[第45回 思考のトレーニング

【問い】
思考力を強化するために、どのような取組を行えば良いですか?

【解答】
自ら考えることです。
「考えることは最も過酷な仕事だ」
ヘンリー・フォードの言葉です。
経営者は納得する部分が多く、雇用される者にとっては違和感が残る言葉かもしれません。

【解説】
経営は企業価値を最大化するために、購買後の顧客体験を最大化し続けることを努力します。朝昼関係なく24時間、休日も関係なくアタマをフル回転し、そのたびに新たな気づきや新鮮なアイデアを考えます。

重要な取り組みは、その次です。
そこで生まれた「思考」を試して、形にするための行動を起こすことです。

様々な経験を通じて気づきを得る瞬間は、誰にでもやってきます。しかし、その気づきの多くは次の行動に結び付くことなく、脳裏のどこかに保存されたままで、実際に試行することは無く、人によっては、その思考の存在すら気が付きません。

思考とは面白いもので、考え始めると止まらなくなり、何も考えないと何も進みません。
あたかも次で表現されるニュートンの力学のようです。

「全ての物体は、外部から力を加えない限り静止している物体は静止を続け、運動している物体は等速直線運動を続ける」

思考力を強化するための最も単純な方法は、「自ら考える」ことです。
これを聞いて、「なんのこっちゃ?」という方は、思考がマンネリ化した状態にあり、外からの力が必要かもしれません。あえて自らを学びの環境に置き、強制的に学び、考える状況を作り出すのです。
思考を強化するための環境変化を自分に課して、思考し続けることで自分から自走する状態になるのです。
そして一度でも「等速直線運動」の状態になれば、後は思考に勢いがついてくるでしょう。

■問いの発見
考えることの中で「問いの発見」は大切です。
「問い」とは「有りたい姿」と「現状」のギャップから見いだされます。
「有りたい姿」が既にある場合は、「現状」を徹底的に調べれば、必ず「有りたい姿」と「現状」において、ある時間軸におけるギャップが生じます。そのギャップが問題で、「問い」になります。

もし、現時点で「有りたい姿」がない場合、これまでの自分の過去から現在、そして今の環境を過ごした場合の延長線上において、自分がどんな将来を獲得するのかを考えます。そのうえで本当にその状態が望ましい姿なのかを問い続け、「将来の在りたい姿」をイメージします。
これを見つけ出す作業は、企業で言えば「戦略」そのものです。
ここから先、自分たち、そして自分たちの組織をどのような方向性に導きだすかを決める作業ですから、もっともワクワクすることであり、一方でタフな仕事になります。

因みに、前者のように「既に有りたい姿が見えている」場合は、そこにたどり着くルートを探せば良いので、「現在問題」として扱います。
「現在問題」の場合は、その問いの具体的な意味や、ギャップが発生しているメカニズムを解明する中で、自身が取り組むべき行動のヒント、つまり「課題」がはっきりします。

一方、将来の有りたい姿が不明な場合は、「将来問題」として扱います。
「将来問題」は、解くべき問いを探す前に、導く方向性を見出す必要があるので、より難易度が上がります。どちらにせよ、問いを明確にするためには、「現在」と「有りたい姿」の2地点をクリアにすることが大切です。
思考において自ら問い、その解決に向けて動き、考え、検証する。この繰り返しを行う過程で思考は強化され、等速直線運動の状態に自分をセットすることができるのです。

■昔は当たり前に問い続けた
子どもの頃は、「問う」ことが当たりまえでした。
それが大人になる過程で、思考プロセスを変えてしまったのです。

子どもの頃は、「なんで?」「どうして?」「えっ、どうなってんの?」という感じで好奇心を抱き、「その先を知りたい」「そのような状態になりたい」とワクワクしていました。しかし、思考のエンジンは次第にリセットされていきます。義務教育では「考えを創造する」ことは許されず、唯一、絶対解から外れることは禁止されます。意味の無い数字を繰り返し暗記するなど、考えることの対局で成績を比較されるのです。

思考と暗記は異なります。類題を同じパターンで解きまくる訓練も、思考することとは異なります。その結果、自由な問いを発することを徐々に剥奪され、やがて考えることを止めてしまうのです。

■再び問い始める3つのポイント
最後に、思考を強化するためのポイントを紹介します。
「リベラルアーツ」「思考の抽象化」「無知の知」の3つです。

その1 : リベラルアーツ
子どもの頃の脳みそに戻すためにも、まずは脳みそをリセットすることが大切です。
論理思考では「ゼロベース思考」と言われますが、過去をさっぱり忘れて純粋な気持ちで周囲を観察するのです。すると、不思議と様々な問いが込み上げてくることでしょう。
子どもを観察していると「思考する勢い」はあっても、途中で「思考停止」する様子を観察できます。思考する対象についての知識や視点が乏しいからです。その状況では「どうやって調べれば良いか」「どうやって思考を先に進めればよいか」、わからなくなるのです。
そのような時は、「リベラルアーツ」が役立ちます。
考えるヒントや、きっかけを与えるからです。人は無意識に全く異なる分野や知識から、ヒントを見つめます。
「リベラルアーツ」=「自由になる学問」という絶妙なネーミングはここから来たのでしょう。

その2 : 思考の抽象化
問いに対して思考できても、答えがわからない場合もあると思います。
こういう場合のヒントは、「抽象化」です。概念を単純にして、シンプルに問う技術を磨くのです。
仮説思考のトレーニングの一つに「フェルミ推定」があります。これまで考えたことが無い、計算したことが無い、知らない概念を、自分の知識を依り何処として、推定する方法です。そこから難しいことを単純化して、大枠を考えることで、自分なりの答えを導き出し、自分なりの考えの筋道を残して、答えを出します。
物事を単純化して抽象化することで、難しいことをまず簡単にして思考するのです。
これらを繰り返すことで、最終的には何らかの合理解にたどり着く可能性が高くなります。

その3 : 無知の知
3つ目は、「無知の知」です。
わからないことを明確にするのです。

不思議の国のアリスでは、アリスが地下道で迷っている時に、チシャ猫と会話する下りが有名です。

アリス:私はどこに行けばいいの?
猫:あなたはどこに行きたいの?
アリス:それがわからないから聞いているのよ。
猫:だったらどうしようも無いですね。

ソクラテスが、街なかで神の真理について探求するとき、ソフィストと問答をするシーンも思い浮かびます。
ソフィストは全てを知っているという傲慢さから、ソクラテスの問答にハマり、最後は思考が詰まります。
知らないことを、知らなかったのです。

わからないことを言語化できれば、思考は次に進みます。脳が不協和の状態になるので、思考が開始されるのです。
後は上述した要領でじっくり考えると、やがて正解にたどり着くのです。

止まっている物体に外圧がかかれば、後は動き続けます。
きっかけは何でも良いと思います。
最終的に物事を追求すると、人は分野や役割が違えど、その思考が多方面に応用できるようになります。
と言っても、その状況はかなりの持久戦で、問いが繰り返されることから、過酷な仕事になるかも知れません。

profile

早嶋 聡史 氏
(はやしま・さとし)
株式会社ビズナビ&カンパニー 代表取締役社長
株式会社ビザイン 代表取締役パートナー
一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事
Parris daCosta Hayashima k.k. Director & Co-founder

長崎県立長崎北高等学校、九州大学情報工学部機械システム工学科、オーストラリアボンド大学経営学修士課程修了(MBA)。
横河電機株式会社の研究開発部門(R&D)にて産業用ネットワークの研究に従事。MBA取得後、海外マーケティング部にて同社主要製品の海外市場におけるブランド戦略・中期経営計画策定に参画。B2Bブランディングの先駆けとして後に知られるようになったVigilanceという力強いブランドキャンペーンを実施。退職後、株式会社ビズナビ&カンパニーを設立。戦略立案を軸に中小企業の意思決定支援業務を行う。また成長戦略や撤退戦略の手法として中小企業にもM&Aの手法が重要になることを見越し小規模のM&Aに特化した株式会社ビザインを設立。更に、M&Aの普及活動とM&Aアドバイザーの育成を目的に一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)を設立。近年、アナログの世界に傾倒すること、価値を見直すことをテーマに、自ら高級スイス時計のブランドであるパリス・ダコスタ・ハヤシマを設立する現在は、売上規模数十億前後の成長意欲のある経営者と対話と通じた独自のコンサルティング手法を展開。経営者の頭と心のモヤモヤをスッキリさせ方向性を明確にすることを主な生業とする。
【著書・関連図書】
できる人の実践ロジカルシンキング(日経BPムック)
営業マネジャーの教科書(総合法令出版)
ドラッカーが教える実践マーケティング戦略(総合法令出版)
ドラッカーが教える問題解決のエッセンス(総合法令出版)
頭のモヤモヤをスッキリさせる思考術(総合法令出版)
実践『ジョブ理論』(総合法令出版)
この1冊でわかる! M&A実務のプロセスとポイント(中央経済社)
【関連URL】
■YouTube「早嶋聡史のチャンネル」
https://www.youtube.com/user/satoshihayashima/videos
■早嶋聡史の戦略立案コンサルティング
http://www.biznavi.co.jp/consulting/strategy_planning

■早嶋聡史の事業実践塾
http://www.biznavi.co.jp/businessschool

■中小企業のM&Aビザイン
http://www.bizign.jp
■月々1万円で学ぶ未来社長塾
http://www.mirai-boss.com/
■独・英・日の時計好きが高じて立ち上げたスイス時計ブランド
https://www.parris-dacosta-hayashima.com/