[第37回 グリーンエネルギー・前編]
【問い】
脱炭素社会におけるエネルギーの動向はどうなっていますか?
また、その中で日本はどのような役割があり、どのように解決していくのでしょうか?
【方向性】
カーボンニュートラルの動向を把握するためには、世界におけるエネルギーの潮流を見た後、主要国のカーボンニュートラル政策を確認します。その後、カーボンニュートラルに向けた日本の取り組みと技術動向を確認。そこから日本のエネルギー政策の問題点について深堀りした後、理想の姿について考察したいと思います。
【解説】
■世界のエネルギー潮流
世界の主要国は「温暖化対策」と「成長戦略」の両面から、2050年をターニングポイントとして「カーボンニュートラルの達成」に向けて動きだしました。
カーボンニュートラルとは、企業や家庭から出るCO2等温暖化ガスを減らし、森林による吸収などを組み合わせて相殺する考え方です。温暖化対策の国際的な枠組み・パリ協定が2016年に発効され、2020年に適用開始となってから世界は脱炭素化に動き始めました。
世界のエネルギー起源によるCO2の排出量は、2018年推定で約335億トンあります。その内訳は、中国・約28%、米国・約15%、EU+英国・約9%、インド・約7%、ロシア・約5%、日本・約3%、その他・33%です。この数字からみて分かるとおり、経済規模から比較しても既に日本はエネルギー起源によるCO2の排出量が極めて少ない国だという事が分かります。
各国は2050年に「実質ゼロ」に向けて2030年の通過目標を設定しました。日本は2013年比率で46%も下げるという目標を設定しており、ここは大臣の「思い付き」に近い発言で合理性はありません。かなり厳しい設定なのです。
但し、カーボンニュートラル自体が世界的な流れですので、日本はコミットして達成することが必須です。
今後、その背景からグリーンバブルが起き、世界を駆ける脱炭素マネーは3,000兆円規模とも言われ、注目されています。確かに昨今、メディアにおいてESGやカーボンニュートラル、地球温暖化などのワードを聞かない日は無いですよね。
■主要国の脱炭素エネルギー政策
それでは世界各国が脱炭素化推進に、どの程度の政策予算を充てているかを見ていきましょう。
まずEUは、10年間で官民合わせて約120兆円(1兆ユーロ)のグリーンディール投資計画を発表しています。
英国は、2030年までに政府支出約1.7兆円(120億ポンド)をグリーン関連の10分野に投資。さらに30年までにガソリン車の販売禁止、35年までにハイブリット(HV)車の販売禁止を掲げています。
次に米国は、EV普及やエネルギー技術開発など、脱炭素分野に4年間で約210兆円(2兆ドル)を投資。カリフォルニア州では2035年までにHV車含むガソリン車の販売を禁止します。
一方、中国は、EVやFCV等の脱炭素技術の産業育成に注力しており、2020年でも新エネルギー車の補助予算を約4,500億円つけていました。2035年を目途に、新車販売を全てEVとHV車等の環境対応車にシフトしていきます。
そして日本ですが、グリーンイノベーション基金を創設して政府予算を2兆円充て、2035年までには新車販売を電動車(EVやHV)のみにします。なお東京都は、独自に2030年までの新車販売を全て電動車とします。
日本のエネルギー政策は、2011年3月11日の東日本大震災を機に原子力を減らし、化石燃料の比率が一気に高まっているのも注目すべきポイントです。
■カーボンニュートラルに向けた日本の取り組み
脱酸素に向けて、エネルギー関連分野の成長が期待される分野を見ていきましょう。
経済産業省はグリーン成長戦略で14分野を指定し活躍を期待しています。
その内訳は、エネルギー関連産業として、1)養生風力、太陽光、地熱産業、2)水素、燃料アンモニア産業、3)次世代熱エネルギー産業、4)原子力産業です。輸送・製造関連産業として、5)自動車、蓄電産業、6)半導体、情報通信産業、7)船舶産業、8)物流、人流、土木インフラ産業、9)食糧、農林水産業、10)航空機産業、11)カーボンリサイクル、マテリアル産業です。最後に家庭、オフィス関連産業に、12)住宅、建築物産業、次世代電力マネジメント産業、13)資源循環関連産業、14)ライフスタイル関連産業となっています。
■日本の技術動向
脱炭素に関連する論文の数、脱炭素関連技術を持つ企業の両方を見ても、世界的には米国と中国が先端を争っています。
その中で日本は、電池に関する技術、アンモニア燃料や人口光合成、燃料電池車のエリアでは健闘しています。
まずカーボンニュートラルにおいて、電力貯蔵は非常に重要です。
再生可能エネルギーの問題は、時間や天候や季節によって出力が大きく変動してしまうことです。その変動を予測してエネルギーをコントロールすることは難しいため、大量に導入するためには電力貯蔵システムの大量導入が不可欠になってくるのです。
主な電力貯蔵方法は蓄電池以外にもあります。
例えばEDLC(電気二重層コンデンサ)です。これは電気二重層という物理現象を利用しコンデンサで20世紀末からいくつかの分野で導入が始まっていますが、大量貯蔵には向きません。
次に揚水システムです。通常の水力発電にもう一つダムをつくります。電力使用量が少ない時に発電用の水車を逆回転させ、上部の調整池に水をためることで位置エネルギーを蓄積する方法です。これはダムを2つ作るなど、環境保護の観点から大量導入は難しいですね。
このように考えると、電力の貯蔵方法は「蓄電池」と「水素」の2つに収れんすると予測できます。
蓄電池は定置型と全個体の2種類があり、いずれも日本勢は強みがあります。
企業ではトヨタ、富士フィルムHD、日立造船、住友電工、日本ガイシなどが技術を持っています。
■水素エネルギーにおける日本の競争力
一方の水素エネルギーは使用する際にCO2が発生しないという点で、大きな注目を集めています。
水素の製造方法は、グリーン水素として水を再生可能エネルギーで電気分解する方法。ブルー水素やグレー水素として天然ガスや石炭などから水素を取り出す方法があります。ブルー水素の場合、製造時に発生したCO2を回収・貯蔵することで排出を実質ゼロにするのに対して、グレー水素は発生したCO2を大気に放出します。そのため、グレー水素の1kgあたりのコストは1〜2ドル程度と安価で、ブルー水素は2〜3ドル程度。しかしグリーン水素の場合は規模や環境によっては2〜9ドルのコストがかかり、まだ高価です。
製造した水素は、エネルギーとして直接供給する以外は輸送方法が課題になってきます。
現在は水素を化学合成してアンモニアにするか、メチルシクロヘキサンをつくります。アンモニアは水素キャリアとして注目されており、コンパクトなので運搬が可能で、貯蔵が容易です。そのため海上輸送といったエネルギー源として使用される場所において、再び化学反応を活用して水素を供給します。
現在、欧米日中の4カ国を中心に、世界各地域で水素供給網が広がっています。
製造における水素の世界三強は、米国のエアープロダクツ・アンド・ケミカルズ、フランスのエア・リキード、ドイツのリンデです。
国内において、天然ガスからの製造は三菱化工機、水からの製造は旭化成エンジニアリング、日立造船が技術を持っています。貯蔵・運搬では、タンクの技術はJFEコンテイナーと帝人、トルエンと結合する技術は千代田化工建設、液化する技術は川崎重工や川崎汽船が得意です。さらに水素の販売においてはENEOS、岩谷産業が国内のプレーヤーで、水素利用においては発電タービンで三菱パワー、川崎重工、自動車関連ではトヨタやホンダが得意です。
※「第38回グリーンエネルギー・後編」へ続く