※「第20回 吉岩 拓弥さん/株式会社ヤマナミ麺芸社 代表取締役 #1」からの続き
■「麺」コンテンツを軸に多角化にチャレンジ
──製麺事業にも参入されています。きっかけは何だったのでしょうか?
吉岩 製麺所に発注しても、なかなか自分たちが求めるものがつくれなかったという部分が大きいですね。「だったら自分たちでつくった方がいいじゃないか」と考えるようになり、小さな製麺機を購入したんです。以来、あれこれと改良を重ねて、現在では同業のお客様に向けた麺の卸販売や委託開発・製造まで行えるようになりました。
──ヤマナミ麺芸社が手掛ける製麺の強みは何でしょう?
吉岩 九州の製麺所でつくられている麺の多くは、豚骨ラーメン用の細麺です。当社の場合は「つけ麺専用」や「まぜそば専用」など他社にはない麺を手掛けており、おかげで九州内外から多くの引き合いをいただけています。ただし遠方だと物流費が高づいてしまいますから、関西や関東エリアからの依頼は、現地に近い場所にある製麺所と提携して、当社のレシピを提供しています。
──全国行脚で得た「ラーメン店ネットワーク」が活きたのでしょうね。
吉岩 現在は「店舗運営」と「食品製造」の2本柱で事業を展開しています。「麺」というコンテンツを軸に、周辺事業の多角化を始めています。足しげく通った大好きな味を復活させるための事業承継も積極的に行っており、最近では、大分市中津留にあった人気店「芳華」の味を再現した冷麺セットを販売したり、コロナ禍でのれんを下ろした福岡市内の人気ラーメン店「長浜将軍」の復活を手掛けています。また、製麺のノウハウを活かして同業者と広域連携で取り組んでいるのが、パンやカステラの新規事業です。いずれも麺と同じく小麦で出来ていますからね。大分県内では「純生食パン工房HARE/PAN」と「純生カステラ キミとホイップ」を展開しています。
──パンもカステラも異業種かと思ったら、繋がりがあったのですね。
吉岩 パンはラーメンなどの「外食」と異なり、いわばテイクアウトして自宅で食べる「中食」です。これからは中食分野も伸ばしていきたいという考えから取り組みを開始しました。「鉄輪豚まん」のM&Aも「地域に愛される味を守りたい」という想いに加えて、戦略的な意味合いもマッチした結果です。
■グループ力を活かして地域の味を情報発信
──鉄輪豚まんのM&Aに至る想いや経緯をお聞かせください。
吉岩 実を言うと、私は鉄輪の隣にある馬場の生まれです。ですから鉄輪豚まんは小さい時からしょっちゅう食べていました。名前の響きもいいですし、他にはない「おっぱい豚まん」も面白い。代表の後藤美鈴さんたちの考える「鉄輪の文化を伝え、観光につなげたい」という根っこの部分も共感していたので、お話をいただいた時は即答でM&Aに取り組むことを伝えましたね。もともとは有志の皆さんで集まってつくり始めたものなのでレシピなどなく、感覚的なところも多くて難しい部分もありました。でも長く製造に携わっていた方にも入っていただき、非常に心強くも感じました。
──どのように鉄輪文化を伝えていこうとお考えですか?
吉岩 まずは今までと同じ場所で同じ味を展開していくのが第一。これに加えて、当社のグループ力を活かした販路拡大を考えています。2019年に福岡の「樽味屋」という土産用の野菜漬物製造をメインとした食品会社をM&Aで事業を譲受しました。同社は多くの販売ルートを持っているので、いずれは福岡空港や博多駅などで鉄輪や別府のPRができたらと考えています。
──あらためて今後の事業展開について教えてください。
吉岩 当社では年に数回、ラーメン店の開業を目指す人に向けた「プロの為のラーメン学校」を開講し、スープや麺の開発、店舗運営のノウハウなどをサポートしています。私も講師として登壇しています。ちょっと考えると先ほどお話した製麺レシピの提供や、この学校は、将来のライバルを生むかもしれない事業とも受け取れますが、私は「一人で勝つ」時代はもう終わっていると考えます。それぞれの得意なところをシェアしながら、一緒に業界を盛り上げていきたい。そのうえで当社の開発力と技術力、人材力を活かしながら、「九州に特化した麺産業専門の食品メーカー」を目指しています。
──社名に「ヤマナミ」を冠しているので、九州を横断する「やまなみハイウェイ」のイメージが思い浮かびます。
吉岩 まさに「やまなみハイウェイ」のように大分・福岡・熊本をつなぎながら九州にとって欠かせない存在になりたいと強く願っています。当社の企業ロゴは、山と波のデザインから成り立っているのですが、これには「九州からビッグウェーブを起こしたい」という気持ちが込められています。「すべては九州の豊かな未来のために」と掲げる経営理念の実現に向けて、これからもチャレンジし続けます。