“食”と共に愉しむ地域の歴史と文化
(筑紫亭)
2017年4月、中津市・玖珠町にまたがる広大な景勝地・耶馬渓が、日本遺産に認定されました。日本遺産とは、地域の歴史的魅力や特色を通じて日本文化・伝統を語るストーリーを文化庁が認定するもの。「やばけい遊覧~大地に描いた山水絵巻の道をゆく~」というテーマで認定されたのですが、これには景勝地だけでなく、歴史を語る文化財や、地域で育まれた料理も含まれ、中津のハモ料理や城下町の街並みもセットとなっているのです。
明治34年創業の筑紫亭といえば、国の登録有形文化財に指定されている名建築と、ハモ料理で知られる名料亭。四代目となる土生隆一代表は、その美味しさの秘密を教えてくれました。
「中津のハモは、耶馬溪から流れる山国川の栄養分たっぷりで清らかな水と、豊富なプランクトンや海藻に恵まれた豊前海で育てられた、まさに自然の恵みが宿った産物です。身がほんのりと甘く、一年中楽しめるのですが、鮮度が落ちやすいので毎朝、地元でとれた活きのいいハモを、私が直接目で確かめて仕入れます」
ハモ料理といえば京都が有名ですが、食通に言わせれば中津のハモの方が評価が高いと言われています。その歴史は江戸時代にまでさかのぼるとされ、「骨切り」というハモ料理ならではの調理方法を考案したのも、中津藩の漢方医だったといいます。
「ぜひとも味わっていただきたいのが、オリジナルのハモのしゃぶしゃぶです。ハモがお湯の中で白い花が咲いたようにくるくると巻くと食べどきで、弾力のある食感と繊細な味わいが口の中で広がります」
このようにハモの美味しい食し方を教えてくれるのが、土生かおる女将です。若くして急死した三代目ご主人の志を引き継ぎ、中津の食文化を全国に知らしめた立役者でもあります。
「町の歴史や文化を預かるのが料亭の使命。筑紫亭で日本文化を堪能していただき、私たちが受け継いできた理想の“食”の姿を未来へとつないでいきたい」
福沢諭吉や広瀬淡窓の掛け軸など、随所に飾られている銘品を鑑賞し、歴史・文化・食に思いを馳せてみてはいかがでしょう。