か?」他、とにかくテーマは一見固そうなのになぜか推理・サスペンス小説的なエンタメ性を感じながら、国際情勢、世界の政治・経済の趨勢が学べるという一石数鳥の著者&著作です!