誇り高き家具職人の魂が宿った道具たち
大量生産の低価格製品がならぶ全国展開の店舗や、組み立て式輸入家具を扱う大型店、さらにはインターネットによる販売が広く浸透する家具業界。その一方で、生活に温もりのあるアクセントを求め、高い品質と独創性のあるデザインの家具を求める消費者も、確実に存在しています。リフォームやリノベーションの需要も高まるにつれ、技術力と創造力を身につけた家具職人に寄せられる期待も増えているようです。
有限会社寺司装備は、大分市三川新町に工場を構える家具製造会社です。個人住宅のテーブルや収納家具から玄関建具、店舗内装に至るまでの設計・製造を請け負っています。寺司孝志代表取締役は平成27年に「家具のリフォームを起点に安心安全の住空間」をテーマに経営革新を取得して中古家具のリペア・改造にも力を入れており、同社ならではの技術力を注いだ仕事ぶりを見せています。たとえば長年使われていた古いタンス等も、金具の取替え、塗装直し、引き出しの調整、裏板の隙間埋め等を丁寧に行うことで見違えるほどの仕上がりを見せ、お客様に喜ばれています。
創業者の寺司仙吉相談役は、中学卒業後の15歳から家具業界で働きはじめました。父親と11歳で死別し、残された家族6人を支えるためには、早くから一人前の職人になって、いずれは自分の会社を持つという夢を抱いての船出でした。
地元の家具製造販売店で4年間の修業を経て、家具職人として独立した寺司相談役は、嫁入り家具の製造会社へ入社して和ダンス作りの腕を磨きました。しかし、低価格の家具が台頭しはじめたことにより、同社も流れ作業方式に転換。さらには家具製造をやめて販売会社へと業態転換することになり、ここで寺司相談役は人生初の営業を経験します。
「家具職人として腕をふるえなくなりましたが、いずれ独立した時に役立つと思い、営業経験を積みました」(寺司相談役)
通算して15年間を同社で勤務した後、店舗改装工事の会社へ転職。そして10年後の昭和50年5月には、いよいよ念願であった自らの会社を創業するに至ります。
「35歳で掴んだ夢でした。小さな掘っ建て小屋の事務所からのスタートでしたが、現在は約130坪の工場になっています。今日まで必ずしも順風満帆だったとはいえませんが、後継となる現社長も誇りを持って職人技を磨いています。今の心境は、“明鏡止水”。一点の曇りもない、清々しい気持ちです」
家具職人として独立した時から使い込んできた道具を見ながら、職人人生を振り返る寺司相談役。一線から退きましたが、木工教室等でその技を披露することもあります。
「ものづくりの心は、今も昔も変わりません」
長年培った職人気質は、まだまだ健在です。