第12回 マイクロM&Aの概要
■問い
近年、数百万円で会社を買いました。というような話題や記事を見聞きします。そのようなM&Aは資本を投入することで、期待するリターンを得ることができるのでしょうか?
■答え
キャッシュマシーンのように「資本を入れて終わり」ということはありません。
むしろ多くの場合は、資本を入れた人が自分でその事業をどっぷり回すか、或いはそのような人材をあてがって事業を回すことができなければ、そもそも事業は回りません。
■解説
近年、ネットマッチングが増加していることでM&Aが身近なものになっている。
これは経済活動にとって非常に良いことだと思う。書籍コーナーには『サラリーマンが300万円でM&Aに成功』というようなタイトルも並び、不動産投資のように、「一声投資すれば期待利回りが得られるのでは?」と感じてしまう方も多いのではないだろうか。
しかし、ここは注意が必要だ。
よくよく考えてみると、300万円で買収できる案件は、やはりそれなりの事情があることが通常だ。一般的に紙面で騒がれている大型のM&A案件からすると、上述のような小規模案件は取引価格の桁が小さいし、不動産投資額と比較しても小さいことが分かる。
■マイクロM&AとスモールM&A
今回は小規模M&Aの中で1,000万円以下でも投資可能な案件について、どのようなものなのかを理解するために少し考察してみる。小規模のM&Aの中で、そのようなM&Aを区別するために「マイクロM&A」と表現しよう。ちなみに小規模M&Aの中でも、マイクロM&Aよりも少し規模が大きいM&Aを「スモールM&A」と表現する。
マイクロM&Aの場合、経営者=現場=営業という場合が多い。つまり事業取得をして、仮に売り手(経営者)がいなくなれば、現場が回りにくくなる可能性があるということだ。マイクロM&Aの場合、買い手が事業を自ら運営することが前提となる場合が多い。軽い気持ちで投資をしても、逆に追い銭などが必要になることも十分考えられる。
一方、スモールM&Aの場合は、1,000万円前後から数億円のレンジで売買される案件が多く、株主=経営者の場合が多い。事業運営に直接経営者が関与していなくても現場が回っている案件が多く、売買の成約後、仮に旧経営者が退いてもほとんど現場は機能していく。
正確に言えば案件ごとにすべて条件は異なるが、ここでは敢えて上記のようにマイクロとスモールを極端に整理して考えることにする。スモールM&Aでも、一定期間は従来どおり現場が回る可能性はマイクロM&Aよりも高いが、やはり買い手としてどのように取得事業を運営するかのイメージがなければ、実際のシナジーを得ることは難しい。
■マイクロM&Aの価値算定
マイクロM&Aのイメージを深めるために300万円の案件について考えてみる。企業価値の算定方法に対しては、複数の考え方を複合的に捉えて算定することが一般的だが、今回は資産価値に暖簾(のれん)代を加味する考え方を基本として考えたい。
資産価値とは、その事業を運営するにあたり必要な資産の価値だ。算出する場合は、通常は帳簿に載っている数値ではなく、実際の価値を合理的に算出する。
一般的に、企業を買収する際に買収価格と純資産額には差額が生じ、この分を会計では「暖簾代」として計上する。無形資産の一種になるが、会計的に計上しているに過ぎない。暖簾代は、実際はその企業のブランド価値やこれまでの歴史や知名度などを示す仮想的な資産だ。
一方、試算の方法は簡単ではない。特に小規模のM&Aの場合、大企業や上場企業の価値算定と異なり、前提となる資料が無い。或いは揃っていても精度が低い場合が多い。
そこでマイクロM&Aの場合は、「過去の平均的な収益の何倍」と試算するのが相場だ。現在は2年、特殊な事情がある場合は3年程度が加味さる。
改めて300万円の売買について考えてみよう。
そもそも資産価値がゼロの場合、300万円=過去の平均的な収益の倍数となる。仮に2年分だと年間の収益が150万円で、3年分だと100万円相当だ。マイクロM&Aの場合、個人事業がほとんどなので、ここにはオーナーの給与も含まれている。
仮に資産価値が100万円あれば、200万円が暖簾代になる。この場合は年間の収益の平均が更に厳しく成り65万円〜100万円程度ということになる。
或いは、資産価値が300万円の場合は、収益はトントン、或いは赤字の場合もある。この場合は、その事業を運営するためには毎月いくらかのお金を追い銭として入れる必要もあるのだ。
そう考えると、「300万円で会社を買った」という案件は、基本的に同業者がその業界に明るくて赤字の理由を把握していることになる。或いは、その事業が悪化している理由を確認しており、将来にわたって業績を伸ばしていくイメージが持てているなど、殆どの場合は同業者でかつ、将来の方向性を明確にイメージできている場合に限る。
買い手の経営者にとって、そのような事業を良くするイメージがあれば、赤字の会社が売りに出ていれば、実質無償で引き取ることも可能だ。
結果的に、このような場合は「買収をする」というシナリオは、成功する可能性があるということにつながるのである。