■まちづくりの未来と再開発の幻想
このコラムでも何度か、数年前から本格化する東京の大規模再開発の現状を取り上げてきました。
その問題点のポイントになるのが「まちづくり」と「再開発」という、実は似て非なる考え方にあります。どちらかと言えば前者は例えば地方の古い商店街や小規模エリアの「地域再生」イノベーション、後者はゼネコン・行政・不動産ディベロッパー等の連合による「大規模開発」をイメージしますが、今では「まちづくり≒再開発」あるいは「まちづくり発想の再開発」という極めて曖昧なコンセプトの下に、強引な「まち」の破壊と再生が進められています。
例えばGW期間中の渋谷駅構内には、このような意味不明のメッセージが発信されています。
その全文を紹介します。
コピー:「狂おしいほど、愛おしい 偏愛The Shibuya Week 4.28-5.8」
テキスト:偏愛。それは、好きだけじゃ足りない。
詳しいだけじゃ止まらない。狂おしいほど、愛おしいもの。
まさに、その人の一部だと思う。
今年のゴールデンウィークは、ありったけの愛をあふれさせよう。
語り尽くせないほどの好きを分かち合おう。知らない誰かの偏愛に触れてみよう。
だって、ここ渋谷は、
好きを好きと、叫んでいい街ですから。
コロナ規制がマスク以外ほぼ無い状態でスタートしたGW期間中の東京・渋谷に殺到する若者たちが立ち止まることなく素通りする渋谷駅連絡通路に、メッセージとまったく結び付かないヴィジュアルのポスターが大きく張り出されていました。活気があって、刺激に満ちて、ちょっと猥雑なかつての渋谷を大規模破壊してしまった大人(再開発関係者)の気持ちの入っていないお詫びとも受け取れる、空虚なメッセージ広告です。
ちなみに同じようなお詫び広告を、大規模再開発工事エリアの看板に掲出し始めた(メイン写真がソレです)渋谷のお隣「原宿」の行く末も要注目です。
そんな中で、「まちづくり」を「再開発(工事)」の上位概念としっかり位置付けているのが「下北沢」です。
ここ数年、一見地味ながらも静かに工事を進め、気が付くと大きく様変わりしているという絶妙な再開発を成し遂げている下北沢。GW突入前の3月末、京王井の頭線駅から徒歩0分の高架下に新たな商業施設「ミカン下北」がさりげなく開業しました。
※公式サイトより
規模はさほど大きくありませんが、周辺の段階的開発の流れにスムーズに乗っていたせいか、ある意味理想的な「いつの間にか」オープンを成し遂げました。しかも「ミカン」は果物のみかんでは無く「未完」の意味らしく、ちょっと小技なクリエイティヴ感はありますが、その名の通り下北沢という規模感の「まちづくり」の現在進行形な状況を上手く伝えていると思います。
出店テナントの詳細についてはHP等をご覧になっていただきたいのですが、高架下施設にありがちな歩きにくさを解消している導線のつくり方(中央部の開放的な階段)等とても工夫されています。あらためて「下北沢駅界隈」一連の「まちづくり」主体の再開発を考えてみると、私個人が考える「まちづくり必須5か条」が守られていると思います。
①「つぎはぎ」開発が進められている。
②「カオス」が増幅されている。
③「賛否両論」が常に巻き起こっている。
④「時間を掛けよう」としている。
⑤「まち」の主役は「一期一会な人々」である。
詳細は後日あらためてお話しできればと思いますが、上記5か条を基本にそれぞれの地域再開発を進めていけるのなら、もちろん東京の怪しいコンサル会社やプロデューサーが声高に囁く「まちづくり幻想」に惑わされることは決してありません。
以下、推薦図書。「まちづくり幻想」木下斉(SB新書)