第15回 ブロックチェーン その1
■問い
最近時々耳にする、「ブロックチェーン」ってどのような概念で、何に役に立つのでしょうか?
■答え
情報の流通において、どのような二者間でも信頼される第三者に頼ることなく、直接取引できる仕組みを構築することです。
ブロックチェーンはこの概念からスタートしています。今回から2回にわたって概念の解説や事例を通して理解を深めてください。
■解説
今回のブロックチェーンの話題は、「何回聞いても掴みどころが無い」と、感じる方が多いと思います。そこで、技術的な視点にフォーカスするのではなく、その技術の全体像や概略レベル、そしてどのようなビジネスに役立つのかを解説します。
【ビットコインとブロックチェーン】
当初、ブロックチェーンという概念は、ビットコインを実現するための技術でした。ビットコインについて聞いたことがあると思いますが、現在は1日に40万件程度の取引(2019年5月16日現在)がされている仮想通貨です。
そもそも仮想通貨はビットコインを提案した「サトシ・ナカモト論文」がきっかけです。内容に賛同した研究者やプログラマーが開発を行い、2009年に初めて仮想通貨としてビットコインが発行されました。
そこから2017年の年末頃、じわじわと一般にも知れ渡るようになりビットコインのピークを迎え、2017年は仮想通過元年と呼ばれるようになります。この時期に仮想通貨法も制定され、タレントの出川哲朗さんがテレビCMに露出して、ビックカメラでも支払いが可能になりました。当時1BTC(ビットコインの単位)が200万円程度まで高騰し、お茶の間を騒がせました。1年前までは数万円だったので、その投機性でも話題を集めたのです。
しかし2018年にビットコインは暴落します。
そして「コインチェック」から仮想通貨の流出などがニュースに流れ、紙面や雑誌などで頻繁に出てくるデジタルキーワードの一つになり、次第に定着していきます。
近年、ブロックチェーンは仮想通貨以外でも本格運用が始まっています。まずはブロックチェーンの仕組みとメリットとデメリットを紹介します。
【仕組み】
ブロックチェーンは、当初はビットコインを実現するためのシステム基盤(プラットフォーム)でした。しかし汎用性が高く、革新的な技術と概念が多いことから、現在では様々なシステム基盤として活用が注目されています。
ブロックチェーンのポイントは、「どのような二者間でも信頼される第三者に頼ることなく直接取り引きできるようにすること(※2)」です。「信頼される第三者」とは、銀行などを想像するとわかりやすいです。
たとえばAさんがBさんに送金する際、第三者である銀行が間に立ち取引を担保します。しかし、この仕組みは常に第三者に情報を把握されることになってしまい、一極集中システムになります。当然、第三者による手数料も発生します。
サトシ・ナカモト論文は、この第三者の介在がなくても情報をやり取りできる仕組みを提案をしたのです。
これまでAさんからBさんに送金されると、「Aさんのお金からBさんのお金」というように中央で管理されたデータが書き換えられました。
ブロックチェーンでは、データを書き換えるのではなく、データを追記して管理します。
「●月●日にAさんのお金に」+「△月△日にBさんのお金に」というようなイメージです。
つまり、資産やお金そのもの(データ)が誰の資産で、誰から誰に、いつ、どのように資産が移転したかが分かるのです。
さらに、そのデータは不特定多数のコンピューターに重複して共有されます。現在、ビットコインでは3,000台程度のコンピューターが重複して共有していると言われます。
加えてこのシステムでは「中央集権型」のように、誰がリーダーという役割もありません。
不特定多数のコンピューターに重複してデータを書き換えるには、様々な技術的な工夫が必要です。ブロックチェーンでコンセンサスを取る工夫や、データを追記していく仕組みを実現させることは、非常に厄介です。その行動を行うことができた人はビットコインの場合、1回で12.5BTCが得られます。
そしてこの行動を「マイニング」と言います。
マイニングを行うためには膨大なコンピューター処理と技術が必要で、その報酬としてビットコインが得られることから企業や個人の競争が盛んになっています。
これは、いわばゲームセンターで言う「コイン」のイメージです。
膨大な処理と計算の引き換えにコインを発行する権利と管理する業務に参加できます。
ブロックチェーンの世界では、この一連の経済圏のことを「トークンエコノミー」と言います。
【メリットとデメリット】
ブロックチェーンのメリットは、大きく3つあります。
まず、「情報改ざん」について。
ブロックチェーンは、集中管理ではなく不特定多数のコンピューターで情報を管理しているため情報管理コストが下がります。特定の管理組織が不要で手数料等が発生しないからです。更に、不特定多数のコンピューターで管理しているため、一箇所を改ざんしても全てのコンピューターを瞬時に改ざんしなければならず、データ改ざんが困難になるのです。
次に「価値の記録」について。
ブロックチェーンでは、デジタル資産が誰に紐付いているかを容易に管理できるようになります。なぜならデータを書き換えるのではなく、常に新しい情報を前の情報に追加して管理をするからです。そのため価値の移動が担保されます。追記された情報をたどることで、過去の移転の流れが分かるのです。
さらに上記のメリットにより、もし資産が盗まれても実際の所有者を正しく判定することができます。「価値のトレーサビリティ」が担保されることで、きめ細かい価値の分配や管理が実現できるのです。
デメリットも大きく3つあげてみます。
まず、「取引の承認時間」は、情報を不特定多数で共有し、常にデータが追記されるため膨大な処理が必要になります。ちなみに現在のビットコインでは10分以上の時間が必要です。
また、中央集権型で管理していないために生ずるデメリットが、「仕組みの改善」です。これは仕組みそのものを改善する場合、リーダーが不在なため合意形成が難しいからです。ビットコインは、この合意形成が難しいことが背景にあり、考え方の違いなどで分裂しました。結果的に、10以上にも分裂しています。
そして最後に「マイナーの手数料」。マイナーは多大なコストと膨大な処理を行い、マイニングしています。そのため、マイナーに対して手数料を支払うことで処理時間を早くすることが可能です。当然、支払わなくても行えます。大きな金額の決済などでは手数料を払うことを選択するかもしれませんが、少額の決済では手数料が高くつくこともあります。
上記のようなメリットとデメリットを鑑みて、一定の組織の中で閉じたネットワークでのブロックチェーン利用が登場します。
これは「コンソーシアム型ブロックチェーン」と呼ばれています。
コンソーシアム型の期待は、一定の透明性の担保、更に低い運用コストの実現、そして対等な関係の構築です。
例えば、銀行間で対等な立場で価値の取引をする場合、コンソーシアム型のブロックチェーンが現実的な取り組みになります。
今後、ブロックチェーンの普及において技術的な取組が完全に解決されるまでは、プライベートとパブリックの間のコンソーシアム型のブロックチェーンで浸透されると予測されるでしょう。
次回は、ブロックチェーンを用いた様々な事例とブロックチェーンで資本を集める仕組み、ICOについてみていきます。
※1 Satoshi Nakamoto(2008) Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System
参考:向研会 2019年5月「ブロックチェーンのビジネスインパクト」