Appleの創業者のスティーブ・ジョブズ氏は、退学した大学でこっそりカリグラフィ(文字のデザイン)の授業を受講した。そして、美しい画面表示やデザインにこだわってMacintoshやiPodやiPhoneを創り出した。
そのスティーブ・ジョブズ氏に影響を受けた美大出身の2人は、自分たちがシェアしているアパートの居間にエアーベッドと朝食を用意して宿泊者から家賃の足しを得ることを思いついた。
そんなデザイナーの2人、チェスキーとゲビアが卒業して直ぐに、インダストリアルデザイナー協会が主催するイベントが開催された。その際、彼らのアパートの居間を使った宿泊施設のアイデアが、満室でホテルを予約することができない参加者を救うことになる。
彼らは、空いているベッドと朝食を共有するサイトをイベントに提供したのだ。
翌年、ハーバード大学の卒業生でITエンジニアのブレチャジックが加わり、サイトは12年で世界191カ国300万件以上もの物件を仲介するプラットフォームへと成長した。これが『Airbnb』(エアービーアンドビー:通称エアビー)だ。
こうして、彼らのシェアハウスの居間とエアーベッドから始まったサービスAirbnbには、今や豪華なプール付きの邸宅やリノベーションしたホテルまで揃っていて、多くの物件では台所やランドリーなども使えて長期滞在も可能。安価に泊まれる物件から高級な物件まである。家族など数名で滞在するなら、一般的なホテルに泊まる料金の半額以下で利用できる。
Airbnbのインターフェイスは、シンプルで美しくデザインされていて、写真を見て部屋を選ぶことができる。予約は、3回クリックするだけで完了するようにデザインされている。これはスティーブ・ジョブズ氏がiPodを開発した時に、3クリックで曲が手に入るようにデザインさせた逸話に由来している。
そしてAirbnbでは、多くの旅行サイト同様に利用者のレビューが公開されていて、宿泊先を選ぶ際に活用できる。逆に、部屋を提供するオーナーは、過去にトラブルを起こした宿泊希望者の情報をなどを知ることができ、宿泊を拒否することも可能なのだ。
今やAirbnbは世界的に展開しており、のべ1億5,000万人以上が利用している。そして、その旅行客がもたらす経済効果も巨大だ。
日本でも民泊に関する法改定が進み、質の高い物件が増えている。
その物件は、東京や京都などのインバウンド需要が期待できそうな土地から、山間の温泉地や離島にまで広がりつつある。
2018年には、別府市旅館ホテル組合連合会がAirbnbとの提携を発表している。これは、2019年に開催されるラグビーワールドカップに備え、世界中に利用者がいるAirbnbを活用して集客強化を狙ったものでもある。
現在は、こうしたシェアリングエコノミービジネスが急成長している。空室をシェアするAirbnb以外にも、車やドライバーをシェアする『Uber』をはじめ、技術や洋服や農地のシェアサービスまで色々なシェアリングサービスが存在する。
これら、モノや技術などを共有するビジネスが急成長している背景には、インターネットの普及に続くスマートフォンの浸透がある。個人に紐ずくスマートフォンですぐにインターネットに接続できることで、ある程度お互いの信頼感が担保され、余った資産を譲り合うボランタリー経済時代が到来しているのだ。
このボランタリー経済とは、インターネットで距離感がなくなった社会で、ご近所付き合いのように安心できる人どうしが、お互いにモノや時間や技術などを融通し合う社会が来ると予測されていた経済状況だ。
シェアリングエコノミーは、そうした譲り合う時代を加速し拡大している。
『Airbnb』の黎明期に、ホストの家が酷く荒らされたことがあった。
『Airbnb』内では対応について紛糾したという。その際に創業者が、被害者であるホストへ送ろうとしていた手紙に書かれた賠償額に、0を1つ加えたというエピソードが心に残る。
居間のエアーベッドからスタートして、多くの困難を乗り越えビジネスを拡大してきた創業者は、こうした痛みを思い遣る心がシェアリングビジネスに欠かせないことを理解していたのだ。
■毎月更新されるこの連載では、今後時代がどう変化するのか、最先端の動向や技術を基盤に深く読み解ければと思う。
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