第2回 シェアからアイドルへ

■問い
販売型のビジネスモデルに加えて、近年シェアリング・エコノミーが台頭しています。そして、それらは新たにアイドル型のビジネスに展望を遂げ、独自の経済圏を築いていると聞きます。一体どのようなメカニズムと仕組みによって発展しているのでしょうか?

■答え
これまでのビジネスの常識は、すべての資産を自分たちで保有して経済活動を営むことでした。
しかし2007年頃より本格化したスマート革命によって、資産を全て自前で揃える必要性が薄れてきました。企業であっても、経営資源であるヒト、モノ、カネ、情報を必要なタイミングで必用な量、必要な質を活用する仕組みが整ってきたからです。
これらはシェアリング・エコノミーとして普及していきますが、更に進んでアイドル型のビジネスも急激に伸び始めています。誰かが所有している資産をデータ化することで、必要に応じて使いたい人が活用できるエコシステムが出来上がりつつあるのです。そして、その戦いの中心は米国企業と中国企業に2分され、その世界の覇権を争うようになっています。今後、この動きは世界的に進み、スマフォやクラウドコンピューティングの普及に伴い変化を遂げ、先進国だけではなく未整備の新興国においても同様のアイドル型ビジネスのインフラが普及拡大することが予測できます。
企業の経営者としてはこの動向をしっかりと把握して、正面から対立するのではなく、うまくそのエコシステムを活用しながら自社のビジネスに取り入れることが大切です。その意味でも普段から自前の発想を捨て、シェア型、アイドル型の思想も取り入れることが生き残るためのポイントになります。

■解説
従来のビジネスモデルが「販売」により所有を得るとすれば、「シェア」型は共有するビジネスであり、さらに未利用分をデータベース化して使いたい人とマッチングして有効利用する「アイドル」型のビジネスモデルへと発展していこうとしています。

従来の「販売」の概念は次の通りです。
メーカーが製造したものを業者が仕入れ、販売します。顧客は購入することで、その商品を所有します。例えば車、別荘、自社オフィス、高級バッグ、社員などが相当します。オーナー、もしくは所有する主体者が先に金銭を支払い、その所有権を得るという仕組みです。

次に「シェア」の概念は、業者が所有するものを貸し出します。
顧客は所有せず、必要に応じて使用します。車はカーシェアになり、別荘や自社オフィスなどもシェアするサービスが登場します。宿泊などはホテルから貸別荘になります。高級バッグなど所有が難しかったものでも、既に「ラクサス」のような企業が出てきてシェアできる仕組みを構築しています。若干意味合いは異なるかもしれませんが、人材においても派遣やバイトなどがこれに相当します。

そこから発展した「アイドル」の概念は、もともと誰かが所有していたものを有効活用するためにデータ化し、一元管理します。そして、これらを活用したい人とマッチングさせることで、資源を有効活用するアイデアなのです。
不動産のマッチングは「Airbnbなどが有名です。他にもオフィスや会議室を自由にシェアできるサービスが続出しています。車もカーシェアのモデルがあり、「Uber」などのサービスが勢いをつけています。前述したラクサスでは、他人の所有するバッグをマッチングするサービス「ラクサスX」を開始しています。さらに人材においては、プロジェクトごとや単一の仕事単位でマッチングするクラウドソーシングなどがあげられるでしょう。

現在、世界中で注目される企業に「ユニコーン企業」というグループが存在します。
企業の評価額が10億ドル以上で、非上場のベンチャー企業です。「ユニコーン」とは、ベンチャー企業へ投資を行うベンチャーキャピタルが使い始めた言葉で、世の中に対して巨額の富や便益を提供する企業として注目されています。ユニコーン企業は米国と中国に最も多く、更に内訳を見ると上述したアイドル型のビジネスモデルが中心となっています。今後も様々な領域に出現して、従来のビジネスの仕組みを大きく変えることが予測できます。

近年、そのアイドル型ビジネスモデルが、単に一企業同士をマッチングするだけのビジネスから、マッチング先の周辺ビジネスをどんどん巻き込む姿に変化しています。
例えば、上述した「Uber」や「Lyft」などのライドシェアサービスは当初、一般のドライバーと一般ユーザーを結び付けるマッチングが主のビジネスでした。しかし、現在ではドライバー向けの融資や車の調達、自動車保険の手続き、本人確認、ドライバーや一般乗降客の優劣情報の管理と提供、様々なデータ分析やアドバイスなど、そのビジネスをより行いやすくするための仕組みを丸ごと飲み込んで提供するようになっています。

即ち、これからアイドル型ビジネスが発展すると、その周りの仕組みも徐々にシェア、共有するビジネスモデルへとシフトしていくでしょう。そして従来のエコシステムを構築していたプレーヤーは、徐々にプラットフォームを母体にして、全体のエコシステム構築に参加するようになってきます。当然、この前後でシェア争いや覇権争いがあり、消費者から選択されない企業はゲームから姿を消すようになるのです。その一方で露出する企業は、一気に成長を加速する可能性が高くなると予測されます。

自動車業界を例に考えてみましょう。
これまでのように「販売」が主体だった時代のビジネスの中心は、製造業である自動車会社でした。
しかしアイドル型のビジネスにまでシフトしている今、その主体はライドシェア会社に移行しつつあります。ライドシェア企業をリードするUberにはフォード、ダイムラー、ボルボ、トヨタなどの提携が行われています。一方、ライバルのLyftにもフォード、GMなどの提携が行われています。
そしてこの動きは、将来の自動運転を見越してグーグルの親会社であるアルファベット、アップル社、ソフトバンクグループ、中国のアリババなどが動いており、出資や提携などを視野に入れた交渉が始まっています。
この動きは「Mobility as a Service」と称され、自動車産業がカーシェア、ライドシェアなどのシェアリングに移行していることを表しています。当然、その先には自動運転、公共交通全域の変革、移動手段全般の革新が起き、現在とは全く異なる形式のサービスになることが予測されます。

そもそもこのようなサービスが一気に加速した背景には、2007年頃から始まったスマート革命に起因します。
全世界の人口のほとんどがスマートフォンでのアクセスが可能になり、そのサービスを瞬時に活用できる状況が出来上がりました。これに加え、クラウドコンピューティングやAIなどが自由に活用できるようになり、結果的にサービス設計が容易になり、コストも低減していったのです。
米国でUberがライドシェアのサービスを開始し、同じようなビジネスモデルが瞬時に各地で誕生、拡大してきた背景も、これで理解できますね。

今回は、販売、シェア、アイドル型のビジネスの特徴を見てきました。
経営者として考えるべき点は、このようなアイドル型ビジネスと真っ向勝負するのではなく、そのエコシステムを自社も活用して自社のビジネスに巻き込むことだと、私は考えます。

参考資料:2017年11月 向研会資料アイドルエコノミー2.0、他

profile

早嶋 聡史 氏
(はやしま・さとし)
株式会社ビズナビ&カンパニー 代表取締役社長
株式会社ビザイン 代表取締役パートナー
株式会社エクステンド 取締役
一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会 理事

長崎県立長崎北高等学校、九州大学情報工学部機械システム工学科、オーストラリアボンド大学経営学修士課程修了(MBA)。
横河電機株式会社の研究開発部門(R&D)にて産業用ネットワークの研究に従事。MBA取得後、海外マーケティング部にて同社主要製品の海外市場におけるブランド戦略・中期経営計画策定に参画。B2Bブランディングの先駆けとして後に知られるようになったVigilanceという力強いブランドキャンペーンを実施。退職後、株式会社ビズナビ&カンパニーを設立。戦略立案を軸に中小企業の意思決定支援業務を行う。また成長戦略や撤退戦略の手法として中小企業にもM&Aの手法が重要になることを見越し小規模のM&Aに特化した株式会社ビザインを設立。更に、M&Aの普及活動とM&Aアドバイザーの育成を目的に一般財団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)を設立。現在は、売上規模数十億前後の成長意欲のある経営者と対話と通じた独自のコンサルティング手法を展開。経営者の頭と心のモヤモヤをスッキリさせ方向性を明確にすることを主な生業とする。
【著書・関連図書】
できる人の実践ロジカルシンキング(日経BPムック)
営業マネジャーの教科書(総合法令出版)
ドラッカーが教える実践マーケティング戦略(総合法令出版)
ドラッカーが教える問題解決のエッセンス(総合法令出版)
頭のモヤモヤをスッキリさせる思考術(総合法令出版)
【関連URL】
■早嶋聡史の戦略立案コンサルティング
http://www.biznavi.co.jp/consulting/strategy_planning

■早嶋聡史の事業実践塾
http://www.biznavi.co.jp/businessschool

■中小企業のM&Aビザイン
http://www.bizign.jp